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第12話 かつての幻想をこの手に

「ふう。さて、話が大分逸れてしまったね。具体的な話に戻るけど、オーラとは魔力と同じく万能の力。強いて違いを上げるとするならば、オーラは生命力に、魔力は精神力に根差された力なのさ」

「生命力に精神力、ですか?」

「そう、この2つは似ているようで非なるものなのさ。例えばオーラが枯渇すれば、急激に体が重くなったり、心拍数の上昇や運動能力の低下、最終的には気絶や動けなくなったりもするかな。逆に魔力が尽きると、猛烈な頭痛や吐き気、静止点的な不快感、ネガティブな気持ちになったり、結局は気絶する事になったりするわけだ。」

「なるほど、確かに近いようで異なる力なのですね。ですがそうなると……」

「けいは察しが良くて助かるよ。君の想像通り、戦闘中にどちらかが枯渇すると致命的な隙を晒す事になるのさ」

「やはりそうですか」


 自分のHP、すなわち体力が0になれば死ぬのは何となく予想できていたが、気力や魔力についても0にするのは絶対に避けるべきという事だ。

 できる事は増えそうだが、色々と注意すべき事も増えるというわけだな。


「初めのうちは冒険者カードを見ながら、気力の消耗具合を確認するといいかな。慣れれば体感的にどのくらい消費したかわかるようになるよ」

「そういう方法もあるんですね。ありがとうございます。ですが、その前にオーラが、使えなければ意味がありませんよね」

「元はと言えば、君が話を盛大に逸らしたのが原因だからね? でも逆に感謝して欲しいね! 君が知るべきであろう情報をまとめて教えてあげたんだから!」

「もちろんです! マリー師範代の教えのおかげで、多くの疑問を解消できました。これで修行にも集中して取り組めます!」

「そうだろうそうだろう。僕に感謝したするんだぞ! さっ、話はこれぐらいにしておいて、お待ちかねの実践だ! さあ、手を出したまえ」


 笑顔を満面に浮かべたマリーさんが両手を前に差し出した。

 その手に対する様に両手を出すと、力強く握り締められた。


「気の発現については色々手練方法があるんだけど、僕はまどろっこしい事は嫌いでね。それに、冒険者ではこの手法が当たり前になってるから、心配する事もないよ」

「わかりました」

「さあリラックスして。今から僕のオーラを君の中にゆっくり流し込み循環させるよ。僕の力を通して、君の中に眠る力を呼び覚ますんだ!」

「はい!」

「じゃあ、いくよ!!」

 

 マリーさんの右手に緑のオーラが集まると俺の左手に流れ込み、胸を通って右手に移り彼女の左手に。そして彼女の体を通って俺の体に流れ込む。

 とても優しく大らかで、暖かな力だ。

 それがゆっくりと進み、まるで自己紹介するかのように優しく語り掛けてくれる。

 俺は静かに目を閉じた。

 うん、この方が力の流れに集中できるな。

 丁度今、オーラの戦闘は胸を進み右手に差し掛かろうとしている。

 ゆっくり廻り巡って、また還ってくる。

 俺の細胞1つ1つに染み渡り、俺の力を、俺自身のオーラを呼び覚まそうと語り掛けてくれる。

 信じられる。

 今なら俺の中に摩訶不思議な超常の力が眠っているのだと理解できる。

 目で見、肌で触れ、細胞が、心がその力を実感したのだ。

 この力は空想のものじゃない!

 この世界では誰にでもある、あり触れたものなのだと受け入れられた。

 ならば、必ず俺の中にもあるはずだ!

 この力が!

 俺だけの万能の力が!!


「どうだい? これがオーラさ。初めのうちは混乱するかもしれないけど、君ほど優秀な者ならば、数日もあればものにできるんじゃ、ないか、と……って、ええっ!?」


 彼女の悲鳴の様な驚愕の声を後目に、俺自身の気が発露したのだ。

 それは、眩いばかりの光の様な気。

 金色のオーラだった。

 俺は産声を上げた自分のオーラを修行の一環とばかりに、マリー師範代の気の流れに合流させ見様見真似で動かした。

 ……うん、少しわかってきたぞ。

 この力は、俺の思いを組んで、俺の意思に沿って動いてくれるのだ。

 明確なイメージと強固な思い、意思の力が強ければ強いほど従って動いてくれるのだ。

 初めは上手くできなかったが、他人の中でも一緒だ。

 彼女が警戒せず好きにさせてくれるから、彼女の作った流れに沿って淀みなく流れてくれる。

 これが気の操作か!

 うん、面白いな!!

 初めての玩具を貰って燥ぐ子供の様な俺に反し、どんどん師範代の顔が変になっていった。流石に心配になって聞いてみる。


「どうされました。私の気の操作に、何か間違いでも?」

「……」

「あの、師範代?」

「……どうしてさ?」

「えっ!?」

「どうして、そう簡単にできるのさ!? この方法がいくら手っ取り場合っていっても、気の発現だけでも10日やそれ以上だって当たり前に掛かるんだよっ!? それに、しれっと気の操作もしちゃってさ! その段階にいくのに更にまた時間が掛かるんだよ! ねえ、ちゃんとわかってる?」

「いや、そう言われましても、試したらできたとしか……。あっ、それもこれも師範代の教えがいいからですよ!」

「そうか、そうか、やっぱり僕の教えが良いからだね、って、なるかっ!! 君の規格外の才能のせいだよっ!!」


 興奮気味のマリー師範代に苦笑を返しつつ、興味が湧いたのでオーラの流れる道を変えてみる。流れる幅を窄めたり広げたり、ジグザグにしたり胸で円を描くようにしたり、8の字を描いたり、四角や 三角形を描かせたりもしてみた。

 これは面白い。

 うん、これは本当に面白いな!


「……君はまた、教えていない事を次から次へと勝手にやるんだから……。これほど優秀だと、僕の方が自信を無くしそうだよ……」

「いえいえ、いくら優秀だといっても教え導いてくれる師があってこそです。何もない状態から編み出せと言われても、できるものではないですよ」

「そうかな~、君なら時間さえあればできそうなもんだけどね」

「いやいや、師匠、勘弁してくださいよっ」

「ふんっ、まさか僕がこんなに早く実感する羽目になるとは思ってもみなかったけど、君より劣った凡人の悲哀として、少しぐらい愚痴を言っても許されずはずさ。君はどうせそんな凡人達を踏み潰し、心をへし折って高みでふんぞり返っていたんだろう?」

「うぐっ……。いや、師匠、それは若気の至りでして、今はそんなことはありませんよ?」

「どうだか。人の本質はそうかわらないと思うけどねっ!」


 マリー師範代が懐疑的な視線でねめつけてきて、辛い。

 というか居た堪れない。

 確かに師匠の指摘通り、俺の本質は変わっていないだろう。

 怠惰で飼い慣らされた社畜生活で惰眠を貪っていただけで、命の危険に晒され本能が牙を研ぎ始めた。 そういうことだ。

 といっても理由なく他人を嘲ったり、貶す積りなど更々ない。

 俺が貶める者がいるとしたら、そいつは他者を見下す奴、あるいは屑だ。

 俺も日本人の典型的事なかれ主義を備えているが、俺や俺の周りに害があれば話は別だ。

 自分がやるのは良くて、されるのは嫌だは通らない。

 何よりクズを倒すのは、ざまぁするのは判り易い勧善懲悪であり、実に気持ちが良い。

 何の気兼ねなしに大手を振って悪を断罪しても、皆納得こそすれ非難される事もないのだ。

 最高じゃないか。

 それ以外にも、こちらを使えないゴミだと見下していた奴等を、成長して見下し返すのも最高だ。

 中二病真っ盛りの頃、色んな習い事に手を出していたのはその快感を味わいたかった、というのもまた俺の偽らざる本心だ。

 うん、正直俺はできた人間じゃないな。

 むしろ下種に近い人種なのではないだろうか。

 ただ一応言わせてもらえれば、それでも自分から吹っ掛けた事は一度もないし、例え自分より劣っていたとしても尊敬すべき人は敬い、俺なりに恩と礼儀は重んじてきた積りだ。

 それが一般からしたら、攻撃的で不穏当なものだとしてもだ。

 そういった意味では、マリー師範代の言葉は正鵠を射ている。

 彼女は俺の半分近い年齢だが人の内面を見抜ける、尊敬に値する優れた師匠だ。

 ここは偽るべきではない。

 少しだけ自分の醜い内面を吐露した。


「おっしゃる通り、俺は決して優れた人格者というわけではありません。それ所か、他人との勝負が大好きな好戦的な人間で、俺を下に見てきた奴を追い抜いて見下し返すのが何より好きな、そんな、どうしょうもない人間です。そんな愚かな人間では駄目でしょうか?」

「いいや、一向に構わないよ? というかそのぐらい、全然ましな方じゃないかな」

「ええっ!? それじゃ、さっきまでの非難は何だったんですか?」

「非難って、失礼だな~! そこまできついものじゃなかったじゃないか。僕は、ただ君がもう少し正直になってもいいと思っただけさ! それと……ごにょごにょごにょ」

「それと? 何ですか?」

「もうっ、いいじゃないかっ! 愚痴だよ、ぐーち!! 僕だって人間だ。自分が苦労して習得したものを一足飛びで身に着けられるのを見せられれば、少しぐらい不満を言いたくなるじゃないか! 僕は聖人君子じゃないんだよっ!?」

「ぷっ、ふぅ! そっ、それは、その通りですね」

「あっ、笑ったな~!!」


 なんとも可愛らしい理由に思わず笑声が漏れてしまった。

 そんな俺の態度に頬を膨らませる、等身大の姿を見せてくれる少女が実に微笑ましい。


「ぷ、くくくっ。し、師範代、すいません」

「もうっ、笑いながら言わないでよ! でも、そんな状態でもオーラを途切れさせないんだね」

「いっ、いや、何と言いますか、これの操作が面白くて、ですねっ」

「わかった、わかった! これ以上畏まらなくていいからっ! 君が常識外れなのは十分理解したし、牙を隠し持ってても善性の人間だってのもわかったから! もう脱線はおしまい! これ以上脱線してたら、君が勝手に進むばかりで僕の威厳が失われるだけじゃないか!」

「いえいえ。それでもこんな私を受け入れてくれる、師範代の懐の深さあってこそですよ」

「まあ、僕にも打算があるからね。来るべき日には、君は僕の愛弟子として共に戦って欲しいんだ。それに、こんな命の軽い世界だ。君程度はまだまだ穏当な方なんだよ?」

「私が、大人しい方ですか?」

「そうさ、冒険者はいつ命を失うかわからない稼業だ。だからこそ自分に正直な者ばかりなのさ! だから我が強く自分の意見を曲げなかったり、誰彼構わず喧嘩を売ったり、その他にも他人をゴミだと見下す奴もいるくらいさ! まっ、やり過ぎた者はギルドに粛清されるけれどね」


 自分に正直に、か……。

 死と隣り合わせの冒険者だからこそだな。

 社会人になってからは周りとの協調ばかり気にしてきたが、この世界ならもう少し自分を曝け出してもいいのかもしれないな。

 そんな風にマリー師範代の言葉に感銘を受けていたら、突然気の流れが変えられた!

 突然、俺の気は手で堰き止められ、彼女の方に一切流れなくなったのだ。

 手から伝わる感触としては、強固で来るもの全てを弾く岩、いや、鎧といった所か。

 その強固なオーラが彼女の全身に張り巡らされている。

 これが気による肉体強化という事なのだろう。

 俺も見習ってやってみる。


「これでどうでしょうか?」

「つくづく可愛げがないねー。まあ、でもおっさんだから、あたふたした姿を見せられてもみっともないだけか……」

「おっ、いつもの調子が戻ってきましたね!」

「もうっ、本当に可愛くないな! 嫌味も通じやしない。君が簡単にやってのけたのは、どこの流派にもある気による肉体強化。うちでは肉体強化ブーステッドと呼ぶものさ。ちなみに武器の強化や防具の強化は、それぞれ武器強化ウェポンブースト防具強化ガードブーストって呼んでるよ」

「覚えやすいですね」

「まあね。判り易い方が想像しやすい。つまり、咄嗟の時に失敗し難いでしょ?」


 戦闘という刹那のミスが致命傷になる場所では、簡単で判り易いに越したことはない。

 それを考えれば、ゼーニック流はよくできた流派だ。

 さすがは、この都市でも最大の修行者を誇る流派だな。

 俺は早速、地面に置いておいた木刀を拾い直すと気を通し、次いでとばかり着ている服も強化してみた。

 うん、肉体強化と指して変わらないな。対象が違うだけだ。


「君はまた、そうポンポンと……。いやっ、もう諦めて君はそういうものだと理解した方が良さそうだ。所で、オーラが発現してから大分消費したと思うけど、身体が辛くならないかい?」

「いえっ、まだまだ大丈夫ですよ」

「念のために、冒険者カードで確認してみたまえ」

「わかりました」


 言われた通りにカードを取り出し見てみると、3割程度消費していたようだ。


「そうですね、およそ3割使ったみたいです」

「あれだけ使ったのに、それだけかいっ!? うーん、君はLV10のはずなんだけど、ステータスの方もおかしいみたいだね」

「自分ではよく分かりませんけどね」

「はいはい。まあ、その調子ならまだまだいけるね! よーし、今日中にいけるとこまでいってみようか! 僕を信じてついておいで!!」

「はい、師匠!!」

「よろしい! 気の運用は自分の意思と想像次第でどうとでもなるんだ……」


 その日俺達は休憩を挟みつつ夜の帳が落ち、月が昇るまで修行に励み続けるのだった。



                         NEW SKILL

                            ゼーニック流剣術 地の型  LV 4  





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