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皇族暗殺計画を阻止せよ!(1)

「お待たせしました。後の者は、順番にやってまいりますので」


 ほどなくして戻ってきた鈴麗(りんれい)は緊張の面持ちだった。それから、彼女は懐に手をやり、中から折りたたんだ紙を取り出す。


「それは?」


「春華公主の宮の見取り図です。いなくなった娘の手を借りて作りました。おそらく、捕らわれているのはここだと思います」


 鈴麗がさしたのは地下の一点だった。


 それからしばらくして、窓から鈴麗の衣より少し粗末な衣を身に着けた娘が次から次へと入ってくる。


 彼女達は皆、それぞれの宮で情報を集めている者だった。侍女ではなく、下働きの者として入っているから、侍女の鈴麗より少し地味な衣なのだ。


蘭珠(らんじゅ)様、救出した後は――この者の部屋に匿います」


「私の部屋は、外に抜け出しやすい位置にあるので、いざとなったらそこから外に逃がします」


「……お願いね」


 それから鈴麗がてきぱきと指示を出す。春華の宮に忍び込む者、見張りを縛り上げる者。地下に向かって仲間を救出する者。


「私の勘違いならいいけれど、侍医を呼んだということは、怪我をしている可能性もある――決行は日付が変わる頃。いいわね」


 鈴麗の鋭い指示に、彼女達は一斉にうなずくと、また一人一人目立たないように姿を消す。彼女達を見送って、蘭珠は胸に手を当てた。


「誰も怪我をしないで、無事に戻ってきて」


「――問題ありません」


 景炎がここにいないのが問題だ――。


 その日の夜、蘭珠は窓のところに張り付くようにして外の気配をうかがっていた。


彼女達が無事に戻ってくることを祈って。


 予定通りに進んだなら、そろそろ戻ってきてもいいはずなのに。


「蘭珠様、ただいま戻りました」


 けれど、仲間の部屋にかくまうはずだった娘を連れて、鈴麗が戻ってくる。彼女は、怪我を負っていて、自分一人で歩くのも容易ではないみたいだった。他に二人の娘が、よろよろと歩く彼女に手を貸している。


「他の者達は、私の部屋に待たせてあります。この者の話によってはすぐに動かねばなりませんから」


 鈴麗の言葉に、うなずいた彼女は、蘭珠の前に進むと気丈に姿勢を正して一礼する。蘭珠は慌てて駆け寄り、彼女を床に座らせた。


「無事? ああ、こんな怪我をして――」


「……多少、怪我はしましたけれど、問題ありません」


 蘭珠に向かって、彼女は気丈に微笑んだ。たしかに見覚えのある顔だ。高大夫のところで、蘭珠と剣を合わせたこともある。


「春華公主に、間諜であることを知られました。申し訳ありません」


「無事に逃げ出せたのだから、それでよしとしないと――それで、わざわざこちらに来たのは?」


「皇太子の暗殺計画が決行されます――いえ、皇帝と皇子達の殺害計画といった方が正しいでしょう」


 口早に説明する娘の言葉に、蘭珠は目を見張った。


 この国では、皇帝が祭壇の前に立ち、祈りをささげる。祈りをささげた後は、祭壇と皇帝を囲むように東西南北四方に巨大な火が焚かれることになっている。


 火をたく場所には燃焼補助のために油が仕込まれていて、火がともされるのと同時に巨大な炎が上がるのだとか。


 皇帝が祈願した後、その火をともす役を負うのが、皇太子を筆頭とした四人の皇子達。


 ――皇太子、第二皇子、景炎様……そして、第四皇子。いいえ、皇子達だけではなくて、このままでは、皇帝も巻き込まれることになりかねない。


 祭壇近くにいる皇帝および四人の皇子だけではない。爆発の規模によっては、その場に参列している他の皇族たちも巻き込まれるだろう。たしかに、主立った皇族が全て吹き飛ぶことになる。


 ――そうなったら、この国は……どうなるというの。


 皇帝を失い、皇太子を失い、そして皇太子以上に家臣の信頼を集めている皇子が一度にいなくなる。


 そうなったら、この国がどれほど荒れることか――。


 ――火薬の運搬を止める? 仕込むのを止める? いったい、どうやって……?


 春華の宮に入り込んだこの娘は、この情報を集めるために命をかけてくれた。この情報を無駄にしてはならない。


 動機について、正確なところは不明。ただ、二人の婚約者を暗殺しようとした皇太子に恨みがあるのではないかという話だった。


「……それで?」


「今夜、祭壇とその周囲の火をともす場所に火薬を仕込むはずです。明日はもう、祭壇の点検も簡単にしかしないだろうからと」


「――景炎様に知らせないと!」


 春華を止めなければ。


 今、景炎は皇宮内の見回りに向かっているはずだ。蘭珠は着ていた長衣を脱ぐと、身軽に動ける衣を手に取った。それから、情報をもたらしてくれた娘の方に視線を向ける。


「教えてくれて、ありがとう。とても助かった。あなたは、すぐに傷の手当てをして身を隠してちょうだい。あなたがいないことが知られたら、きっと騒ぎになるから。今度は、私も行くわ。鈴麗、誰か景炎様を呼びにやって」


「かしこまりました。あなた、行って」


 鈴麗の指示を受けた娘が、一礼したかと思うと身を翻して走り出す。


 捜索に向かっていた鈴麗は、既に動きやすい装束を身にまとっている。同じように、捜索に向かった娘達が頭を下げた。


「では、すぐに祭壇のある場所に向かって。火薬を仕込んでいる者の姿がなければ、身を隠して待機。仕込んでいる最中だったら、その間に体制を整えて、こちらの準備ができ次第捕縛して。裏に誰がいるのかを吐かせたいから、殺してはダメ」


 蘭珠の鋭い声に、娘達はきりっとした表情でうなずく。それから、蘭珠は愛用の剣を手にとると、それを腰にさした。


 ――今、ここで大きく事態が動こうとしている。それを忘れないようにしないと。


 闇の中、足音を殺して祭壇へと向かう。


 今は、目の前に迫った困難をどうにかすることしか考えられなかった。

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