10話 旧友との再会、ヒミカとタケフツの場合——
朝、目が覚めるともう大亮が起きて窓際の椅子に座っていた。
何か考え事をしているのか、それとも何も考えていないのか、ただ頬杖をついてボーっと外を眺めていた。
元々何を考えているのかわからない奴だが、今の大亮は特に不思議な雰囲気を纏っていて、なんというかとても儚く見えた。
「おはよう、一真」
「あ、ああ。おはよう」
大亮は外を眺めたまま俺に挨拶を投げかける。
そしてそれ以降は特に何も語りかけず、またボーっとし始めた。
(何か悩み事か?)
「大亮、なんかあったのか?」
俺は隣で眠るタケフツさんを起こさない程度のボリュームで大亮に語りかけた。
意外にもタケフツさんは朝に弱く、目覚めるのはいつも彼が最後だ。
「んー、家族の事とか色々考え事してた。緑園祭も、皆で来てみたかったなとか」
「……そっか」
大亮がこういった事を語るのは初めてな気がする。
家族の話自体は以前からしていたが、こんな風に寂しそうに家族の事を話すのは俺が知る限り初めてだ。
「一真、今日はどこか行く?」
「ああ、タケフツさんとヒミカと一緒に辺りを回るよ。お前も来るだろ?」
「ごめん、久しぶりだし色々見て回りたいんだ。一緒にいたら連れ回しちゃうから、そっちはそっちで楽しんで来てよ」
さっきの物憂げな顔が頭にチラつく。
大亮は今、一人になりたいんじゃないかとか、ホームシックになっているんじゃないかとか色々考えて、俺は自然と「わかった」と返事をしていた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
そんなわけで、俺は今タケフツさんとヒミカについてソウエンで一番大きな研究所へとやって来ていた。
魔術の研究をしているだけあって、かなり頑丈そうなレンガ造りの棟がいくつも並んでおり、中々に壮観だ。
しかし、ソウエンに来てから高天ヶ原のイメージが崩れまくりだが、ここに来るまでにチラっと見かけた学校やこの研究機関などは、俺がいた世界の大学やら専門学校やらに似ていて、自分が今異世界にいるのだということを忘れさせる。
さて、何故研究所に俺たちがいるのかというと、理由は簡単。
ここにヒミカの学園時代の友人がいるのだ。
タケフツさんとも知り合いらしい。
「ククリ、元気にしてるかしら」
「また研究に没頭しすぎて不健康な生活していそうだがな」
「……あり得るわね」
俺たちはある棟に足を踏み入れ、そのまま奥へと進んでいく。
ソウエンには様々な人種がいると聞いていた通り、途中何度か猫耳の美女や狼の獣人などとすれ違い、俺は内心興奮していた。
昨日から何度か獣人は見かけていたが、そのたびにやはりここは異世界なのだと実感する。
「えーっと……あ、あったあった。この部屋ね」
やがてヒミカは、ある部屋の前で足を止める。
そしてその扉の横にある呼び鈴らしきボタンを押した。
しかし、何度か押しても中からの反応は無かった。
「……留守かしら? いや……」
そう言ってヒミカが扉の取っ手に手をかけると、鍵が開いていたようですんなりと開いた。
留守ならば不用心だが、中にいるということだろうか。
「ククリー? 入るわよー?」
……言う前にもう入ってるけどな。
さすがヒミカと言うべきか。
「邪魔するぞ」
「お邪魔しまー……おおう……」
……まさに研究者の部屋、といった感じだ。
本や資料らしき紙が至る所に散らばっていて、はっきり言って汚い。
足の踏み場はあるし、ゴミやらを放置したりはしていないようだが、整理整頓が苦手なのだろうか。
「クークーリー? いるんでしょー?」
がさっ、と部屋の奥から音が聞こえた。
窓際のソファの上、丸まった毛布がうごめいている。
「んー、誰ー?」
「ククリ! そこにいたのね」
ヒミカがばっと毛布を剥ぎ取ると、中から金髪をボサボサに伸ばした女性が現れた。
シャツ一枚に、下はかなり短いショートパンツ風の恰好で正直目のやり場に困る。
……体の発育は進んでいないのか、ヒミカよりかなり年下に見えるし、胸もぺったんこだ。
「……おー、ヒミカー。久しぶりー」
「久しぶり! 半年ぶりくらいじゃない?」
「それくらいになるねー。とりあえず乳揉ませろやー」
ふよんっ。
「やっ……ちょ、ちょっとククリ!」
「ええやろ? ここがええんやろ?」
ふにふにふに……。
「んっ……あっ……ク、ククリ! いい加減にしなさい」
「ククリ、人の妹を弄ぶな」
「おー、タケフツも久しぶりー」
ククリと呼ばれた小さな女性は、眠そうな目(元々そういう目なのかもしれない)でタケフツさんを見て挨拶を交わす。
しかしヒミカの胸をいやらしく、指先で何かを転がすように揉む手の動きは止めなかった。
……何を転がしてるかは知らないけど。し、知らないもんね!
「ちょ、ちょっと兄さんククリを止めて……」
「……おう」
先ほどからヒミカがククリの手を払おうとしているが、ククリはヒミカの体にタコのように絡みつき、振りほどくことが出来そうにない。
すまないヒミカ、俺に出来ることは見守ることだけだ。
決して見ていたいわけではない。
「そーれぃ」
「あーれぃ」
タケフツさんに引きはがされ、やっとククリの魔の手からヒミカは逃れることが出来た。
危なかった。もう少し続けられていたら俺は前屈みにならざるを得なかったからな!
ヒミカから引きはがされ、ククリはボリボリと自分の頭を掻き始めた。
しばらくボーっとしていたが、やがて俺を視界に捉える。
「んー? だぁれ?」
「あ、どうも……タケフツさんとヒミカの知り合いで秋沢一真です」
「やぁやぁどうも~。リクドウ・ククリですよ~」
俺たちは自己紹介して握手を交わす。
……なんというか大亮っぽい空気を感じるなこの人。
トリッキーというかコミカルというか。
……この人は若干エロに特化しているようだが。
ぜひそのスタイルを貫いていってほしい。
「ククリまたしばらくここに泊まってるの?」
「っていうか何か月もここに暮らしてる。お風呂も増設した。外出るのめんどい」
すげえな。行動力のある引きこもりかい。
「トイレもあるしお風呂もあるし、ごはん以外基本ここから出ない」
「出なさいよ……腐るわよ」
「人間死なないと中々腐らない」
「友達がその前例になるとか嫌よ私……」
その後、一通りヒミカとタケフツさんと話をしたククリは「お風呂入る」と唐突に告げて浴室へと消えていった。
……俺がいるのにシャツをその場で脱ごうとしたのは驚いた。慌ててヒミカが止めたけど。
これが、俺とククリとの出会いだった。




