Part 3
最終パートです
また土曜日がつぶれた
ドアの向こうには、やはりリッキーがいた。
「やあジミー、それにみんな、久しぶり」
そう言って手を振り、真っ白い歯を見せた。
カールした黒髪に焼けた肌、優し気なブラウンの瞳。彫りの深い、くっきりした顔立ちだが、優しい性格が滲み出ている。黄色いポロシャツに白いハーフパンツが、陽気な彼によく似合っている。
「お前、いつからそこにいたんだ?」とジミーが問う。
「その、俺とミアがキスした事をアレックにばらされた…少し前くらいからだ。ほら、ミアには黙っててって言われていたから、足が止まっちゃって…」
ミアは両手で自分の顔を塞いだ。
「それからみんなヒートアップしていったみたいだったから、どうにも入って行き辛くて…」
「それはもうどうでもいい。それよりも…」
「うん、みんな、俺のために色々と考えてくれてありがとう。残念だけど、4日後にはもうお別れだ。逃亡しないように隔離されちゃうんだ」
「なんだって!」 ジミーが怒って、
「ひどい!」 ミアが悲しんだ。
「今、みんな改めて願ったばかりだ、4日の間に叶うかもしれない!」
「ああ、そうだなアレック」
笑顔のままジミーの横を通って、リッキーは僕らのところにやってくる。
「でももう十分だよ。 お前らの望みを聞いて、俺は幸せな気持ちでいっぱいだ。今にも泣きだしそうなのを、必死に堪えているんだぜ」
ランディが立ちあがって、彼とハグをした。僕も、ミアも、姉弟もハグをして、涙ぐんだ。ジミーだけが納得できない様子だったが、最後に「来いよ、相棒」と呼ばれてハグすると、ついに涙腺を崩壊させた。
「いつかきっと帰って来られるよう頑張るから、どうかもう気にしないでくれ」
「リック、お別れを言いに来ただけなのか?」
目を腫らしたジミーが尋ねる。
「…うん、実は、最後にお前の前でやろうと思っていた事があったんだ。みんな揃ってるとは思ってなかったけれど、丁度いいのかもしれない」
「何だよ」
「うん」
リックもまた、リュックを背負っていた。中から取り出したのはまさかの…HOPE! オレンジフレーバーで、未開封のものだ。そして、リックの名前と誕生日がボトルにプリントされている。
「お前、それ…」
「実は、望みができるまで取っておいたんだ」
「他に何を望むってんだよ!」
「ジミー、こんなもので希望が叶うなんて、あり得ないだろ。そんな簡単な事なら苦労しないよ。これを取っておいたのは、お前がさっき言っていた通り、俺たちの友情を確かめるためだ。隠れて聞いてしまって悪かったけれど、お前らはちゃんと、これ以上ない形で証明してくれた。だから、今度は俺の番だ」
そう言って、キャップを開けた。
「おい…」
「俺は俺の友達、ジミー・マデオ、アレグサンダー・スミス、ランディ・マキシム、ジャニーン・ジェイムソン、ブルック・ジェイムソン、そしてミア・クライスラー、彼らの望みが叶う事を望む! 俺の事じゃない、彼ら自身の事だ!」
リッキーは深く息を吸って、ボトルを口に付けると、真っ逆さまになるよう持ち上げた。ものすごい勢いで、ソーダがリッキーの中へ入っていく。むせて吐き出す事なく、3秒以上の中断もなく、すべて逞しい彼の胃の中に消えていった。
誇らしげに空のボトルを持ち上げたリッキーに、みんなが歓声を上げた。指笛を吹き、拍手し、足を踏み鳴らした。ジミーとリッキーが拳を合わせ、またハグをする。ジミーは涙を引っ込めて、笑顔になっていた。
「おい…」と呟いたブルックの声は、まだ歓声に紛れたままだった。
「みんな…」
「Hey! 姉貴!」
「こっち見ろって!」
「God’s work だぜ!」
最初に姉のジャニーンが気づいて、悲鳴に近い声をあげた。当然僕を含めて他全員が、姉弟の視線を追う…それはテーブルの上…すべて飲み干したはずの、6本のボトルに注がれた。
キャップが外されたまま、一番上の目盛りを埋めるまで、すべてのボトルにソーダが注がれていたのだ。オレンジ、グレープ、アップル…すべて2本ずつ。そう、ジミーが自分の誕生日に飲み干したものは、確かにアップルフレーバーだった。
「なんだ! どういう事だ!」 ジミーが大声で問う。
「イタズラじゃないの!?」 ミアがブルックを睨んで言った。
「やってない! どんどん嵩が上がっていったんだ!」
「ありえない!」と、僕は言った。
「いや、ブルックの言う通りよ、あたしも見た」
ジャニーンの言葉だけじゃ信じられないが…
「俺も見た! 注がれていないのに、増えていったんだよ!」
ランディはこういう時に嘘をつかない。
僕たち6人はそれぞれのボトルを持った。全員立ったままだ。
「おい…それはヤバイぞ、絶対に飲むんじゃない!」と、リッキーが真剣な面持ちで言った。
だがジミーは言った。
「リック、お前の望みが叶ったんだ。 俺たちのHOPEが…お前のおかげで追加されたんだよ!」
「バカ言え!そんな事あり得ない! 毒でも入ってたらどうする! ちゃんと調べてもらって…」
ジミーは自分の望みを言った。
ランディも、ミアも、ジャニーン、ブルック、そして僕も…。それは前に言った事と、まったく同じ言葉だった。まったく同じ事を、僕らは望んだのだ。
リックは飲むのをとめようとしたが、僕らは倉庫内を走って彼から逃げまわり、すべて飲み干してしまった。
幸い、その後だれもお腹を壊したりしなかったが(ミアはかなり苦しそうだったが…)
リックと彼の家族は結局、ICE(移民税関捜査局)に連れて行かれてしまった。
あれから18年もの年月が流れた。時代に取り残されていた僕らの町も、空と陸両方でドローンが荷物を運んで、無人運転のバスがそれを轢き潰してタイヤをパンクさせ、道路に散乱した荷物をホームレスが持って行って、ドローンの残骸をパーツ屋が売りさばく…効率的なリサイクルシステムを備えた町になっている。
犯罪は減ったり増えたりを繰り返しつつ…結果的には右肩上がり、つまりこの国は全然良くなっていない。バカどものせいで失った国の威信を、未だに取り戻せていないという事だ。だが最近になって、ようやく見る目がある有権者が増えてきたように思う。なぜかというと、ジミーが若くして州議会の上院議員に選出されたからだ。
今日はそのお祝いを兼ねて、地元の人間が集まるパーティーが集会所で開かれている。小中学校の同窓生たちも、200人を超えるほど集まっていた。もちろん僕も、ランディも、ジェイムソン姉弟も、そしてミアも出席している。みんなもう28歳だ。
ランディは野球選手になってマイナーリーグでプレイしたが、ケガをして2年でやめてしまって、今は町にある中古自動車販売店で働いている。気のいい彼に、セールスの仕事は向いているみたいだ。休日には町でボランティアをやったり、僕と一緒にジミーの応援をしたりしている。
ブルックはジョージア大を卒業して高給取りのエンジニアになったが、なぜか辞職して、芸大を中退したジャニーンと一緒にパフォーマーになった。なんのパフォーマンスをやっているのかは知らない。
ミアは大学進学後、弁護士を目指してがんばっていたが、いつの間にか弁護士の妻になっていて、フロリダで暮らしている。子供を3人も生んだため、専業主婦になった。一時ものすごく太ってしまい、まったく町に帰ってこなくなっていたのだが、ようやくスリムに戻ったらしい。夫と3人の子供を連れて、久しぶりに故郷に帰って来ている。
ジミーを中心にみんなが集っている所へ、僕がカートを押しながら近づいて行く。
「アレック!」
僕に気づいて、ミアは駆け寄ってハグとキスをしてくれた。ジャニーン、ブルックともハグをする。ジミーやランディとは普段からよく会っているから省略した。
「どうしてたの? あれから恋人はできたのかしら」
ミアの質問に詳しく答えてあげたいけれど、ジミーが僕を急がせた。
「もうとっくに空港を出ちまっているんだぞ!」
「わかってるって!」
僕はカートに載せてある大きなクーラーボックスを開けた。それ以外にも、5人の会社の同僚たちが、10個ものボックスを運び入れてくれている。
僕はジミーのサポーターから手渡されたマイクを使って、みんなに語りかけた。
「さあ、ひさしぶりに故郷に帰って来た同窓生の中で、誕生日を過ぎているのにまだHOPEを飲んでいないやつらがいるだろう! 君らのボトルを持ってきてやったぞ、取りに来るんだ! 悪いけどフレーバーはこっちで勝手に決めさせてもらった! オレンジ、グレープ、アップルのレギュラーに加え、新フレーバーのピーチとココナッツもある!」
皆が集まってきて、自分の名前を言う。バースデーボトルじゃないものも含めると300本以上も、僕が勤めている本社工場から運んで来たのだ。
「アレック、最高よ!」 ミアがもう一度抱きついてくれた。
「君のダンナと子供たちの分もここにあるよ、もちろんバースデーボトルだ」
ミアは大喜びで夫と子供たちを呼びよせる。
ジャニーンとブルックも、今年はまだ飲んでいなかったそうだ。本当は新フレーバーを試してもらいたいところだったけれど、それぞれオレンジとグレープのバースデーボトルを渡した。
ランディ、ジミー、そして僕は、今日のために飲まずに取っておいた。
ジミーがマイクを持った。
「みんな、それぞれ自分の望みを言って飲んでほしいんだが、よければほんの少し、ひと目盛り分だけでいいから、俺たちの友達のために使ってやってくれると嬉しい。そいつは今、18年ぶりにアメリカに帰って来たんだ。すごく苦労して、やっとの思いで、両親や兄夫婦、そして自分の妻と子供を連れて帰って来たんだ。あと1時間ほどでここへやって来る」
彼を覚えている同窓生たちが拍手した。
「もう心配ないと思うんだが、こっちへ来る途中でトラブルにあってほしくない。だからどうか、彼らが無事にこっちに帰って来られるよう、みんなで一緒に願ってほしい」
ボトルを持っていない者まで、ビアボトルやワイングラスを掲げてくれた。
「ありがとう、彼の名前は、知っているヤツも多いはずだ」
あっちこっちで、彼の名前があがった。
「そう、彼の名前はリック、リカルド・ボルガスだ。いいか、俺が言うから、みんなで復唱して、それからソーダを飲んでくれ! 俺の… いや、俺たちのHOPEは…」
おわり
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