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火と時間 ②
神谷は不意にあることを思い出した。
──大学時代。
飲食ベンチャーを起業し、急成長の末に失敗した過去。
焦って出資を集め、仲間を置いて夜逃げ同然で姿を消した。
「早すぎた火」だった。
まだ素材が整っていないのに、一気に炙ってしまった。
結果、すべてが焦げて、崩れた。
「…俺は、“火加減”を知らなかっただけなのかもしれない」
彼は今、ようやく“待つ”ということを学びはじめていた。
「今日の器は、“灰映”という名の皿です」
美咲が差し出した皿は、灰のような色合い。
炎の中で焼かれた跡がそのまま残る、景色のような器だった。
「この皿は、焼成中に割れかけたんです。
でも、炎の“包み”がかかって、奇跡的に保たれました」
「割れかけたのに、使うんですね」
「ええ、割れかけたものにこそ、
“火が救った記憶”が宿るから」
神谷は皿の縁をなぞる。
かすかに歪んだ曲線に、なぜか自分の人生が重なって見えた。
その夜、神谷は自宅のキッチンで、
小鍋に火をかけ、出汁をひいた。
初めて、タイマーを使わずに。
コンロの炎の色を見ながら、
彼は火の「育ち方」をじっと観察していた。
そして、ふと笑う。
──ああ、火にも、時間にも、
“信じて見守る”という選択肢があったんだな。




