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砂漠の聖都  作者: 神代奈々
第3章 旅立ち
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祭祀長マギ

 



 身なりを整えたアリフは、レイフに案内されて、昼食の場へ向かった。

 いくつもの立派な回廊を通り抜けた。



 ——なんて広いんだ。

 しかも、同じような景色。



(もう部屋に戻れないな……)




 ようやく着いた。

 レイフが扉をノックし、中へ入る。



「来たな」

 

 ダールがこちらを向いて言った。



 続いて、優しい声がした。


「ようこそ。アリフ」

 


 長く大きなテーブルの向こうに、穏やかな気配をまとった女の人が座っていた。



(わ……。綺麗な人だ……)


 思わず見とれてしまった。



(あの人が祭祀長……。アナ……なんだっけ)


 

 アリフは緊張しながら、ダールの隣に座った。






 アリフの前に、次々とごちそうが並べられた。


 豆を煮潰し、スパイスやレモンを効かせたスープ。

 ウリやトマトをヨーグルトで和えたサラダ。

 焼きナスには、豆とゴマのディップが添えられている。


(いい匂いがする)



「まずは召し上がれ」


 アナ・ラーハが言いおわらないうちに、アリフは手を伸ばした。

 脇で控えているレイフが、じろっと目くばせした。



「ダール様、よく戻ってこられました。感謝申し上げます」


 アナ・ラーハは深々と頭を下げた。



「いえ。アナ殿も、よく耐えられた。今こそ動く時です」


「……では、目星がついたのですね」


「ええ、おそらく……」


「おそらく……? 」




 どんどん食べ進めていくうちに、こんがり焼けた肉が出てきた。

 

 ご飯に乗った野菜と肉のヨーグルトソース煮込みも。




「空の商人の目的は、ダール様の仰った通りでした」


「パギリングは、兵器として狙われています」


「そのためのエサの確保を、イラブール国の都市で……」



 アリフは料理に夢中になっていた。

 腹が満ちるにつれ、ふたりの会話が耳に入ってきた。

 


「アリフ。腹が満ちてきたようだな」


 ダールがアリフのほうへ向き直った。



「そのまま食べていていい。だが、話も聞いていてくれ」


「……はい」



「サラダール国は、戦争をしようとしている」


「……」



 ——ごくり、と口のなかの肉を飲み込んだ。





「聖都を支配しようとしている。

 そのための資金と、正当な理由を——空の商人が集めている」



「騎士も増やされ、準備が進められています」


 アナ・ラーハも言った。




「その中心になっているのが、元騎士団長の……ザディルだ」




「ザディルは聖都信奉者だったの。

 騎士団を使って武力行使に出かねなかった。

 だから王が説き伏せ、辞任させたわ」



「だが聖都を信奉する者たちが、いなくなることはなかった。

 ザディルは密かに、聖都奪還の戦いを企てていた」



 アリフの手は、肉を持ったまま止まっていた。



「空の商人も、騎士団増員も、ワーフの文書館が襲われたのも……。

 ザディルが背後にいる」



「……でも、文書館を襲ったのは、イラブール人だって……」



「それも陰謀の可能性が高い。

 使われていた香炉は、イラブール系のものだった。

 わざわざ自国のものを使う必要はない」


「……」



「文書館の事件は、どんな影響を残した? 」


「……民族の、対立……」



 ダールは頷いた。



「じゃあ、ザディルを捕まえれば……」


「もちろん追っていた。だが、なかなか正体がつかめない」


「ザディルは各都市の聖堂長を、何人か取りこんでいるらしいの」


「聖堂長……」


「騎士団だけじゃない。

 王宮の官吏、祭祀宮の神官の中にも、ザディルと繋がっている者がいるわ。

 油断しないで」


「そして、空の商人も」


「ええ……」

 

 アナ・ラーハはため息をついた。



「空の商人、シンは……」

 

「私の夫なの」




 ……夫?


「そんな……だって、どうして夫なのに……。

 どうして、そんなに戦争をしたがるんですか……」



「……」



「聖都とか、宗教って……争わないためのものじゃないんですか。

 それなのに、そのために争うなんて……」



「アリフのように感じている人も、いるわ」


「私たちもそうだ。仲間はほかにもいる」




 ——ああ、そうか。


 だから、今、俺はここにいるのか。

 だからダール様は、俺を連れてきたのか。



 胸の奥が、熱くなった。






「一気に話を聞かされて、疲れただろう」


 アリフは、レイフに祭祀宮を案内してもらっていた。



「うん……少し」


「俺も、アリフと同じ想いだよ」


 アリフは、レイフを見上げた。



「でも、まったく同じじゃない」


「ん? 」


「同じ想いもあるし、違う想いもある」


「……うん」


「当たりまえだよな。違う人間なんだから」


「……そうだよね」


 マシュアとの話を、思い出した。



「想いが、違いすぎることもある。互いに歩み寄れないくらいに」


「……」


「今のダール様たちと、ザディルたちは、そういう感じじゃないかと思う」


「……レイフ」



「でも、ザディルたちは、自分と違うものをただ排斥しようとしてる。

 ダール様たちは、違うものも受け入れて、折り合いをつけようとしてる。

 ——俺は、そんなふうに感じてる」



「……うん。——そうだよ、レイフ」


「ん? 」



「そうだよ! 俺もそう思う。そっちのほうがいいと思う! 」


「う、うん? 」


「よし、俺も頑張るよ! 」


 ……レイフは、ふっと笑った。





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