第7話 商人と魔王
聖遺物を入手した翌日。
俺はセルマと共に、王都の街を歩いていた。
「……こうして見ると、結構広いな」
「きっと王に献上する為、尽力したのでしょう」
貴様、とか言ってきてたけど。
「ゲーム画面で見るのとは全然違うな」
「げーむ……ですか?」
「いや、なんでもない」
セルマたち英雄も、ここがゲームの世界という認識はないか。
王城から出て、実際に街を歩いてみる。
商店。
工房。
宿屋。
市場。
そして、街を行き交う人々。
王国を支配した。
そう聞けば大層なことをしたように思えるが、こうして歩いていると、昨日までここで暮らしていた人々の生活がそのまま続いているだけだった。
「セルマ」
「はい」
「この国の商会って、どれくらいある?」
「王都だけでも、かなりの数がございます」
「じゃあ、まずはそこからだな」
俺は王令によって、代表者を王城へ呼び出した。
◇◆◇
「――お呼びに預かり、参上いたしました」
謁見の間。
目の前には、何人もの商人が並んでいる。
この国を拠点として商売を続けていた者。
他国から商品を持ち込んでいた者。
中には、国が変わったことで商売を続けられるのか不安そうな顔をしている者もいた。
「そんなに緊張しなくていいよ」
俺がそう言うと、商人たちは互いに顔を見合わせた。
「俺が聞きたいのは、この国で何を売って、何を買っていたのか。それだけ」
「……それだけ、でございますか?」
「うん」
セルマが横から補足する。
「王は、今後の商業活動について確認なさっているのです。早く答えろ」
「……な、なるほど」
「それと、他国の商人についても」
「はい」
俺は一人ずつ話を聞いていく。
どこから来たのか。
何を扱っているのか。
どの国と取引しているのか。
この国で何を仕入れているのか。
どんな商品が不足しているのか。
ゲームでは数字でしか見なかった情報。
それを今は、人間から直接聞いている。
現在の世界の需要、それを商人という専門家から知れるのはデカい。
「……面白いな」
「何がでしょう?」
「いや。こういうのも国家運営なんだなって」
セルマは少しだけ目を細めた。
なんか嬉しいそうだな。
「ええ。王がこれから国を大きくするのであれば、避けては通れないでしょう」
「だよな」
俺は目の前に並ぶ商人たちを見渡す。
「じゃあ、まずは――」
国を動かす。
そのための一歩を、ここから始めよう。
俺は商人たちを見渡す。
「この国を拠点にしていた商会は、今まで通り営業していい」
「……!」
「ただし、扱っている商品の一覧と、仕入先、販売先をまとめて提出してほしい。あと、倉庫にある在庫も全部だ」
「承知いたしました!」
「それから、他国から来ている商人」
「は、はい!」
「お前たちは、一度国に帰ってもらう」
「……え?」
商人たちがざわめく。
「勘違いするなよ。追放とかじゃない」
俺は手を振った。
「今回の国の混乱が落ち着くまで、一度帰国してもらうだけだ。その代わり、帰ったら俺たちの国が今後も商売相手として信用できて、国に異変はなかったってことを伝えてほしい」
「それは……」
「もちろん、今後の交易は禁止しない。むしろ、こっちから買いたいものもある」
商人たちの表情が少し変わった。
「食料、鉱石、魔道具。それと、この国で不足しているものがあれば教えてくれ」
「かしこまりました!」
「あと、国内の商人には――」
俺はセルマを見る。
「商業ギルド……みたいな組織はある?」
「ございます」
「じゃあ、そこに商人を集めて、国が必要としている物資を優先的に流してもらおう」
「具体的には?」
「食料と資材。それから魔力関連の商品」
「承知しました」
セルマはすぐに頷いた。
「では、商会ごとに担当を割り振ります」
「うん。あと、税金についても一旦見直そう」
「税を、ですか?」
「今まで通り取ると、国が変わったばかりなのに商人から金を吸い上げることになるだろ」
俺は少し考える。
「当面は大きく変えない。ただし、国への物資供給に協力する商会には優遇措置を出す」
「なるほど……」
「商人が儲かれば、国にも金が入る。だったら、無理に絞るより回した方がいい」
ゲームなら、商業施設の数値を見て終わりだったんだけど、この世界では違う。
商人にも生活がある。
仕入先にも、従業員にも、家族にも。
「……セルマ」
「はい」
「これ、結構大変だな」
「ええ。ですから私がおります」
「頼りになるなぁ」
「お任せください、王」
こうして、俺はこの国で初めての本格的な商業政策を決めた。
まずは国内の生産を安定させる。
そして他国との交易路を確保する。
相手を魅了しているからこそ、堂々と弱みを見せれて、相手に頼れる。
このまま英雄を召喚するための資源を貯めながら――。
この国そのものを、強くしていく。
うん、くっそ面白いな。
パンソヴは、まだ俺を離してくれないらしい。




