巡礼
「サッド!」
面会室へ入ったアリフは一直線にサッドに向かって飛び込んだ。
「わっ! おいおい、アリフ…」
サッドはよろめきながらもアリフを抱きとめた。
「まったく……こんなに大きくなったくせに」
そう言って、頭をくしゃくしゃと撫でた。
……あの聖香祭の夜。
サッドは行方知れずになり、数日後、路地で倒れているところを見つかった。
何があったのかは、誰にも話さなかった。
それ以来、いつも何かに怯えているようになった。
誰かの気配を探るように、落ち着かない。
「アリフ、俺は聖地巡礼に行くことにした」
「えっ…! だって今、戦争が起きそうな、危ない状況なんだろ? 」
「こんな時だからだよ。今、行かないと、チャンスはないかもしれない。
今まで好き勝手に生きてきたからな。せめて一度は行っておきたいんだ」
「サッド…」
アリフはサッドの服をぎゅっと握った。
その手を、離せなかった。
「そんな心配そうな顔すんなよ。もし戦争になっても、国同士の取り決めで、巡礼者たちは守られることになってるんだから」
「…うん」
「聖地巡礼は2,3カ月ほどかかる。
……土産買ってくるから、待ってろよ」
大聖堂から戻ったサッドは、今一度、旅支度を整えた。
いよいよ今夜、聖地巡礼へと旅立つ。
ツアーは、街の宿屋に集合し、そこで一泊。
翌朝、案内人とともに出発する。
この4年、気が休まることはなかった。
4年前のあの日。
気づいたら見知らぬ部屋にいた。
石造りの、倉庫のような場所だった。
壁の上のほうに、小さな明り取りの窓がひとつ。
扉がひとつ。
抜け出そうとしても、扉も窓も、もちろん壁も、びくともしない。
……ザ、ザ。
足音が、近づいてくる。
扉の前で、止まった。
——体が、動かなくなった。
息すら、止まりそうだった。
カタン、と、扉の下にある小窓から、食べ物が差し入れられた。
ザ、ザ、と足音はまた去っていく。
……それが、くり返された。
殺す気はないのか……。
そう思った。
——でも……。
今じゃないのかもしれない。
——そう思うたび、気が狂いそうになった。
ある時、床に転がって眠っていると、突然、扉が開いた。
黒い影がひとつ入ってきて、抵抗する間もなく、殴られた。
——そこで意識が途切れた。
その時、言われた。
『余計なことをするな。いつでもお前を見ている』
——サッドは身震いした。
誰かが、どこかから、自分を見ている……。
今も、この瞬間も。
その感覚から、抜け出せなかった。
宿屋へ行き、ツアーの手続きをすませた。
割り振られた部屋へ行くと、ベッドが四つあった。
すでにふたつのベッドには人がいる。
ひとつのベッドには荷物が置いてある。
サッドは残っていたベッドに腰をおろした。
「……よお」
寝転がっていた髭面の男が、話しかけてきた。
「俺はシザ、よろしくな。こっちはバイル」
もうひとりの背の高い男が、軽く手を挙げた。
「……よろしく。俺はラヒド」
キャラバンの仲間の名前を借りた。
「実は、バイルと俺は、幼馴染でな」
シザは勝手に話し始めた。
「もうひとり、ここのベッドの奴も、そうなんだ」
荷物だけ置いてあるベッドを、顎でしゃくってみせた。
「俺たち三人は、どうしてか気が合ってな。なにをするにも一緒になった。
示し合わせたわけじゃねえのによお。
このツアーだって、俺はひとりで申し込んだ。
それが蓋を開けたらどうだ。三人とも申し込んでて、同じ部屋なんだぜ」
……よく喋る。
「もうひとりは、イードってんだ。……あ、来たぜ」
イードが部屋に入ってきた。
小柄で細身の男だった。
「まあ長い巡礼の旅。よろしくな」




