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Lords od destrunction  作者: 珠玉の一品
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開発



 (し、失敗だ……)


 カミュは目頭を押さえて馬車から目を逸らすと、己の失態を脳裏から消そうと現実からの逃避を敢行する。

 そして苦い過去を全力疾走の末に置き去りにして、リフレッシュした自分を配下達の前へと引き戻した。

 カミュは気付くことが出来なかった。彼が保有する他者とは比較にならない膨大な魔力量を考えれば、馬のゴーレムをたった一撃で永眠へ誘うことなど必然の帰結。だが、その結果に精神的な負荷を感じるのであれば、発動前にもう少しだけ脳ミソを使うべきであったのだ。


「カミュ様、如何されますか?」


 皆を代表するかのように、アスタロトがカミュの異変を察して気遣いの意思を伝える。


「いや、どうもこうも……馬車を牽く術がなくなってはな」


「軟弱な者など、カミュ様の配下に必要ございません。もう少しマシなのを捕獲されては如何でしょうか?」


「うーむ……。先ずは埋葬が先だな」


「埋葬ですか?」


 小首を傾げたアスタロトが、銀髪を靡かせながらカミュへと視線を合わせる。

 やや中腰で髪を掻き上げるアスタロトを横目に見ながら、まだハッキリしない頭でカミュは思った。髪を掻き上げるその仕草、まだぎこちない、と。

 だがそれは致し方ないこと。彼女が女の命を取り戻したのはつい先日のことであり、百年ぶりに蘇った女性としての自我にまだ慣れることが出来ないのだ。


「仮に、彼等が我が配下として不適だったとしても……少なからず私の役に立ったのだ。少しは情を見せねばなるまい」


「カミュ様……なんとお優しい」


 ウットリとした瞳で両手を組むアスタロトに違和感を覚えながらも、カミュは右手を突き出して魔法を発動する。

 彼女の態度が髪の生える前と後で変わった気がするのだが……気のせいかもしれないとカミュは思う。スキンヘッドだった頃のアスタロトの気持ちなど、今のカミュには知る由もないのだから。

 着弾したのは馬車から少し離れた荒地。出力の絞られた光の矢が荒地を穿つと、地面に一メートルほどの窪みが生じる。歩み寄ってその深さを確認したカミュは、悲しみの残る灰を集めて彼等の面影を手厚く葬るのだった。


「さて、これからどうするかだが……」


「先へ進むのでしょうか?」


「その予定だったが、先ずは馬車を何とかしないとな」


「バディスにでも引かせますか?」


 目を見開くカミュの前で、アスタロトがニッコリと微笑む。冗談ではなく本当にそう思っていることは、彼女の表情から見て間違いないだろう。

 どちらとも取れるカミュの視線を感じたバディスが、応じるように微笑みを湛えて大きく頷いた。牽く気満々なのだろうか?

 そんな彼に危機感を覚えたカミュは、不穏な話題から急激なターンで身を逸らす。


「それにしても、此処は交通の便が良さそうな場所だな」


「はい、集積地ですので」


「集積地?」


「毎年、王国から物資が届けられます。この場所へと」


 怪訝な表情で訝しむカミュに、アスタロトが前後を割愛して解説する。

 いや、割愛している自覚など彼女には毛頭ない。当然のことを当然と言っているだけで、その当然を知らないカミュの方に問題があるのだ。

 記憶の欠如と別人格故の無知。配下と主君の認識には、未だ大きな隔たりが存在していた。


「あぁ、そう言えばそんなことをアスラが……いや、レストエスか? まぁ良い。だが此処には何もないぞ?」


「はい。ですが数日後には物資が届きます。しかし直ぐにフィードアバンへ送りますので、此処は常にこの様な光景です」


 閑散とした寂しい風景を見回しながら、アスタロトが眉尻を下げて困惑気味に苦笑する。

 その後ろでレストエスが、自分の方が乳が大きいとか何とか言っているのはどうでも良い話だろう。


「そうか。では、此処に街を造ろう」


「は? あ……いえ、街を造られるのですか?」


「あぁ、そうだ。街だ。我々の、な」


 驚きに目を見開くアスタロトを優しく見つめながら、カミュは閑散とした寂しい風景の中でも不敵に微笑する。

 その後ろでバディスが負けじと、我輩も大きいのである、見てみるか? とか何とか言っているのは更にどうでも良い話だろう。


「此処に街を……。それも我々の手で」


 ホゥと静かに吐息を漏らしたアスタロトが、未だ想像でしかない彼女が幻視する街へと思いを馳せる。

 彼女がどんな未来を想い描いているのか誰にも判らない。だがカミュには彼女の眼差しが好ましく思えた。未だ後ろで言い争っている阿呆二人と比べて。


「そろそろ皆――」


「カミュ様より大事なお話がある! 静かにせよ!」


 カミュの仕切りに思い切り被せたアスタロトが、一切の悪気がないまま高らかに皆を取りまとめる。不敬にも主君の言を遮ってしまっていることは、アドレナリン的な何かを過剰分泌させている彼女には気付けない。

 そんな彼女を横目に、カミュは僅かに開いた口を気力で閉じた。主君の意を察し、率先して配下達を纏める彼女は出来る奴。のはずだがなんか違う、そんな気がするカミュであった。




 とは言ってみたものの、どんな街にするのか漠然としか思い浮かんでいない。

 こんな頼りない主君を前にズラリと居並ぶのは、この世界でも指折りの戦闘力を誇る、元ハゲ、変態、痴女、子供、それに純情根暗の面々だ。

 私がこの場所に街を造る目的は一つだけ。そう……壮絶な工程と長大な時間を膨大に無駄にする、ただの時間稼ぎ。それだけのこと。


「さて、唐突な提案とはなるが、この場所に街を造ろうと思うのだが……皆はどう思う?」


「良いんじゃないでしょうか? あたしは賛成です」

「我輩も異論はありません」

「よ、よく判らないです。でもカミュ様が仰るなら、それが良いかと……思います」

「……」


 最後に頷きで見せたフルーレティの無言の承諾で、配下全員の了承を得られた訳だが……さて何から始めようか。

 どうせ造るならこの世界には存在しない、機能美と様式美に彩られた至極の一品が良いだろう。

 僕の考えた最強の街。そんなフレーズがふと思い浮かぶが、物凄い羞恥心に襲われたので直ぐに脳裏から排除する。


「街を築く範囲だが、限られた領域に留めるつもりだ。その範囲は……そうだな。実物を見せた方が理解が早いだろう」


 掲げた右手を遠くの岩山へと翳(かざ)し、脳内で光の矢をイメージする。

 狙うは岩山の付け根。今朝まで続いたアスラとの長い長い念話の最中に回復した魔力で、毅然と聳(そび)え立つ雄大な岩山を根底から粉砕する。

 眩い光の収束とともに射出される極太で極悪な光の矢達。その総数は数百に上り、その軌跡は横一列に並んで弾幕のように輝いた。


 ――ォォドォオオォン


 着弾とともに高さ数百メートルに及ぶであろう岩山が、一瞬だけその身を震わせた後で静寂を取り戻す。

 削り取ったのは岩山の裾、その量は全体のおよそ半分。


「む、無詠唱……!?」


「ん? あぁ、そういえば詠唱を忘れていたな」


「い、いえ。そんな簡単に片付けられるほど単純なことではないのですが……」


「お前達は出来ないのか?」


 配下全員の驚愕に包まれた視線とアスタロトの呻きを浴び、動揺と興味に染められた脳でつい聞き返してしまう。

 結果は言わずもがな。自責の念なのか羞恥心によるものなのかは判らないが、彼等は黙ったまま俯いて立ち尽くしている。


「す、スマン。失言だったようだ。許せ」


「い、いえ! 勿体無い!! 我らが至らぬ所為でカミュ様のお心を煩わせてしまい、申し訳ございません……」


 アスタロトが既に泣きそうだ。いや違う。たった今、泣いた。

 どうやら無詠唱で魔法を放つのは、常識的には不可能な技術なのだろう。だが、私には詠唱と無詠唱の違いが判らない。詠唱とは魔法を発動するためのキーワードなのだから、詠唱以外でもキーワードがあれば発動は可能なはず。と単純に考えてしまうのは……違うのだろうか?

 そんな疑問を横へ置き、気落ちしているアスタロトの肩へと無言で手を乗せる。何故なら、ここで声など掛けようものなら、配慮が足りない私のフォローで更に彼女が傷付くのは間違いない。


「カミュ様……」


 アスタロトの涙をそっと拭い、優しさだけを意識してそっと微笑む。口端に僅かな引き攣りを感じるのは、やり慣れない所作の所為か、女性遍歴が低い故の過ちか。

 状況の変化に気付いた配下達へ同様の微笑を向けながら、私は彼等へと向けた視線に強い想いを乗せる。元気を出せ! フォローが一々面倒だ! と。


「さて、まだ足りないが……残念ながら残存魔力がほとんど無い。どうしたものか」


「か、カミュ様! 僕の魔力をお使い下さい!」


「待てカメオウ。カミュ様のお手持ちのアイテムに、魔力石があったはずだぞ?」


「で、でも……」


 あの山裾を削りきりたいのだが、今の状態では不可能だろう。私自身が魔力の枯渇を確かに感じ取っているからだ。

 無論、カメオウの申し出はありがたいが、配下の魔力を奪うのは少々気が引ける。それにしても何故アスタロトは彼を遮るのだろうか? というか、魔力石とは何だろう?

 まぁこの状況を鑑みれば、魔力を回復するアイテムなのは間違いなさそうだが。


「魔力石か……ん? アスラは何故、そのことを私に教えなかったんだ?」


「教えなかったとは、カミュ様が魔力石を持っていらっしゃることを、ですか?」


「あぁ。私の魔力が枯渇したとき、アスラは魔力石を使わずに自分のを譲渡していたな」


「……ハァ。何故アスラがお教えしなかったか。それは――アスラだからです」


 肩を落としたアスタロトが、疲れた表情で言葉を紡ぐ。

 アスラを知らない者が聞けば、全く意味が判らない説明だろう。だが何故か私にはその説明だけで理解が出来た。何故なら、それがアスラだから。


「ま、まぁ奴のことは今はいい。それより魔力の回復だ」


「か、カミュ様! 僕の魔力を是非お使い下さい!」


「待てカメオウ。魔力石があると言ったはずだぞ?」


「で、でも……」


 大事なことなのだろう。カメオウが二回目を言う。そしてアスタロトも二回目の否定を口にする。

 どちらも大事なのだろう。だが、私からも見ればどうでも良いこと。本当にどうでも良いことなのだ。


「カメオウの気遣いを無下にするのもな。今はカメオウに回復して貰おう」


「あ、ありがとうございます!」


 奇麗な黒い瞳を輝かせながら、カメオウが満面の笑みで微笑む。

 幼い少年を愛でる趣味は勿論ないが、この整い過ぎた表情に屈託の無いあどけなさは、世のショタコン達には刺激が強すぎるだろう。その気持ち、今なら判らんでもない。

 だが今此処で道を踏み外す訳にはいかないのだ。何故なら……私の身元がもしバレたら、間違いなく彼等に惨殺されるはず。そう確信が持てたからだ。


「ではカメオウ、此方へ来てくれ」


「は、はい!」


 タタッと駆け寄るカメオウに愛しさを感じながら、彼が近寄るのを笑顔とともに無言で待つ。


「まだ遠いぞ? もっと近くに」


「あ、はい」


 彼との距離は一メートル。だがまだ遠い。


「もっとだ」


「え? あ……」


 口で言うのが面倒になり、カメオウの手を掴んで強引に此方へ引き寄せた。

 驚きの表情で固まるカメオウをそっと抱き締めて、アスラがやっていた通りに魔力譲渡の準備を整える。

 アスタロトやレストエスが顎が外れそうな勢いで驚いているようだが、何をそんなに驚いているのだろうか?


「よし、良いぞ」


「……は? あ、え!? ぇえ!?」


 ん? そういえば、アスラから魔力を譲渡して貰った時は、お互いに裸だったはず。

 やはり服を着たままでの譲渡は難しいのかもしれない。


「この状態では、やはり無理なのか?」


「い、いえ……だ、大丈夫ですぅ」


 顔を真っ赤にして俯くカメオウに疑問と懸念を覚えるが、今は気にせず進めるべきだろう。

 だが服を着たままでの魔力譲渡が可能という事実を、知り得たことは正に重畳。服を脱ぐのも面倒だと思っていた矢先でのお得情報ゲットは幸先が良い。

 やはり私くらい日頃の行いが良いと、スムーズに物事が進むのは必要であり必然なのだろう。


「で、では失礼します……」


 赤面の収まらないカメオウが、おずおずと右手を伸ばしてくる。私の下腹部の辺りへと。


「お、おう!」


 戸惑いと羞恥の間という絶妙なポジションへ手を当てたカメオウが、目を瞑って意識を集中している。

 払い除けるには未だ距離がある、受け入れるには心の準備が整わない、そんな男心をくすぐる感帯へとカメオウの熱が伝わり始めた時、カメオウの口から詠唱が発せられた。


「――<譲渡(トランスファー)ぁ>!」


 私の体が淡い光に包まれると同時に、漲るような力の波動が体の奥底から駆け上がってきた。

 その波動は次第に強さを増しながら、継続的に私の乾いた体を細部まで潤していく。

 そして光が終息したその時、私は得も言われぬ充実感に満たされていた。


「おぉ……素晴らしいぞカメオウ! 正に覚醒した気分だ」


「ぁ……あの、ありがとうございますぅ」


 ウットリとした目で見つめ返すカメオウの頭を優しく撫で、彼が転ばぬよう細心の注意を払いながら彼を傍に立たせた。

 カメオウの目はまだトロンとしたままだ。その右手は私と彼の間にある虚空を掴んでいるが、彼の思惑は一体何処にあるのだろうか?

 まぁ魔力譲渡に伴う睡魔襲来の線が濃厚だろう。彼を慰労するようにもう一度だけその頭を撫でると、その手を先ほどの岩山へと突き出して魔法を発動した。


 眩い光の収束とともに射出される極太で極悪な光の矢達。その総数は先ほどと同数に上り、その軌跡は横一列に並んだ弾幕のように輝く。


 ――ォォドゴォオオォン


 着弾とともに直径一kmにも及ぶであろう岩山が、一瞬だけ宙に浮いた後で轟音とともに着座する。

 そしてその光景に目を見張る配下達。だがこう一々驚かれては、話の腰を折られているようで気分は良くない。

 彼等が何に驚いているか私には判らないが、此処で余計なことを言えば必ず面倒なフォローが付き纏うだろう。だから敢えて彼等を放置する。


「これで良し、と。街を造るのは切り取ったあの岩山の上だ。もし可能であれば、あの岩山に浮遊機能を持たせたいのだが……アスタロト、可能か?」


「は、はい。お預かりしている乙級の魔石を全て使えば、岩山を浮遊させることだけは可能です。ですが推進装置までとなると、イリアの協力が必要になります」


「イリア……ガラシャだな。で、魔石は何がどの程度あれば良い?」


「魔石の種類は風。移動させるだけなら丙級が八つあれば十分です。ですが一定以上の速度を求められるなら、級も数量も増す必要があります」


 魔石を作れるものと作れない者の差が判らないが、バディスやレストエスに作れないことだけは……何となく判る。間違いなく、絶対に作れないだろう。

 まぁそれは良いとして、折角造るのであれば金に糸目をつけず、最高のカスタマイズを施すのが職人魂というものだ。


「魔石は甲級が最高なのか?」


「いえ……乙級が最高です。甲級のモンスターから獲れるのは、甲級の心臓です」


「心臓? 使い道は――いや、何でもない」


「は、はい」


 小首を傾げるアスタロトから視線を外し、遥か遠い西へと意識を向ける。

 最高級の魔石を超える心臓など、使い道は一つしか考えられないだろう。そう魔石では作成出来ない魔道具、だ! いや、エリクサーやネクターの原料か?


「では風の魔石は、乙級が八つ、丙級は三十二ほど用意しろ。本国への連絡はアスタロト、受け取りはフルーレティだ。それで良いな?」


「問題ございません。ですが一つだけよろしいでしょうか?」


「構わん、どうした?」


「街造りに際し、イクアノクシャルより応援を呼びたいのですが……」


 応援? そういえば配下の正確な数や種族を私は知らない。

 アスタロトが機嫌を伺うかのように上目遣いで私を覗き込んでいる。どうして彼女はそんなに恐縮しているのだろうか? 此処は断るのが正解なのか?

 だが断る理由も断る気も今のところはない。それに国と名乗っているのだから人口が数百や数千だけ、ということは有り得ないだろう。


「それは構わんが、誰を何人ほどだ?」


「ありがとうございます。呼び寄せるのはガーゴイルを三千体、サイクロプスを百体、バイコーンを二体がよろしいかと」


「ガーゴイルにサイクロプス!? ……念のため、目的を聞いても良いか?」


「はい。ガーゴイルには石材の運送を担当させ、サイクロプスには石積みを任せたいと思います」


 なんか凄い名前が出てきたが、魔国ではこれが普通なのだろうか? レストエス以外の配下達も当たり前のように頷いている。

 というかレストエス、何故カメオウに抱きついているんだ? カメオウが物凄い形相で、両手で突き放すように嫌がっているぞ?

 まったく……アイツは何をやっているんだ。


「バディス! レストエスを止めろ!」


「お任せください。フンッ!!」


 大きな鼻息が漏れるほどの勢いで、バディスが思いっ切り蹴り上げた。レストエスの尾てい骨の少し下を。

 おそらくではあるが、その場所は尾てい骨とレストエスの大事な部分の丁度中間。括約筋の活躍する場所だと思うのだが。

 当のレストエスは両手でお尻を抑えながら背筋を伸ばしている。そして彼女は、苦悶の表情を浮かべて四つん這いに崩れ落ちた。


「カメオウ、大丈夫か?」


「は、はい! 大丈夫です」


「ところで、レストエスは何故お前に抱きついたんだ?」


「わ、判りません。ですが何度も『温もり』って言ってました」


 困惑しながらも何とか冷静を保とうとするカメオウが、理解不能な痴女への考察を潔く諦めた。

 レストエスが何を言いたかったのか判る気がする私は、もしかして変態予備軍なのだろうか?

 判りたくも無い彼女の気持ちが判ってしまう勘の鋭さ、生前の私に分け与えてあげたい。


「まぁ良い。で、バイコーンは何故必要なんだ?」


 唖然とするアスタロトを呼び覚ますかのように、先ほど中断してしまった話を戻してお茶を濁す。


「は? あ……いえ、馬車を牽く馬が居なくなりましたので、代わりに呼び寄せようかと」


「そうだな。馬車を牽くものは必要だな。ではフルーレティ、アスタロトの言に従い行動せよ」


「畏まりました。ではアスタロト様、ジェットストリームをお貸し願えますか?」


「判った。少し待て」


 フルーレティからの要請を受け、アスタロトが鞄タイプの魔法の袋(マジアコモ)から一台の板を取り出す。

 形はスケートボードに似ているが車輪はない。板の下に筒型の何かが取り付けられているが、あれは一体何なのだろう?


「それとフルーレティ、アスラから乙級の吸収石を貰って来てくれ」


「承知しました。では行って参ります」


 地上三十cmで滞空するジェットストリーム? に飛び乗ったフルーレティが、円筒から吹き出すジェット噴射により一瞬の加速で遥か西へと飛び去っていった。

 何という加速度、そして何と心惹かれるネーミングであろうか。おじさんの心を掴んで離さないそのネーミングセンスに、隠しきれない可能性と機能性への期待で胸が膨んでいく。


「凄い加速度だな。性能的に優れているいるようだが、あれを量産はしないのか?」


「性能が優れている? いえ、ただの欠陥品ですが……」


 小首を傾げるアスタロトが微妙な表情で此方を伺う。名称と加速は秀逸の一言だが、その他に一体何の問題があるのだろうか。


「何が問題なんだ?」


「はい、あれは……基本的に速度制御が出来ません。出来ないというより、そういった機能が全く付いていないのです」


 はい?


「その他、進行方向の操作も不可能であり、尚且つ空気抵抗は勿論、造波抵抗も考慮されておりません」


「ということは……目的地に着いたら飛び降りるしかないのか?」


「はい。それに加え横風安定性も無視しておりますので、目的地付近に辿り着ければ運が良い方です。強風が吹く上空では、見当違いの場所へ流されることも珍しくありません」


「エリアルールとか……いや、何でもない」


 な、なんというポンコツ。

 戻って来ることは疎か、目的地にさえ辿り着けない地獄の片道切符。そんな不良品に乗りたいというフルーレティは、やはり変態なのだろうか?


「ですが、結果だけを見れば大幅な時間の短縮が可能です。フルーレティの意気込みが伝わりますね」


「う、うむ……そうだな」


 す、すまんフルーレティ。変態はバディス、ポンコツはレストエスだった。疑って本当に済まない。


「さて、我々も行動を開始するか」


「御意」


 深々と一礼するアスタロトに続き、バディスとカメオウが敬意に溢れる一礼を見せる。未だ一礼すらしないのは、両手でお尻を押さえながら地面に蹲っているレストエスのみ。

 本来は注意すべき状況なのだろうが、事情が事情だけに叱る気にもなれない。

 流石にお尻はやり過ぎだろうと思い直し、可哀相なレストエスをどう宥めるか、ほんの少しだけ悩むことにした。






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