43:海から陸へ
気がつけば、私は仰向けに寝かされていた。目の前に青い空が見える。
隣を見ると、リーリアが横たわっている。
(そういえば、私……)
直前の記憶を思い出し、慌てて周囲を確認すると、ここが船の上だとわかった。
波の音が聞こえるということは、海……
ダンジョンからかなり離れてしまったらしい。
カルロたちに連絡したいが、チリはポケットの中で伸びている。倒れたときに巻き込んでしまったようで、申し訳ない。
特に拘束されていないようなので、私は起き上がった。
ヌシだけれど、ダンジョンから離れた私は無力だ。
身を起こせば、助けた二人の人間が振り返る。
「あら、起きたのね。もうすぐショートカット地帯に入るわ」
「ショートカット?」
「この船は、モンスターの世界から人間の世界へ短時間で移動できる道アイテムなのよ」
これが、例の魔石を使った移動アイテムらしい。
「あ、あの、私、もとの場所へ帰りたいです。ダンジョンへ」
私が訴えると、人間の男女は信じられないという風に目を見開いて、口々に言った。
「駄目よ! あそこは危険なの」
「そうだぞ。無防備な女の子をモンスターの巣になんて、置いて行けない」
「でも、私は……ヌシなので」
「ヌシなら尚更なのよ。奪えば、モンスターが弱体化する」
「そんな、カルロがあなたたちに何をしたと言うの。彼は、禿鷲のダンジョンから二人を助けてくれたのに」
「……可哀想に。モンスターに洗脳されているのね」
「え?」
私は驚いて、女性の目を見た。……本気だった。
全然話が通じない。
こちらの意見を聞く気がおおよそないのだ。
それほどに、彼女はモンスターを危険視し、憎んでいる。
人間の全てが悪人ではないように、モンスターの全てが悪ではない。
(そりゃあ、どこぞの蛇みたいに危険な奴もいるけれど、カルロは親切なモンスターだし!)
主がいなくなれば、ダンジョンは立ち行かなくなる。
過去、カルロは一度ヌシをなくし、ダンジョンは崩壊し、眠りにつく羽目に陥っている。
二度と、彼にそんな思いはさせたくない!
「あなた方がなんと言おうと、私は帰ります。船を戻してくれないのなら、泳いで行く!」
まだ、岸からさほど離れていない。今がチャンスだ。
リーリアも途中から目覚めていたようで、困惑の表情を浮かべ、二人の人間を見ている。
「わ、私も……モエギさんと一緒に行きます! 一度モンスターの大陸に連れ去られた女性に、人間の世界は厳しいもの。それに、モエギさんとの生活は楽しそうだから」
「リーリア、泳げる?」
「ええ、泳ぎは得意よ」
二人で頷き合い、一緒に海へ飛び込んだ。
「待て!」
人間の男性の険しい声が聞こえる。
でも、知ったことか。私たちはカルロのもとへ帰るのだ。あのダンジョンへ。




