イースター
「ねぇ、やっぱり読み聞かせ会、やらなきゃ駄目?」
「当たり前でしょ? もう、一週間も無いのに。ほら、しゃんとしなさい」
半ば投げやりな余花さんに喝を入れる照葉さん。いつもだいたいこんな感じだが、今回は余花さんの気持ちもよく分かる。
事の始まりはこうだ。
今日もいつもと変わらず、大正の行きつけ喫茶店『花鳥風月』で昼食を頂いていたところ。その間、各々の豆本制作の進捗状況やチラシ作り、その他の役割分担について話をしていた。
すると、どこから聞きつけたのか、あの美人女給さんにとある提案を持ちかけられたのだ。
「せっかく、読み聞かせイベントをするなら、イースターに因んだ催しをするのはどうでしょう? 来週の日曜日はちょうどイースター当日ですし、私も卵料理を振る舞いに行きますよ〜!」
お盆を片手に微笑みかけるその仕草は、まさに女神様のよう。何と神々しいことか。まぁ、それとこれとは話が別で、お受けするのはなかなかに難しい。
「来週って言っても、あと七日しかないじゃない」
「それより、いーすたーって何だったかしら?」
イースター、小耳に挟んだことはあるけれど、実際に何をするかはよく分からず、照葉さん同様にはてなマークが頭を埋め尽くす。
「イースターは、キリストの復活祭なんですよ!」
ざらめさんが云うには、ゲルマン神話の春の女神「Eostre」に由来するそうで、日付は春分の後の最初の満月の次の日曜日。なので、今年は四月四日の日曜日に行われる。
卵の殻にペイントする"イースターエッグ"、それを庭や公園に隠して探す"エッグハント"が有名な遊びらしい。
そして、イースターに因んだ卵料理を頂くと。
「イースターは卵とうさぎがシンボルなので、飾り付けをして、レクリエーションにも持ってこいですよ。私も仕事終わりに手伝いに行きますから! では、ごきげんよう〜」
矢継ぎ早にそう言うと、ざらめさんは笑顔で去って行った。
「豆本制作もまだなのに、ビラ配りに飾り付けって、大変過ぎない? 料理が食べれるのは良いけどさ」
「そうねぇ、催し時間も三十分程度に思っていたけれど、あと一時間は増やさなくちゃ」
あと七日でどこまで進むのやら。にしても、大正に生きているざらめさんが、イースターに詳しいだなんて。現世でも日本ではあまり定着していないので、知っていることにも驚きだったけれど、何よりあのやる気は一体何処から来るのか。
と、まぁ、こんな調子で大正のマドンナざらめさんとも合同で企画を進めることになったのだった。
「フライヤー作りはお任せください! こう見えて、揚げ物と同様、お手の物なんですよ〜」
翌日、一枚のビラを片手にざらめさんが芸亭へやって来た。たった一晩で散らし作りを終えるとは、なかなか大したものだ。
「可愛いイラスト! ざらめさんって絵もお得意なんですね」
よく見ると、可愛いらしいうさぎが三羽並んでいて、それぞれ本を持ってイースターエッグ達に読み聞かせをしている構図らしい。その周りには美味しそうな卵料理が描かれ、お腹を膨らませた紫色のうさぎは横になって眠っている。なるほど、これはざらめさん自身か。ということは赤色のうさぎは余花さん、オレンジは照葉さん、水色は私に見立てて描かれていると。
「確かに、上出来だわ。これに、あとは開催情報を載せて、そのまま刷ってもらいましょう」
照葉さんもキラキラとした眼差しでラフのフライヤーを眺めている。
「それ程でもぉ、あるかな?☆」
「いや、そこは謙遜しなさいよ。それに、あんたが企画したんだがら、飾り付けも最後まで手伝いなさいよね」
「もちろん、そのつもりですよ〜。わざわざシフト代わっていただいたので♪」
今日のざらめさんは紫の袴姿で、いつもより気合十分といった具合にたすき掛けをしている。
開館中の接客は照葉さんに任せ、私と余花さんは休憩室で飾り付けの小道具をちまちまと作成していた。喫茶『花鳥風月』で廃棄されるはずだった卵の殻達は、イースターに因んでパステルカラーに変貌を遂げる。なかなか様になってきたものだ。
絵付けは私が和柄担当、余花さんが洋柄担当で、絵の具を塗られた卵たちはその後、妖火で乾かされる。そして、ニスを塗り光沢が増したところに胡粉や金銀箔をまぶしたりと、趣向を凝らしながら励んでいた。
「可愛い卵ですね〜! 私も幾つか描こうかなぁ♪」
「良いけど、卵だけじゃなくてうさぎもお願いね。粘土を捏ねて、可愛いうさぎを何体か作って欲しいの」
私たちはガーランドやリースに着手していたので、うさぎ作りはざらめさんにお願いする。
「うさぎといえば、胡和ちゃんのところの卯月くん、イースター当日は来られそうですか?」
「卯月かぁ……、あの子そういえば全然顔出さないな。今度、こっちの世界に来たら誘ってみますけど」
あれ? でも、卯月とざらめさんって面識あったっけ。卯月が五都に来たのはこの前の日曜日で最後だったはず。芸亭へ案内してもらい、その後また現世へと帰って行ったのだ。
「私、お裁縫も得意なもので、卯月くんに衣装を作ったんです。本当は私がバニーガールのコスプレをしようかと思ったので」
「絶対辞めてよ、風紀法違反なんだから」
「大丈夫です! 子供達の前ですから、自重します……。その代わり、卯月くんにイースターエッグモチーフの服を着せたら可愛いかと思いまして」
なるほど、マスコット的な感じでイースターの主役になれたら卯月も喜びそうだな。春先の神社は何かと忙しそうなイメージだけれど、白練様に伝言でも頼んでみよう。
「ざらめさんって手先が器用なんですね。羨ましい」
「いえ、暇を持て余していたので、色々と出来るようになっただけですよ」
ざらめさんはそういうと口を噤んだ。丁寧に粘土を成形しては妖火に当てて乾かし、出来たパーツは接着剤で繋ぎ合わせる。
ほんの少しだけ表情が陰って見えたけれど、それも気のせいだったらしい。着々と完成に近付く手元を横目に、私もリース作りの続きをこなして行くのだった。




