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砂漠の聖都  作者: 神代奈々
第3章 旅立ち
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巡礼



「サッド!」

 

 面会室へ入ったアリフは一直線にサッドに向かって飛び込んだ。



「わっ! おいおい、アリフ…」

 

 サッドはよろめきながらもアリフを抱きとめた。

 

 

「まったく……こんなに大きくなったくせに」

 

 そう言って、頭をくしゃくしゃと撫でた。

 

 

 

 ……あの聖香祭の夜。

 サッドは行方知れずになり、数日後、路地で倒れているところを見つかった。

 

 何があったのかは、誰にも話さなかった。

  

 それ以来、いつも何かに怯えているようになった。

 誰かの気配を探るように、落ち着かない。 


 

「アリフ、俺は聖地巡礼に行くことにした」

 

 

「えっ…! だって今、戦争が起きそうな、危ない状況なんだろ? 」

 

 

「こんな時だからだよ。今、行かないと、チャンスはないかもしれない。

 今まで好き勝手に生きてきたからな。せめて一度は行っておきたいんだ」

  

 

「サッド…」

 

 アリフはサッドの服をぎゅっと握った。

 その手を、離せなかった。

 


「そんな心配そうな顔すんなよ。もし戦争になっても、国同士の取り決めで、巡礼者たちは守られることになってるんだから」


 

「…うん」

  

 

「聖地巡礼は2,3カ月ほどかかる。

 ……土産買ってくるから、待ってろよ」 

 






 大聖堂から戻ったサッドは、今一度、旅支度を整えた。

 いよいよ今夜、聖地巡礼へと旅立つ。


 ツアーは、街の宿屋に集合し、そこで一泊。

 翌朝、案内人とともに出発する。

 

 


 この4年、気が休まることはなかった。



4年前のあの日。

 気づいたら見知らぬ部屋にいた。

 石造りの、倉庫のような場所だった。


 壁の上のほうに、小さな明り取りの窓がひとつ。

 扉がひとつ。


 抜け出そうとしても、扉も窓も、もちろん壁も、びくともしない。




 ……ザ、ザ。


 足音が、近づいてくる。

 扉の前で、止まった。



 ——体が、動かなくなった。

 息すら、止まりそうだった。




 カタン、と、扉の下にある小窓から、食べ物が差し入れられた。

 ザ、ザ、と足音はまた去っていく。



 ……それが、くり返された。




 殺す気はないのか……。


 そう思った。

 ——でも……。



 今じゃないのかもしれない。


 ——そう思うたび、気が狂いそうになった。


 


 ある時、床に転がって眠っていると、突然、扉が開いた。

 黒い影がひとつ入ってきて、抵抗する間もなく、殴られた。


 ——そこで意識が途切れた。 

 


 その時、言われた。

  

『余計なことをするな。いつでもお前を見ている』

 

 

 

 ——サッドは身震いした。


 

 誰かが、どこかから、自分を見ている……。

 今も、この瞬間も。



 その感覚から、抜け出せなかった。







 宿屋へ行き、ツアーの手続きをすませた。

 割り振られた部屋へ行くと、ベッドが四つあった。


 すでにふたつのベッドには人がいる。

 ひとつのベッドには荷物が置いてある。

 

 サッドは残っていたベッドに腰をおろした。




「……よお」

 

 寝転がっていた髭面の男が、話しかけてきた。



「俺はシザ、よろしくな。こっちはバイル」


 もうひとりの背の高い男が、軽く手を挙げた。



「……よろしく。俺はラヒド」


 キャラバンの仲間の名前を借りた。



「実は、バイルと俺は、幼馴染でな」

 

 シザは勝手に話し始めた。



「もうひとり、ここのベッドの奴も、そうなんだ」


 荷物だけ置いてあるベッドを、顎でしゃくってみせた。


「俺たち三人は、どうしてか気が合ってな。なにをするにも一緒になった。

 示し合わせたわけじゃねえのによお。

 このツアーだって、俺はひとりで申し込んだ。

 それが蓋を開けたらどうだ。三人とも申し込んでて、同じ部屋なんだぜ」



 ……よく喋る。



「もうひとりは、イードってんだ。……あ、来たぜ」



 イードが部屋に入ってきた。

 小柄で細身の男だった。



「まあ長い巡礼の旅。よろしくな」





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