③コンビニで買いまくるアツシ
その時、午後四時を告げるチャイムが遠くから聴こえた。
すると、女の子がソワソワしだした。
「もう帰らないと……。じゃあね、クロエちゃん、おじさん」
女の子が、手を振りながら去って行く。
その姿が見えなくなると、アツシはニヤリと悪魔の笑みを浮かべ、お年玉袋を開けた。
中には二千円が入っていた。
「何だよ、二千円ぽっちかよ。……まあいいか」
少ないとはいえ、無一文のアツシにとっては大事な臨時収入だ。
子猫が入った段ボールを草むらに放置すると、向かった先は駅前のコンビニだ。
音痴な鼻歌を歌いながら歩くこと十分後、アツシはコンビニに到着する。
店内に入ると、肉まん・焼き鳥・コロッケ・スナック菓子・発泡酒・エロ本と、欲望の赴くままに買い漁った。
あっという間に、残金は四百円になってしまった。
コンビニから出ると、さっそく熱々の肉まんに練り辛子を付け、かじりつく。
ふわふわの生地と濃厚な豚ひき肉、そして辛子が舌の上で混ざり合い、うっとりするほど美味しい。
アツシは無意識に、ウマウマと唸っていた。
残りを口の中にねじ込むと、プシュッと発泡酒を開け、喉に流し込む。
泡立つ黄金水が、五臓六腑に染み渡った。
「あうぅぅ……きくぜ!」
久しぶりの発泡酒に、全身が痺れた。
思わぬご馳走に、意気揚々と帰っていると、か細い子猫の鳴き声が聞こえた。
長く伸びた影の向こうに目をやると、元いた公園に戻っていた。
「……あ、さっき捨てた子猫か」
アツシが近づくと、子猫は人の気配を感じたようだ。
段ボールの中をカリカリと爪で引っ掻き、助けを求めるように、大きな鳴き声を出した。
その時だった。
——ん?
あれ?
なんか……。
どこかで見たような……。
アツシは、前にもこんな事があったような気がした。
そう言えば子供の頃、同じように段ボールに入れられた子猫を拾った記憶がある……。
丁度、こんな廃れた公園だった。
無性に胸がざわめきだす。
アツシは目を細めて、記憶を辿った。
あれは小学校二年生の時だった。
公園で三毛柄の子猫を拾って家に帰ると、母親の再婚相手である岡野健作が怒りだしたのだ。
「こんな汚いもの拾ってくるな!」と取り上げ、窓から子猫を投げ捨てたのだ。
アツシはすぐに外へ出て、子猫を探したが、もうその姿はなかった。
次の日、その子猫は道端で死んでいた。
「ふわあ……」
翌朝、起床したアツシが阿保な顔をして欠伸をする。
お尻をボリボリ掻きながら、向かった先は一階の奥にある物置部屋だ。
ドアを開けると、そこにはパイプ椅子が乱雑に積まれている。
その奥にある数枚のタオルの中から、黒い子猫が飛び出して来た。
「ニャア、ニャア、ニャア!」
「うるせえな。餌やるから静かにしろよ!」
結局、アツシはクロエを引き取る事にした。
残りの四百円で、子猫用のミルクとドライフードを買ってあげたのだ。
クロエは小さな尻尾を立てて、カリカリと懸命に食べている。
その後ろ姿を見つめるアツシは、かつて子供の頃に父親に捨てられた、あの子猫の姿と重ね合わせていた。
——クロエが物置部屋にいるのは、柳が快諾してくれたからだった。
「ペットも大切な家族ですからね」
昨日の夕方、柳に子猫の話をすると彼はそう言ってくれた。
もちろん、面倒見の良い彼の事だ。
そう無下に断る事は無いだろうと踏んではいた。
だがまさか、こうもあっさり了承してくれるとは、正直驚いた。
緊張していたアツシの顔がほころぶと、柳は付け加えた。
「ただ衛生面もあるので、猫ちゃんは別室に居てもらいますよ」
「あ、はい……」
「あと、餌やトイレは谷森さんが用意して下さいね」
「そ、それは、もちろん……」
こうしてクロエを、避難所に置いておく事が出来たのだ。
つづく……




