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Lords od destrunction  作者: 珠玉の一品
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胃痛



 白さを増しながら東の空を駆け上がる朝日に照らされて、カミュの立つ場所から遥か西を二体のバイコーンと百体のディアブロが土煙を上げながら近付いて来る。

 二体のバイコーンにはそれぞれ仮面を付けたメイド服の女性が騎乗し、馬具も無しで器用に魔獣を乗りこなしていた。というよりも乗っけられていると言った方が適切だろうか? 絵面的にその遊ばれている様は正に圧巻である。

 大きな馬体に小さな騎乗者。多少バランスの悪そうな騎乗ではあるが、彼女達は昨夜遅くに送り出した配下達に間違いないはず。だがその姿には何処と無い奇妙な違和感が滲んでいた。


「バチとビマシタラが戻ったようだが……何処か変だ」


 大量の魔獣を見つめながら、カミュは首を傾げて訝しむ。

 何かがおかしい。だが何がおかしいのか判らない。そんな残尿感のような不快感を残したまま、カミュは目を凝らして西の大地を見つめ続ける。


「何が変なのでしょうか?」


「断言は出来ないが、彼女達ではない気がするな……」


 カミュと同じ方向を必死に見つめるラゴが、バッという擬音とともに鋭く顔の向きを変える。

 主君は何を言っているのだろうか? 彼女達でなければ一体誰だと言うのか? そんな疑問を口には出さずに、疑念を丸出しにした表情でラゴは主君の横顔をそっと伺う。


「バイコーンの背に乗りディアブロ達を引率できるのは、彼女達をおいて他にはないでしょう」


「そのはずなんだが……何がおかしいんだ? んーーーあ、背が縮んだのか?」


「……背が縮んだ??」


 要領を得ない主君の観察結果を聞いたラゴは、首を傾げながら首を傾げ続けるカミュを見つめる。

 この方は一体何を言っているのだろうか? 魔力の使い過ぎで少々疲れているのではないか? そんなモヤッとした感情が彼女の仮面を包み込んでいった。


「んーーー気の所為ではないと思うんだが、メイド服の胸とお腹の部分が異常に弛んでいる気がする」


「服が……弛んでいる? のですか?」


「それに、ビマシタラの胸が異常なほど無くなっているしな」


「胸が……無くなっている!?」


 女性の胸から乳が消える。

 そのあまりにも有り得ない状況に、ラゴは驚愕の声を上げて主君をガン見してしまう。

 世界七不思議の一つにも数えられる謎現象がまさか自分の目の前で起こるなんて。石化のように硬直したままラゴは黙って主君を見守った。


「いや、胸だけじゃなく顔も縮んでいるな。というか別人だろ? アレ」


「……別人? ま、まさか!?」


「間違い無いな。バチでもビマシタラでも無い。彼女達よりかなり小柄な誰かだ」


「そ、そんな……」


 主君の命を受けてエスタブリッシュへと戻り、魔獣達を連れて戻るはずだった彼女達。それが主君の命を違えたばかりか別人と入れ替わっているという驚愕の事実。

 そのあまりの衝撃に立ち眩みしたラゴが、仮面の上から額を抑えて一歩だけ後退った。


「で、ですが、エスタブリッシュにはビマシタラよりも背の低い魔族はおりません。い、一体誰が……?」


 ラゴを心配そうに見つめていたキャラケンダが、西へと視線を移して大きな独り言を語り出した。

 謎に包まれた女性が二名。バチの衣装を着た何者かは、見ようによってはバチに見えなくもない。だがビマシタラの衣装を着た何者かの姿は、その着崩れた感じがあまりにも酷かった。

 本当に変装する気があるのか。そんな疑問が浮かぶほどに、彼女のコーディネートは常軌を逸していた。


「因みに、ビマシタラよりも身長が小さいのは誰が居るんだ?」


「女性に限定すれば、ベンヌ・オシリス様、サリア様、ラウフェイ、シピュレ、カルラの五名ですね」


「男性では?」


「カメオウ様とシグルドです」


 突然の質問に小首を傾げながらも、キャラケンダは主君の顔を覗き込みなつつ記憶を辿る。

 何故、今更その質問なのか。彼女は主君の真意を量り知れないまま続く言葉をジッと待ち続けた。


「あれはベンヌとサリアだな」


「何故お判りになるのですか?」


「シグルドは異形の者だな? それにカメオウはフィードアバン、ラウフェイはドワーフのところだ。シピュレとカルラはどうか知らんが、彼女達を力で制圧可能なのはその二名しか居ないだろう」


「なるほど……その通りにございます。ですが一体何故お二方が?」


 キャラケンダの素朴な疑問にカミュが肩を竦める。


「さぁな。本人に聞くのが早いだろう」


「そう……ですね」


 上位者である道主から何らかの圧力があったのだろうと聞き、安堵感で漸く立ち直ったラゴがキャラケンダとともに西を見つめる。

 あと暫くすれば彼女達は此処に到着するだろう。

 衣装と仮面と役目を奪われたバチとビマシタラがどうなったのか、ラゴはそのことが何よりも気掛かりだった。




 そして数分後、二体のバイコーンと百体のディアブロがカミュの眼前へと到着する。

 バイコーンから飛び降りたのは、バチの衣装を着たバチよりも身長がやや低めの女性と、ビマシタラの衣装を着たビマシタラよりも頭一つ分だけ小さい女性だった。

 動作だけはやたら張り切っているように見えるが、その表情は仮面に隠されて伺うことが出来ない。


「ご苦労。それでお前達は何者だ?」


「な、何を仰っておられるのですか? 我はバチです」

「わ、わらわはビマシタラかしら。あ、ビマシタラです」


「サリア様、ベンヌ・オシリス様、この格好は一体?」


「な、なにを言っているかしら? わらわはビマシタラなのよ」

「そそ、そうじゃ。これがビマシタラで我はバチなのじゃ!」


 本当に隠すつもりがあるのだろうか? 彼女達はその特徴的な口調を一切変えることなく、自分達が件の両名であると必死に主張する。

 サリアの方はまだ良い。だがベンヌの方は服がだぶだぶ過ぎて、エプロンの位置が酷いことになっていた。見ようによっては、あまりにも酷い短足である。


「は、ハァ……そうでございますか」


 呆れ顔のラゴが困ったような視線をカミュへと送る。

 とにかくこの場を納めて欲しいのだろう。仮面の下の素顔を垣間見ることは出来ないが、その困ったような瞳がカミュには何故か幻視された。

 そしてフゥと溜息を溢したカミュが、二名へと向けていた視線をラゴへと戻す。


「ラゴ。お前にはコードネームを与えていたな? 覚えているか?」


「勿論にございます。(わたくし)めのコードネームは玉簾(たますだれ)です」


「そうだ。その通りだな。ではバチ、お前のコードネームは何だ?」


「こ、こーどねいむ??」


 小首を傾げた自称バチが、その密度の低い頭の上にクエスチョンマークを浮かべながらウンウンと唸り始めた。

 自称バチは暫くの間必死に左右へと首を捻っていたが、悩み切れないのか自称ビマシタラを見つめたまま押し黙ってしまう。おそらくだが、考えるのを諦めたのだろう。


「ではビマシタラ、お前はどうだ?」


「わ、わらわにございますか? え、えっと――」


 困り果てた自称ビマシタラが、唖然としたままのラゴをそっと伺う。だが視線を感じたラゴは処置なしとばかりに首を左右に振るだけだ。


「もう良い。仮面を取れ」


「で、ですが……」


「お前達は私の命が聞けないのか?」


「「い、いえ!!」」


 背筋をピンッと伸ばした二名が、すぐさま仮面を取って頭を垂れた。


「お前がサリアで、お前がベンヌだな?」


 バチの衣装を着ているのは、少女と言っても差支えない相貌の美少女。普段であれば黒を基調としたゴシックロリータの衣装にスレンダーなその身を包み、首元の大きなリボンで可愛らしさを強調しているのだが、今は微妙にサイズの合わないメイド服を纏って胸とお腹の部分に皺と余力を残している。

 そしてビマシタラの衣装をブカブカに着こなしているのは、幼女と言うべき相貌の可愛らしい女の子。普段であればトリコロールの華麗なドレスに身を包み、涼し気な瞳を深紅に染めているのだが、今や生存していることさえ冗談だと思わせるような、派手に着崩した世界的にも斬新な着こなしを披露していた。


「「はい、お久しぶりにございます」」


「うむ……久しぶりだな」


 片膝を付く二名を前に、何故かカミュの歯切れが悪い。久し振りという言葉に何か思うことがあるのだろうか?


「それでお前達は何故ここに来たんだ?」


「そ、それは……どうしてもカミュ様へお会いしたかったからです!」

「そ、そうなのじゃ! 我もカミュ様に一目お会いしたかったのです!」


「ふむ――」


 拳の上に顎を乗せて、カミュが暫く考え込む。

 本来であれば命令無視の独断専行を厳しく咎める必要があるだろう。

 だがカミュは何故かその一歩を踏み出すことが出来なかった。


「――そうか。本来であれば直ぐに強制送還すべきなのだろうが、お前達の忠誠心に免じて今回だけは不問にしてやろう」


「「あ、ありがとうございます!!」」


 二名の瞳が奇麗にキラキラと輝く。

 そして自身と二名の間に、確かに何かが繋がるような感覚がカミュを襲う。おそらくラインが繋がったのだろう。

 その結果を受けてカミュは密かに思った。その忠誠、随分安いな……と。


「それで、彼女達はどうしているんだ?」


「え? どうしている? あ、バチとビマシタラでしょうか?」


「あぁ。その服は彼女達のものなんだろう?」


「そういえば……下着姿で泣いてましたね」


 それが何か? とでも言わんばかりに、サリアが鬼のような答えをカウンター気味に繰り出した。


「ハァ……。やはり呼び戻した方が良いのか?」


 疲れきった表情のカミュが自然に大きな独り言を溢す。

 その様子を心配そうに見つめたベンヌが、不安を拭いきれずに恐々と主君へ尋ねる。


「彼女達を呼び戻すのですか?」


「うむ……私の命を完遂出来ずに半裸で落ち込んでいるんだ。可哀相だろう?」


「わ、わらわ達はどうなるのですか?」


「彼女達と入れ替わりで戻って貰うしかないだろうな」


 途端にベンヌとサリアの顔が真っ青になった。

 バチとビマシタラを呼び戻す。即ち彼女達の凶行が白日の下へと晒されるということ。

 更に自分達のエスタブリッシュへの強制送還。即ちアスタロトは勿論、ゴルトとカールの大説教が待つ地獄の世界。それは彼女達の精神が破壊されかねない、危険極まりない重大な判決だった。


「そ、それだけはお許しください!!」


 ベンヌが涙ながらにカミュの足へと縋りつく。


「い、嫌なのじゃ! あそこに戻るのは嫌なのじゃー!!」


 サリアも負けじとカミュの足に縋りつく。

 右足にはベンヌ、左足にはサリア。号泣する若い配下達を困った苦笑で見つめながら、カミュはローブについたベンヌの鼻水をそっと<蘇生(ブレッシング)>で消し去った。


「だ、そうだ。どうする? ラゴ」


「そうですね……」


 先ほどまで泣いていたはずのベンヌとサリアが、困惑の中で深く悩むラゴを主君から見えないようにキッと睨み付ける。


「うっ! ……仕方ありません。(わたくし)めがディアブロを引き連れて戻りましょう」


「そ、そうかしら! 流石はラゴなのよ!」

「うむ。やっぱりラゴは気が利くのじゃ!」


「良いのか?」


「はい、問題ございません。ではベンヌ・オシリス様、サリア様、彼女達の衣装を返して下さい」


 高速で縦に首を振った二名が、その場ですぐさまメイド服を脱ぎだした。

 嬉しさのあまり羞恥心という名の恥じらいを忘れているようだが、隠すべきところはしっかり隠して欲しいとカミュは思う。

 だが間違っても、見た目とは似合わぬその際どい下着に興味が湧いたのでは決してない。どちらかと言えばラゴの仮面の下にある素顔の方が、余程気になる程度の食指が動かない生着替えだった。


「お前達……着替えはもう少し場所を選べ」


「え? お気に召しませんか?」

「無論、カミュ様以外の男には絶対に見せませんが?」


「一体何のサービスだ……まぁ良い。ラゴ、服を受け取ったら荷物を回収して帰還してくれ」


「畏まりました」


 何処からか取り出した自前の衣装に着替えた二名へと、カミュが辟易の表情を向けて溜息を一つ吐く。

 脱ぎ散らかされた衣装を奇麗に畳んでいたキャラケンダは、新たな主君からの命を受託したラゴへとそっと衣装を手渡す。

 決意を新たにして引き締まるラゴの表情。その面持ちに安堵を覚えたカミュが、今後の方針を配下達へと伝える。


「ではラゴ。エスタブリッシュへの帰還と同時に、バチとビマシタラのフォローをしてくれ」


「お任せ下さい。では、御前失礼致します」


 目の前に広がっていた大量の服をショルダーバッグ型の魔法の袋(マジアコモ)へと仕舞い込んだラゴが、ディアブロへと視線を送り村跡へと移動を開始した。


「ではベンヌ、サリア、それにキャラケンダ。お前達はこのまま私と移動だ。異論は――」


「はい! 承知しました! 喜んで!!」

「我も異論はございません!」


「……承知しました」


 三者三様の承諾仕様にカミュは困惑しつつも、溢れ出す溜息をグッと飲み込み気持ちを切り替える。

 キャラケンダは良い。彼女は特に何もしていないのだから。だが残る二名は一体どういう神経をしているのか?

 間違いなく先ほどまで号泣していたはずだ。だが今や目を輝かせながら陽気に快諾を伝えてくる始末。そのあまりにも手軽な掌返しが素晴らし過ぎて、カミュは尊敬の念さえ感じ始めていた。


「うむ。では早速――」


「あ、あの!」


「どうした? ベンヌ」


 ベンヌから出た突然の大声に驚いたカミュが、ラゴの後ろ姿を追っていた視線を彼女へと向ける。


「相変わらず煩い奴なのじゃ」


「もしよろしければ……わらわにもこーどねいむを頂けないでしょうか?」


 毒づくサリアを華麗にスルーしたベンヌが、潤んだ瞳で主君へと懇願の情を送った。


「コードネーム? 別に構わんが……」


「あ、ありがとうございます!!」


 大きく一礼した反動で、ベンヌの頭に乗せたティアラが前方へと飛び出す。

 余程嬉しかったのだろう。その場で大きく跳ねたティアラは、顎を閉めるかのように勢いよく元へと戻る。


「ず、ずるいのじゃ! かかか、カミュ様! 我も、我にもお願いします!!」


「ほんに図々しい奴かしら」


「あ……あぁ。判った」


「ありがとうございます!!」


 大きく一礼した反動で、サリアの頭に乗った黒い帽子が前へと飛び出す。

 余程嬉しかったのだろう。大きく跳ねた帽子は空へと舞い上がり、呆れるような視線を送るベンヌの顔へと直撃した。


「へぶっ! な、何するかしら!!」


「阿呆は一々大袈裟なのじゃ」


「阿呆はお前なのよ! 寧ろ馬鹿かしら!」


「あ゛ぁ!?」


 帽子がぶつかっただけでキレるベンヌに、謝罪の意思すら見せないサリアが煽りを入れる。


「止せ!! ハァ……」


「「も、申し訳ございません!!」」


 大きな溜息とともに鋭い視線を送る主君へと、先ほどまで喧嘩していた二名が渾身の謝罪を見せる。

 真っ直ぐ伸ばした背筋が繰り出す九十度のお辞儀。その躍動感に溢れるたった一度のヘッドバッキングは、理想的な円弧を描きながら主君へと真っ直ぐに振り下ろされた。

 何故素直にゴメンナサイが言えないのだろうか? 精神的な疲れの抜けきらないカミュが、二人を見つめながらもう一度だけ肩を落とす。


「今後、私の前で喧嘩はするな。良いな?」


「「は、はい……」」


「そしてキャラケンダよ、悪いがラゴを手伝ってやってくれ」


「畏まりました」


 苛立つ主君からの厳しい視線を受けて、反省の色を浮かべる二名が首を竦める。

 これ以上もう何も言うまい。というか何故つい先ほどの私は決断を早まってしまったのか? そんな困惑を整った表情(かお)へと浮かべながら、脱力感に苛まれるままカミュが項垂れる二名へと背を向ける。

 そしてカミュはディアブロと荷台を連結しているラゴ、そして手伝いに向かうキャラケンダを静かに見守り続けた。


「あ、あの……」

「我のこーどねいむは……」


「……ふむ。今悩んでいるところだ。もう少し時間をくれ」


「あ……ゆっくりお考え下さい!」


 ベンヌとサリアの催促に、カミュは疲れた声でボソッと答える。

 自分達が主君の機嫌を損ねたのだろうか? ベンヌとサリアは必死に首を捻るが、思い当たる節は何も無い。

 その間も、カミュは後ろ手に手を組みながら、作業を続けるラゴとキャラケンダをジッと見つめていた。


「一つ聞きたいのだが……」


「な、何でしょうか?」


「今から言う名前で、お前達が一番良いと思うのは何だ? 選択肢は"ライト"、"サンダー"、"ゴリ男"の三つだ」


 主君からの唐突な質問を受けたベンヌとサリアが、目を見開いたままお互いの顔を見つめ合う。

 そんなサリアが視線だけの会話を終わらると、主君へと向き直りながら恐々と口を開いた。


「それは……"ゴリ男"にございます」


「そうか……やはりそうか。なるほど、参考になった」


「そうなのですか?」


 小首を傾げるベンヌへと振り向いたカミュが、苦笑を浮かべて首を大きく縦に振る。


「あぁ。それと同時に、お前達のコードネームも決まった」


「「おぉ!」」


 可愛らしいその表情が、喜悦で歪むベンヌとサリア。

 期待に満ちた目を主君へと向けながら、彼女達は高鳴る鼓動を必死に宥める。

 抑止不能な興奮が激しい感情の起伏を助長し、溢れ出す想いが苦しいほどに胸を締め付けた。


「ではベンヌ、お前からだ」


「はは、はい!」


 ベンヌの可愛い喉がゴクリと鳴る。


「プリクラ魔神……マークⅡだ」


「「おおぉ!!」」


 ベンヌとサリアから歓声が上がる。


「わ、我は? 我のこーどねいむは何でしょうか?」


「サリアのコードネームは、パパイヤ天国……レボリューションだ」


「「おおぉ!!」」


 喜悦に歪むベンヌとサリアの頬を、その潤んだ瞳から溢れる一筋の涙が伝う。

 口をワナワナと震えさせながらもジッと主君を見つめる目には、感謝の気持ちしか映らない。


「……気に入らないよな?」


「「いえ! ありがとうございます!!」」


 見事にシンクロしたベンヌとサリアが、素敵な名前を下さった主君へと大きな一礼で大きな感謝を伝える。

 そんな彼女達を前にカミュはしきりに首を傾げるが、彼女達は彼の真意を察することが出来なかった。


「ど、どうかされましたか?」


「いや、何でもない。そう、何でもないんだ。サリア」


「そうですか?」


 両手に握り拳を作り小さなガッツポーズを決めるベンヌを余所に、浮かれ気分のサリアがふと主君を伺う。

 主君は何かを隠している。だがそれが何かは判らない。そんな思考的なシコリを残すサリアへと、カミュは苦笑に満ちた笑顔を送った。


「では彼女達のところへ行くか。バイコーンを馬車に繋いでくれ」


「はい! 承知しました!」

「お任せ下さい!」


 笑顔の花を咲かせた二名が、弾むような足取りでバイコーンの下へと向かう。

 そんな二名を、カミュは複雑な気持ちのまま生暖かく見つめた。何故、適当な思いつきがそれ程の感謝を受けるのか? そんな想いで。


「では行くのじゃ。プリクラ」


「行くかしら? パパイヤ」


「「ぐふ、ぐふふふ……」」


 カミュがドン引きするほどの気色悪いニヤケ顔で見つめ合う、ベンヌとサリアの精神が遂に崩壊する。

 彼女達の脳細胞は既に終焉を迎えてしまったようだ。

 そんな彼女達を見つめながら、カミュは痛まないはずの胃を抑えて、幻の胃痛との戦いに突入するのだった。






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