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饗の器   作者: 鳳龍麒亀
第四章

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火と時間 ②

神谷は不意にあることを思い出した。

──大学時代。

飲食ベンチャーを起業し、急成長の末に失敗した過去。

焦って出資を集め、仲間を置いて夜逃げ同然で姿を消した。

「早すぎた火」だった。

まだ素材が整っていないのに、一気に炙ってしまった。

結果、すべてが焦げて、崩れた。

「…俺は、“火加減”を知らなかっただけなのかもしれない」

彼は今、ようやく“待つ”ということを学びはじめていた。


「今日の器は、“灰映はいばえ”という名の皿です」

美咲が差し出した皿は、灰のような色合い。

炎の中で焼かれた跡がそのまま残る、景色のような器だった。

「この皿は、焼成中に割れかけたんです。

 でも、炎の“包み”がかかって、奇跡的に保たれました」

「割れかけたのに、使うんですね」

「ええ、割れかけたものにこそ、

 “火が救った記憶”が宿るから」

神谷は皿の縁をなぞる。

かすかに歪んだ曲線に、なぜか自分の人生が重なって見えた。


その夜、神谷は自宅のキッチンで、

小鍋に火をかけ、出汁をひいた。

初めて、タイマーを使わずに。

コンロの炎の色を見ながら、

彼は火の「育ち方」をじっと観察していた。

そして、ふと笑う。

──ああ、火にも、時間にも、

“信じて見守る”という選択肢があったんだな。




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