最終話 ひなと潤
ついに『叛気の神職』、最終回を迎えました!
前話、因習の土地神『どおんけ様』を討ち果たしたものの、ひなは力尽き、命の灯火が消えかけようとしていました。
救急車も間に合わない極限のタイムリミットの中、潤が下した「最後の選択」とは――。
二人の旅路の結末を、ぜひ最後まで見届けていただければ幸いです!
身体から熱が落ちていくのがわかる。
私の熱は液体になって地面に落ちていく。
潤が私の傷口を押さえながら何かを叫んでいる。
強い眠気に襲われながらもなんとかギリギリ意識を保つ。
きっとこのまま寝てしまったら死んでしまうんだろう。
せっかくどおんけ様を潤が倒してくれたのに、このまま私も死んでしまうなんて最悪すぎる。
「おい!ひな!目を開けろ!」
気がつかないうちに目を閉じてしまっていたらしい。
なんとか頑張って重い瞼を上げる。
「・・・・・・潤。やったね・・・」
「おう、ちゃんと倒したぞ。もう全部完了だ」
「・・・よかった」
なんとか力を振り絞り、潤に向けて勝利のグーを突き出した。
潤はふっと笑って私のグーにコツンと拳を合わせる。
胸いっぱいに満足感が広がる。
直後、瞼が急に重くなった。
潤が私の肩を強く揺する。
「潤、よかった・・・」
「くそ・・・ひな、ちょっと待ってろ」
そう言うと潤は優しく私の頭をなで、傷口から手を離した。
パンーーー パンーーー
2度手を叩く音が周囲に響く。
そして頭に入ってこない文字列で祝詞らしき言葉を唱え始めた。
すると私の寝ている周囲がボウッと光り始めた。
すごく暖かく、心地の良い光に包まれる。
シュッ
すると何かを切り裂いた音がして潤が私の傷口に手を重ねる。
光の暖かさとは別の熱が傷口に伝ってくる。
潤が祝詞の奏上を再開する。
すると私の周囲にあった心地よい熱が傷に集まりはじめた。
「ん・・・ぐっ・・・」
「ひな、絶対助けるからな」
苦しむ私を励ましながら奏上は続く。
祝詞の奏上が終わった。
パンーーー
潤がひとつ手を叩くと、私の周囲にあった熱の最後の一滴が傷口に吸い込まれた感覚があった。
お腹からの痛みは完全に無くなっており、ゆっくりと目を開けた。
「ひな、大丈夫か?」
「ふふ、潤のこんな焦った顔初めて見た」
「お前のことは、必ず守るって言ったろ?」
ニコリと私に笑顔を投げかけ、そのまま力尽きるように倒れた。
「潤!!」
そう言って潤の方へ重心を移すと、今度は私のほうも意識が遠のいた。
潤の胸にうつぶせで重なるような形で倒れ込み、そのまま意識が無くなった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「んっ・・・」
「えっ、ここどこ!?」
目が覚めるとカーテンの仕切りの中にあるベッドで目を覚ました。
すると右のカーテンが突然開き、
「目が覚めたと思ったら、うるせーなぁ」
「潤!」
「うわっ、わめっーー」
カーテンの向こうにはベッドに横になっている潤が居た。
私は急に嬉しくなり、潤の首に飛びついてしまった。
「いつつつつ」
「ん?」
脇腹を痛がっている?
ある直感が働き、病院の検査着姿の潤の服を勢いよくめくり上げた。
そこには刃物で刺されたような細長い傷が潤の脇腹にあり、痛々しい縫い傷があらわになった。
「わ、お前、やめろ!」
潤に言われるが無視だ。
次に私の脇腹を見た。
傷ひとつない綺麗な脇腹だ。
そう、潤のこの傷は本来私の方になくてはならない傷なのだ。
薄れる意識の中、潤は最後の力を振り絞り私の傷を自分に移したのだ。
「潤・・・これ・・・」
「まぁ、言ったしな」
「?」
「お前はまだ高校生だし、大人の責任ってやつだ」
「バカ」
感謝の気持ちが胸に広がると同時に、申し訳なさにも包まれる。
私なんかのために命をかけてくれたのが、ひしひしと伝わってくる。
目に大粒の涙がたまり、溢れ始めた。
こんなところで泣くなんて子供みたいですぐ止めたいのに止まらない。
次々に涙が頬を流れ、ベッドに落ちていく。
すると潤が私の頭を撫でながら、
「ほんと、お前が元気に目を覚ましてよかった」
「それで潤が死んだら意味ないじゃん!」
「俺は人より頑丈なんだよ」
「バカ!!」
騒ぎを聞きつけた看護師さんがお医者さんと一緒に病室にやってきた。
「目が覚めましたね。ご自分のお名前言えますか?」
「・・・?はい、藤原ひなです」
「ご年齢は?」
「17です」
「なんで病院に居るかわかりますか?」
「はい、村で化け物に襲われて・・・」
怪訝そうな顔をするお医者さん。
確かにそうだ、あの村でのことがあり得なさすぎて気づかなかった。
普通は化け物に襲われたと言ったら頭がおかしいと思われる。
「んー、皆さん全く同じことおっしゃってるんですよね。集団催眠か・・・」
「ひな!ほんと良かった!!」
「お父さん!?」
何やらブツブツ独り言を言い出した医者と入れ替わりでお父さんが私のそばに駆け寄る。
「よかったー」
「え!?なんでここに!?」
「娘が入院するんだ、当たり前だろ!」
「どこも痛いところはないか?」
「うん、潤が守ってくれた」
「そうかーー。」
お父さんが真剣な顔で潤の方を見る。
「また助けられてしまったな」
「ま、仕事ですから」
「ふっ、変わらんな。・・・それでも感謝する。ありがとう」
「じゃぁ、上乗せお願いしますね」
少し緊張した顔をしていたお父さんが、いつもの優しい顔に戻った。
そして私の顔を見て、
「二人ともあと1日検査入院だそうだ。私は手続きをしてくる」
そういうと踵を返し病室を後にした。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
次の日、私たちは病院を後にした。
潤の軽トラも無事に帰ってきて上機嫌だ。
父が私をしつこく車で送ると言ってきたが断った。
なぜかって?
だって私の席は、潤の助手席だから。
夏の日差しが車内に入り込み、とにかく暑い。
病院でもらったうちわでパタパタと扇いでいるとカーラジオからニュースが流れてきた。
『・・・村は突然の土砂崩れにより、現在村人の捜索が続いておりますーー』
『現在行方不明の方は、黒沢・・・・・・』
バチンッ
潤がくわえタバコでチャンネルを換えた。
「ねぇ、どおんけ様ってなんだったんだろうね」
「土地神だったんだろ」
「あんな化け物が!?」
「ま、紙一重って事だ」
「そんなもんかぁ。」
「それよりも・・・」
潤が左手で自分のポケットをゴソゴソと探りチケットを2枚取り出した。
「ほれ、お前のオヤジさんがくれたぞ」
「え!?カニじゃん!」
「おうよ、東京戻ったらカニ食いにいくぞ」
「やったー!打ち上げ打ち上げ!」
思いもよらない良いニュースにテンションをあげながら、
潤と二人、ボロい軽トラで元の日常へ帰っていくのであった。
『叛気の神職』、最後までお読みいただき本当にありがとうございました!
ひなを救うため、自分の体に傷を移すという大人の責任を躊躇なく選んだ潤。そして、いつもの軽トラの助手席で「カニの約束」を果たすひな。
ぶっきらぼうだけど頼れるプロの神職と、今どきギャルなヒロインの凸凹コンビが、最後に最高の日常へと帰っていく姿を描き切ることができました。
本作はこれにて【完結】となります!
ここまで二人の物語を一緒に走り抜け、応援してくださった読者の皆様のおかげで、無事に最終回を迎えることができました。本当に、感謝の気持ちでいっぱいです。
もし「最高のハッピーエンドだった!」「潤のギャップが最後まで格好良かった!」「カニ食べられてよかったね!」と思ってくださった方は、ぜひページ下部の、【ブックマークに追加】や評価を★★★★★にしていただけると、今後の執筆活動のこれ以上ない励みになります!
また、一言でも感想や、完結レビューなどをいただけましたら飛び跳ねて喜びます。
それでは、また次の作品でお会いしましょう!
本当にありがとうございました!!




