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閏年計画  作者: 椎名円香
第二章 奇数
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探索

ご閲覧頂き誠にありがとうございます。

 途方も無く広く荒れた世界を僕たちは進む。修復のための行動が分からない以上、他に何かヒントがないか探すぐらいしかできないだろうというのが二人の考えだった。しかし、ヒントと言ってもそう簡単に見つかるものではない。今分かってるのは修復するために必要なのはモノではなく行動だということぐらいだ。行動しろというのだから、どこかにそれらしいスイッチでもあるのではと探してはいるが、一向に見つからない。僕たちは立ち止まって再び腕時計型の機械に目を向けた。

「ちょっと思ったんだけど、この機械、何なのかしら?」

 腕時計型の機械をいじりながら藍華が首を傾げる。それは僕も疑問に思っていたことだった。腕時計の形はしているものの時計機能は無く、説明書のようになっているわけでもない。腕時計型の携帯電話と言っても、あまりに機能が少なすぎる。

「ナビゲーター……なのかな? これのこと、なんて呼んだら良いのかずっと考えてたんだけどさ、僕もいまいちよく分からないなぁ」

「あぁ、ナビゲーター! それでいいじゃない、短くて。はい、決定!」

 僕の適当な命名に藍華が両手を合わせて微笑む。本当にそれで良いのかと聞きたい気持ちを抑えつつ、僕はぎこちなく微笑み返した。

「ナビゲーター、か」

 確かに短いし分かりやすい。これから何度も呼ぶことになるだろうから、呼びやすいにこしたことはないだろう。

「じゃあ、ナビゲーターの機能で役に立つのがないか探しながら、近場にまだ何か落ちてないか探してみようか」

「うん、そだね。ぼーっと立ってちゃ時間がもったいないもんね」

 僕の提案に藍華が大きく頷く。その表情には微かな疲れが感じ取れた。身体的な疲労と言うよりは、精神的な疲労が蓄積しているように見える。こんな不可思議な空間にいるのだから無理もない。

 しかし彼女はそんなことは何ともないかのように平然としていた。ナビゲーターをいじりつつ、乱れた足場を進んでいく。僕は彼女を先導するように少し前を歩き、辺りを見回した。特に何もない。というより、瓦礫しかなかった。この前の防音室のような異質なものは何一つとしてない。少し高い足場に上がってみても結果は同じだった。

「別に変わった所はないな……。どう? 藍華の方は何か見つかった?」

「ううん、全然……。メッセージ機能以外無いんじゃないかって思えてきたわ」

 そう言うと彼女は大きなため息を吐いて軽く首を振った。明るい瞳に翳りが生じる。

「そうか……。ってことは、『ある行動』っていうのは、ナビゲーター関係じゃないのかな。でも、だとすれば一体何をすれば……」

 これ以上探しまわって、何かが見つかるという確証はない。もしかしたら時間の無駄になってしまうかもしれない。しかし、かといって何ができるわけでもない。何しろ情報が少なすぎる。これでは探そうにも下手に動き回れない。しかし、動かなければ手がかりが見つかることもない。

 こういう時、雨帝ならどうするだろう。何もかも手詰まりでどうしようもない時、あの人なら何と言うだろうか。隅々まで探しまわろう、とは絶対に言わない。雨帝は無駄なことを嫌うし、なにより決断力がある。今のこの状態だったら、時間の無駄になる可能性が極めて高いようなことを言うはずがない。なら、危ないからここにいようというだろうか。それも何か違う気がする。そうなると止まっている間はナビゲーターを調べることぐらいしかできなくなる。しかしナビゲーターは歩きながらでも操作できる上に、メッセージ以外の機能はなさそうだということがすでに分かっている。それでは時間の無駄だ。まだ歩いた方が合理的だろう。

「はぁ……」

 僕の隣で藍華がため息を吐く。そういえば先程から疲れている様子だった。瓦礫を避けて歩きながらナビゲーターを操作していたのだ。疲れて当然だろう。僕は辺りを見回して比較的瓦礫が少なく座れそうな場所を探した。瓦礫まみれの空間の中、瓦礫の少ない場所はあっても座って休めるような場所は限られている。ここまでの道のりでもそういう場所はせいぜい二、三カ所と言った所だった。

「藍華、疲れたでしょ? 少し休もうよ。確かあっちの方に座れそうな場所があったと思うからさ」

 僕が少し右後方を指差すと、藍華は「そうだね」と言って頷いた。瓦礫を避けながらこちらに近づいてくる。

「よ、いしょ……っ……あっ! きゃぁあっ!」

 途端、足下の大きな岩に躓きバランスを崩す。僕は咄嗟に藍華を支えた。定まらない足場に倒れそうになる。藍華はなんとか体勢を立て直すと、気の抜けた顔で少女のように笑った。

「えへへ、危ない危ない……。ありがと、潤。なんか、ぼーっとしちゃってるね、あたし」

「大丈夫? もう……気をつけてよ。……って、藍華、足下に何か」

「えっ!?」

 驚いて足をどかす彼女の足下に、この世界では珍しい鮮やかな色の何かが見える。彼女はそれを拾うと、訝しむように眉を顰めた。

 落ちていたのは、一輪の青いバラだった。

お読み頂き誠にありがとうございました。

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