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Lords od destrunction  作者: 珠玉の一品
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殲滅



 二百八十六体のモンスターを引き連れた幼女が、つまらなそうに大きく顔を歪める。

 今すぐにその問題を解消したい彼女であったが、その胸に思い描く主君の笑顔がそれを許してはくれない。

 だが決して、彼女はモンスターの案内自体に不満がある訳ではない。引き連れているモンスター達の会話に不満が募っているのだ。


「っていうかあの少年、やけに態度が大きかったよね」


「そんなこと言ったら失礼だよ。こうして安息の地へ向かえるのも、彼の好意があったからこそ。感謝すべきだね」


 一切後ろを振り向かずに進むベンヌとキャラケンダが、しきりにウンウンと小さく頷く。

 本当は今すぐにでもその醜悪な(ツラ)をぶっ飛ばしてやりたいところだが、彼女が怒りに任せてその可愛らしい拳を振り抜けば、彼等の頭骨が爆散することは想像に難くない。

 だから彼女はグッと我慢する。


「えぇー、でも徒歩だよ、徒歩? ちょっと有り得なくない?」


「だけど彼の言う通り、疲労は全く感じないな。やはり体の構造が変わった所為なのか? 鈴木さんは疲れた?」


「疲れるとか疲れないじゃなくて、優しさが足りないっていうか、一言で言えば段取りが悪い?」


「彼にも色々あったんだよ。今は先ず目的地を目指そう」


 日も西に大きく傾き、夕闇が迫りつつある草原で、鈴木の愚痴を受けた佐藤が苦笑を浮かべる。

 彼も徒歩での移動に不満が無い訳ではなかったが、この人数に宛がうだけの車両を用意するなど現実的には困難だろう。

 理解は出来る。だが得心がいかない。そんな想いを素直に言葉で紡ぐ鈴木を見ながら、佐藤はふと昨日までの自分の心情を思い出していた。

 五里霧の中を進むが如き、大きな不安に苛まれて震える小さな自分。光の差し込まない暗闇で只管に蹲る自分を大きな手で導いてくれたのは、自分よりも小さく幼い絶世の美少年だった。


「はぁ……。元の世界に帰りたいなー」


「す、鈴木さん! その話題は此処ではちょっと」


「あ、そういえばそんなこと言ってたわね」


 少年から注意されたことを既に忘れている鈴木が、大きな溜息とともに禁句を口にする。

 慌てて止める佐藤だったが時既に遅し。興味を引かれたベンヌが、聞き耳を立てながらチラチラと後ろを伺っていた。


「しかし……シューベルトかー。まさか彼が魔王なんてことはないよね?」


「魔王? なんで?」


 迷う素振りを一瞬さえ見せずに、即座に鈴木が聞き返す。

 そしてその言葉に同期するかのようにベンヌの耳がピクリと動いた。


「中学校の頃だったかな? 音楽の授業で聞かなかった?」


「中学校? 音楽?」


 チューがっこう? その言葉を小さな脳内で転がしたベンヌが小首を傾げる。

 どんな勉強をするのか興味津々の彼女だったが、いかがわしい事しか想像出来ていない彼女は、素直に言葉の意味を尋ねることが出来ない。


「ホラ、音楽室に肖像画が貼ってあったでしょ? 天パで眼鏡かけた音楽家」


「あー、あの変な顔のおっさんね。で、なんで魔王なの?」


 マジで判らないのだろう。真顔の鈴木が首を傾げる。

 一瞬だけ硬直する佐藤だったが、彼は苦笑を浮かべた後で悩みのない彼女へと優しく説明した。


「そのシューベルトの代表曲? が"魔王"なんだよ」


「ああ! お父さん、お父さん、聞こえないーのー? ってヤツね!」


「そうそう」


 言いたいことがやっと通じた佐藤が、ホッとしたような安堵の表情を見せる。

 だがそんな彼等の前で、ベンヌは腕組みしながら眉間に皺を寄せて必死に首を捻っていた。

 何故、お父さんが魔王なのか? いやそれよりも、どうやって主君が魔王であることを見抜いたのか? ベンヌには全く判らない。主君が魔王であることなど、何一つ匂わせていないのだから。

 だからベンヌは慎重かつ大胆に問い掛けてみる。何故主君が魔王であることを見抜けたのか、と。


「な、ななな、何故そう思ったのよ?」


「え? 何が?」


「カ、カカ、あ……シューベルト様が魔王だと、何故そう思ったか聞いているかしら」


「あー、説明するのはちょっと難しいかな。俺達にとって、その名前は聞き覚えがあるんだよ」


 少なからぬ疎外感を味わいながらも、釈然としないベンヌとキャラケンダが押し黙る。

 この下等生物には通じて、自分達には通じない主君の名前の由来。

 嫉妬に似た炎の揺らめきを感じながらも、彼女達は冷静さを取り戻すかのように大きく息を吸い込んだ。


「っていうか、なんかお腹すかない? ねぇ、そこのメイドさん。ご飯はまだですか?」


「わたし、でしょうか?」


「え? あなた以外にメイドさんって居ないですよね?」


「し、失礼だよ、鈴木さん。すみません、セッコクさん。でもそろそろ夕暮れですよね?」


 鈴木の不躾な要求に、キャラケンダが怪訝そうな顔で振り向く。

 表情に喜怒哀楽が感じられない彼女ではあるが、今は誰が見ても不機嫌であることは間違いない。

 キャラケンダが醸す冷やかな空気を感じて、佐藤はその凍てつきを溶かすように必死に話題を逸らしていた。


「……そうですね。では、そろそろ夕食にしましょうか?」


「あ、ああ。助かるよ。それで夕飯の後はこの場に野営するのかな?」


「いえ、食事が終わった後も、引き続き夜通しで歩きますが?」


 それが何か? と言わんばかりのキャラケンダが、不思議そうに小首を傾げた。

 先頭を歩く佐藤が止まったことで次第に集団を形成し始める一同だったが、最後尾のモンスターはまだ遥か後方を歩いている。

 そんな中、同じく先頭を歩いていた鈴木が目を見開いて、静かに佇むキャラケンダへと食って掛かった。


「は!? 冗談でしょ?」


「いえ、冗談ではありません。我々は一刻も早く主君……いえ、シューベルト様の下へと戻りたいのです。貴方達の体力に問題はないはず。エスタブリッシュまでは懸命に歩みを進めて下さい」


「ちょ、ちょっと待って! そんなの無茶苦茶でしょ!? それって虐待よ、虐待!」


「虐待……? あなたの言っていることが判りません」


 夜通し歩くことがどうして虐待になるのか。問題意識が皆無のキャラケンダには、鈴木の言っていることが理解出来ない。

 そんな彼女が思ったことはただ一つだけ。この女、とにかく煩い、と。

 そして鈴木は自分の意を汲んで貰えないことに苛立ちを覚えて、言い争いに無抵抗なキャラケンダへと詰め寄り始めた。


「あなたの主君? から教わらなかったの? 人を夜通し歩かせるなんて、常識が無さ過ぎるって!」


「ちょ、ちょっと、鈴木さん!」


「シューベルト様からは、そのように下らない無意味なことは教わっていません。それに……あなたは"人"ではないのでは?」


「な!? し、失礼でしょ! 主君が主君なら、メイドもメイドね! あんな精神年齢だけがおっさんのガキから聞かされるのは、どうせ下らないY談くらいなもんでしょ!」

 

 無表情を貫くキャラケンダに怒りを爆発させた鈴木が、彼女を指差しながら更に一歩前へと歩み出た。


「……あんな――ガキ?」


 拳を硬く握りしめたキャラケンダが、その美しい腕と唇をワナワナと震えさせる。

 その様子を目敏く見つけた鈴木は、見下すように鼻で嗤いないがらキャラケンダの心情を逆撫でた。


「そうよ、あんなのクソガキよ! ガキのくせして態度はデカイし――」


 ザシュ!


 右手の指をキャラケンダへと突き出し、左手を腰に据えて勝ち誇るように喚く鈴木が、彼女の敬愛する主君をこき下ろそうとした瞬間に言葉を詰まらせる。

 いや、詰まらせたのではない。続く言葉を発することが出来なかったのだ。

 彼女の頭が、それを支える体から永遠に離れてしまったから。


「お前……ちょっと煩いかしら」


「す、鈴木さん!! き、君はなんてことを……」


「は? 何か問題でも? その煩い女を安息の地へと送ってやっただけなのよ」


「確かに彼女の発言は酷かった。けど! 殺されるほどじゃなかっただろ!?」


 突然鈴木へと襲い掛かった死を目の当たりにして、佐藤は混乱しながらもベンヌへと恨み言を述べる。

 彼の常識に照らし合わせれば、いくら失礼なことを言ったとしても、即座に殺されるのはあまりにも理不尽なのだ。

 そんな彼の考えに同意するかのように、彼を取り囲むモンスター達にざわめきが広がっていく。


「わらわが敬愛して止まない至高の存在を冒涜するなんて、百回死んでも足りないかしら。それとも、お前も後を追いたいかしら?」


「き、君は……悪魔なのか!?」


「悪魔はアスタロトなのよ。わらわは違うかしら。で、黙るの? 死ぬの?」


「君には心が無いのか!? ここが、痛まないのか!?」


 左胸をドンッと叩いた佐藤が、牙を剥いて悲痛な胸の内を叫び出す。

 首の無くなった彼女を正直あまり良く思っていなかったが、流石に半月も一緒に暮らしていれば同情心が芽生えるのも人情。

 そんな佐藤を見守っている集団は、時間の経過とともに次第に増えていく。


「何故そんなところが痛むのよ。特にダメージは受けていないかしら」


「……そうか。すまないが、君とはこれ以上一緒には居られない」


「そうなのよ? じゃ死ぬかしら」


 微笑を浮かべたベンヌが、何処からともなく黒い扇を取り出した。

 赤い紋様が禍々しさを引き立たせているが、それが何の道具か佐藤には判らない。


「すまないが死んでもやれない。だから抵抗させて貰う」


 ベンヌをキッと睨んだ佐藤が、突然振り返って両手を掲げた。


「みんな、聞いてくれ! 今、鈴木さんが殺された! コイツらは敵だ!!」


「な、なに……彼女達は敵なのか?」

「え……嘘でしょ」

「俺達は騙されたのか?」

「でも確かに俺は見たぞ! あの気の強いねーちゃんが、そこの嬢ちゃんに殺されたのを!」


「そうだ! 彼女達は敵だ! だから皆戦え! 自分の身は自分で守るんだ!!」


 佐藤の怒声へと呼応するかのように、ざわめきの波が次第に広がっていく。

 その波紋は最終的に大きなうねりとなり、驚愕や殺意に染まった視線が次々とベンヌに突き刺さっていった。


「二百八十五対二だ。逃げた方が良いんじゃないか?」


「逃げる? 何故わらわが逃げるのよ。御託は良いから掛かって来くるかしら」


「凄い自信だな……。幼女を甚振るのは趣味じゃないが、逃げないのであれば倒すしかない。悪いな」


「ふーん。まあ、頑張るかしら」


 ベンヌの死を確信した佐藤が、ゆっくりと右手を掲げて彼女へと突き出す。

 首を傾げてその様子を伺うベンヌだったが、目の前のマンティコアが何をするかに興味を覚えて、彼女は彼の挙動を暫く見守ることにする。


「シューベルトから倣った技だ。受け取ってくれ。――<火の玉(ファイアーボール)>!」


 彼が慎重に練り上げた魔法の詠唱が、その右手を赤々と染め上げていく。

 直径十cmの魔法陣が輝きを増しその光が中央へ集束すると、輝きを増した直径三十cmの火の玉がベンヌへと射出される。

 それはカミュに見せたものよりも二回りは大きく、その威力は当時の記憶を遥かに凌駕していた。


 シュッ!


 そして、彼の放った渾身の<火の玉(ファイアーボール)>は、ベンヌの一閃によりにいとも簡単に打ち消される。

 魔鉱扇での薙ぎ払いにより霧散した赤い霧が晴れると、そこには首から上がスッキリとした佐藤の身体だけが残されていた。

 そして佐藤の身体は、糸が切れた人形のように地面へと一気に引き寄せられていく。


「ひ、ひぃいぃぃ!!」


「初級魔法? バカにされてるかしら?」


「いえ、おそらくは本気の一撃でしょう。相手がガウスやカールであれば、致命傷となる威力だったかと」


「い、一撃だと!? 本当にあの女がやったのか!?」

「体質的に首が取れ易かったんじゃないのか?」

「ど、どうする。おい! どうする!?」


 化け物を見るような目で平常運転のベンヌとキャラケンダを見つめながら、モンスター達は今後の善後策を相談し始める。

 戦闘が始まってから相談を始めるとは随分と暢気でおめでたい生き物だと、ベンヌとキャラケンダは不思議な感覚に包まれるが、彼女達は決して口には出さなかった。何故なら時間の無駄だから。

 未だ混乱に陥るモンスターを見下しながら、ベンヌは彼等の命を抱き締めるように高々と右手を掲げ、自分を抱き締めるように左手を(かざ)して発した。


「<二倍体化(ディプロイド)><爆炎(フレアボム)>、<三倍体化(トリプリケート)><火の(リフューザル)拒絶(オブフレイム)>」


「お気遣いありがとうございます」


 一礼したキャラケンダを横目に見ながら、ベンヌは目の前に構築された火の防壁を確かめる。爆炎(フレアボム)の威力からキャラケンダを守れるよう、態々三倍体化(トリプリケート)させて作った障壁だ。流石に瑕疵は見当たらない。

 自慢の防壁の完成から程なくして、直径六十cmの凶悪な魔法陣から爆炎が吹き上がる。その獄炎の竜は呆然と立ち竦むモンスター達を次々と飲み込み、僅か数秒の間に三百弱の無抵抗な敵を悉く焼き尽くしていった。

 その禍々しさは地獄の業火を集めたように強烈であり、その醜悪さは見る者全てに忌避感と嫌悪感を与えるほどだ。


「たった一撃で死ぬなんて、雑魚過ぎて話にならないかしら」


「まさか此処まで弱いとは……予想外過ぎてわたしも驚いています」


 屍すら焼き尽くした凄惨な光景を見つめるベンヌの胸元で、何かが一瞬だけキラリと光った。


「?」


 薄い胸元に手を差し入れて取り出したのは、神々しく輝きながらも淡い紫に染まる玉璧。

 首を傾げて璧を確かめようとしたベンヌの顔を、隣に佇むキャラケンダがスッと覗き込んだ。


「どうかされましたか?」


「ん? ああ、カミュ様からお預かりした璧が光ったのよ」


「お預かりした時よりも、色が濃くなった気がしますね」


「そ、そうなのよ? わらわはお役に立てたかしら」


 璧を両手で抱き締めたベンヌが、キャラケンダを見上げて恐々と訊ねる。

 主君からお預かりしたその璧は、現在ほぼ全ての力を失っている状態だ。

 本来であれば至極色に染まる魔国の至宝なのだが、今やその外観は淡い紫に留まっている。


「勿論にございます。ベンヌ様」


「ふふっ」


 優しく微笑むキャラケンダへと、照れるベンヌが嬉しそうに微笑み返す。

 玉璧が色を増したことは即ち、魔力が補充されたという証だ。

 二名は玉璧の糧となった者達の影を見つめながら、その場に転がる三百弱の魔石へと意識を移した。


「面倒なのよ」


「……わたしが集めましょう」


「でも随分と小さいかしら」


「そうですね……通常の魔石よりも大分小さいですね」


 己級のモンスターであるマンティコアならば、その体内から取り出されるのは三十cm級の魔石のはず。

 だが焼け焦げた地面に転がるのは、通常の半分の大きさしかない、直径僅か十五cmの魔石であった。

 当然ながら、魔石が圧縮されて小さくなった訳ではない。


「あの弱さは、この小さな魔石のせい……?」


「それ以前の問題のような気もしますが……。ベンヌ様に対して正面から戦うなど、正気の沙汰ではありません」


「その考え、まあ当然かしら」


 しゃがみ込んで魔石を拾い集めるキャラケンダを見ながら、ベンヌは満更でもなさそうにフンッと鼻を鳴らした。

 この先彼女を待ち受ける大きな問題は、この状況をどうやって上手く主君へと説明するか。

 ベンヌはキャラケンダの作業を静かに見守りながら、多種多様な言い訳をこれでもかと必死に思い浮かべていた。


「……キャラケンダ! この状況をどうやって説明するかしら!」


「ありのままをお伝えするのがよろしいかと!」


 頭脳的な集中力が長く続かないベンヌは、当然のようにキャラケンダへと問題を丸投げする。

 魔石集めに精を出しているキャラケンダとは少し距離がある為、当然ながらその質問は腹の底から捻り出した大声での遠距離会話だ。


「ありのまま? それが判らないから相談なのよ!」


「襲われた! そう仰れば良いのです!」


「何故わらわが襲われるかしら!?」


「ですから! それは言い訳です! そう説明すれば、カミュ様がお怒りになることはありません!!」


 首を傾げるベンヌに一抹の不安を感じながらも、キャラケンダは必要なことだけを端的に伝える。

 彼女の思考回路には被害者を演じるという演算機能が付いていないようで、キャラケンダが意図することは一向に伝わらない。

 結論に至れないそんなベンヌを思考的猶予という名の単なる放置で突き放し、キャラケンダは黙々と貧弱な魔石を拾い続けた。


「わらわは襲われて、貞操を奪われたのよ!?」


「いえ、そこまでは言っていません! 襲い掛かられて、撃退したと仰って下さい!」


「それなら良いかしら! わらわ理解したのよ!」


「では、もし念話があった際はそのようにお伝え下さい!!」


 どこまで妄想が膨らんでしまったのか、ベンヌがその見た目に似合わない想像を捲し立てる。

 ベンヌが襲われて貞操を奪われるなど、聞く者が聞けば噴飯レベルの大爆笑なのは間違いない。

 やっと納得したベンヌの姿に安堵を覚えて、キャラケンダは作業スピードを一段階UPさせた。


「さて、暇なのよ」


 キャラケンダとの会話を終えたベンヌが、目の前に横たわる元鈴木の腹を割いて魔石を取り出す。

 その魔石も例に漏れず通常よりも小さな魔石だ。

 その魔石を手に取って暫く眺めていたベンヌだったが、ふと気付いたように魔石へと魔力を注ぎ始めた。


「<属性付与エンチャント・アトリビュート>!」


 目の前の小さな魔石へと右手を突き出し、ベンヌは魔訶のために詠唱する。

 彼女の手の先から七色の荒々しい光が射出されると、その光の奔流は渦を巻いて魔石へとぶつかり、弾けながらも魔石全体を七色に包み込んでいった。

 作るのは爆炎石。己級の魔石であればギリギリ作れる範囲。のはずだったが、何故か手元の魔石は魔訶されることなくボロボロに崩れていく。


「……おや?」


 ベンヌは首を傾げながら、今も零れ落ちる手元の砂を見つめ続けた。

 通常の魔石とは決定的に何かが違う。だがそれが何かは判らない。

 考えるのが面倒になった彼女は、未だ作業を続けるキャラケンダへと実験の続行を委託する。


「キャラケンダ! 一つだけ魔訶するかしら!」


「え!? この魔石をですか!?」


「他に何を魔訶するのよ!? その魔石に決まっているかしら!」


「は、はい! 承知しました」


 その場で立ち上がったキャラケンダが、魔石の一つに向かって詠唱を始めた。


「<属性付与エンチャント・アトリビュート>!」


 彼女の手の先から七色の荒々しい光が射出されると、その光の奔流は渦を巻いて魔石へとぶつかり、弾けながらも魔石全体を七色に包み込んでいく。

 作るのは吸収石。己級の魔石であればギリギリ作れる範囲のはずだったが、先程と同じ様に手元の魔石は何故か魔訶されることなくボロボロに崩れていった。


「あ、あれ!? 失敗しました! もう一度やってみましょうか!?」


「もう良いかしら! わらわもさっき失敗したのよ!」


 予想通りの失敗に納得したベンヌは、手元に残った砂を大地へと撒き戻した。

 手元を見ながら暫く立ち竦んでいたキャラケンダだったが、何かを察したのか無表情ながらも顎へと指を置いて小さく頷く。

 そして作業を続けるべくキャラケンダがその場にしゃがみ込むと、彼女を見守っていたベンヌの下へと主君から念話が届くのだった。






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