表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
連載版 悪の組織もわるくはない  作者: 来栖ゆき
レディ・アスモデウス登場 の巻
3/3

◆3◆

 榊原恵(さかきばら けい)。アスモデウスをあんな目に合わせた男。

 過去の出来事を思い返せば、腹の内からふつふつと怒りが蘇ってくる。

 今度会ったら、あることないことでっち上げて警察にいられないようにしてやる、と復讐を誓ったものの、残念ながらその機会にはなかった。

「何で警察のアンタがここにいるのよ!」

 びしっと指を差せば、サタンはすかさず言い返す。

「指をさすな。下等生物が」

 嫌味を付け加えることも忘れない。

「あら、二人は知り合いだったのね。サタンは警視庁に勤務しているの。階級は確か、警視だったかしら?」

 サタンは警視正だ、と訂正するが、レヴィアタンは聞こえていないのか話を続ける。

「キャリア組なんですって。すごいわよね。サタンからは警察の内部情報も仕入れているわ」

 初めて出会ったあの時は、どうやら現場研修中だったらしい。どうりで、いくら探しても会えなかったわけだと、アスモデウスは悔しさに顔を歪め、唇を噛んだ。

「ってゆーかレヴィ、このテーブルどうすんの? 強化ガラスにヒビを入れるなんて。ルシファー様がせっかく闇の()淵の()秘密オークション(オク)で競り勝ったのに、これじゃもう使えない」

 マモンが呟くと、レヴィアタンが目を吊り上げた。

「ったく、こうなったのは誰のせいよ! あんたたちでしょう!」

 優しそうなお姉さんは一変、天女の羽衣に見えたストールは蛇のようにうねっている。

「あ、あの、レヴィさん……?」

「あら……あらあら、ごめんね。ついイラッとしちゃって」

 本当はこんなに怖くないのよ、と照れたように肩を竦め笑って話すレヴィアタンのストールは、すでに鋭い目を付けた大蛇に変わっていた。

「いい加減、本性を現せ。嫉妬の悪魔よ」

 サタンが軽く嗜めると、レヴィアタンは肩を落として息を吐いた。

「もうっ、せっかく女の子が入るって聞いて楽しみにしてたのに。やさしいお姉さんでいたかったのに、初日からばれちゃうなんて」

 第一印象の優しいお姉さんは、まやかしだったようだ。

「まあいいわ、それじゃあ早速仕事にいきましょ」

 顔見知りなら、とレヴィアタンは、あろうことかサタンをアスモデウスの教育係に任命した。

 二人して文句を言うが、蛇のストールが鎌首をもたげ、黒い霧を発生させるレヴィアタンには、サタンも逆らえないらしい。

 小さな声で更年期障害か、と呟いていたのを、アスモデウスは聞き逃さなかったが、レヴィアタンには黙っておくことにした。ブチ切れて発生させる毒霧に巻き込まれでもしたら、たまったもんじゃないから。

「陽動はレヴィとマモンの担当だ。奴らがエンジェルズと暴れている間に、俺たちは目標物を破壊する」

 イライラした様子で廊下を歩く彼のあとを、アスモデウスは急ぎい足で追いかける。

「貴様は今日は見学だ。名乗ったあとは余計なことをせず大人しくしていろ」

「ハイハイ」

 すると、サタンはぴたりと立ち止まり、振り返ってアスモデウスの首を掴み、壁に押し付けた。

「っ――」

「返事は一度でいい」

「……わかったわよ」

 少しだけ緩んだ指の隙間から、アスモデウスは小さな声を出す。

 それを見て、サタンは薄く笑った。かと思えば顔を寄せ、アスモデウスの唇を塞ぐ。

「んっ」

 手袋の感触がアスモデウスの露出した肌をくすぐるようになぞる。その手は下へと移動していき……

 ちゅっと音を立てて唇を離し、サタンの胸を押すと、アスモデウスは目を細め、くすりと笑った。

「なによ、溜まってんならそう言いなさい。あたしが楽にしてあげるから」

 言いながら、サタンの頬を指でなぞる。

 その手を掴み壁に押し付けると、サタンは低い声で囁いた。

「その言葉、後悔させてやろう」

 冷たい石壁の廊下で聞こえるのは、衣擦れの音と、男女の微かな喘ぎ声だった。



◆◇◆



 お台場に着くと、すでにレヴィアタンとマモンはキューティーエンジェルズと交戦中だった。

 サタンが流した情報により、報道と警察が集まってきてはいるが、戦いが激しいためか、それとも止められているのか、警察は黙って見ているだけだった。

 激しい轟音と共に現れたサタンが口上を述べ、次いでアスモデウスも身体をくねらせながら名乗った。

 初登場のアスモデウスに、周囲はどよめき、報道のカメラマンは何度もシャッターを切る。現場に集まっていた野次馬はアスモデウスの艶めかしい外見に、すでに心を奪われているようだった。

「遅いじゃないの! 定刻を30分も遅れてるわよ!」

 街灯の上に着地したレヴィアタンは開口一番に文句を言った。

 激しい戦いだったのか、蛇のストールは半分が焼けただれ、大蛇はぐったりとしている。

「だが、いいデータも取れた。想定外の延長戦を強いられた場合、疲労度60%に対して、レヴィが出す必殺技のパワーは通常の1.2倍。これは偶然か? それとも……」

 ぶつぶつと何かを分析し続けるマモン。

「ごめんね。そこのサタンが、どうしても出掛ける前にスッキリしたいって言うから。あたしはこの衣装だからすぐに準備できたんだけど、彼のはボタンが多いから……ねえ?」

 肩を竦めて言えば、サタンはふいと顔を逸らして腰のサーベルを引き抜いた。

「キューティー☆エンジェルズよ、貴様らの愚行などまったく意味をなさない。見よ!」

 サーベルを天に掲げると、突然空が曇りだし、一筋の(いかづち)がお台場の象徴でもある『自由の女神像』に落ちた。

 女神像は音を立てて崩れ、ただの瓦礫と化す。

「何てことを……あの自由の女神は、フランスとの友好の象徴なのに!」

「人気の観光スポットを破壊するなんて……ここをプロポーズの場所にしている人もいるのに、許せないわっ」

 きゃいきゃいと騒ぐエンジェルズたちを尻目に、レヴィアタンはアスモデウスとサタンを交互に見る。

「あ、あなたたち、任務中になにしてたの!? もしかして……」

「何でもいいだろう。こうして任務は済んだのだから」

「あれ、レヴィも参加したかった? それじゃあ今度は三人でする?」

「それもまた、一興だな」

「三人で、って――な、な……」

 何かを察したらしいレヴィアタンは、頬を赤く染めて口をパクパクと動かすだけだった。

 その隙に、エンジェルズは大きな十字架を天に掲げる。

「アンジェブラン・ルミエール……アーメン!」

 合体技がさく裂し、すんでのところでよけたレヴィアタンは、気を取り直して舌打ちをすると手を挙げて合図を出した。

「ちっ、今日のところは引くわよ!」

「いいデータが取れた。恩に着る」

「覚えていろ、エンジェルズ!」

「じゃあね、色気のないオチビさんたち~☆」

 最後にアスモデウスがちゅっと投げキッスをして、セブンス・ヘルは闇へと消えた。


 それからしばらくした頃、自由の女神像があった台座の上には、『世界を制する魔王ルシファー様』と題された像が建設されることになった。何故かフランスや近隣住民からの抗議は一切なく、着々と工事が進み、先日竣工式が執り行われたのである。

 式典のテープカットにはもちろんルシファー本人も出席し、特集を組んだ情報番組は高視聴率を叩きだした。

 セブンス・ヘルが活動を始めて、わずか二か月目のことだった。



◆◇◆



 仕事を終えたアスモデウスが、バー『死神の休息』の扉を開けると、カウンター席にはレヴィアタンが座っていた。その隣には金髪の男。敵のミハイルだ。

「それでは、処女受胎とは何か、ご存知ですか?」

「は? そんなの存じないわよ! っていうか離れてちょうだい。私は一人で飲んでるの!」

 そんなやり取りを横目に、アスモデウスは椅子を一つ開けてカウンター席に座った。

「はあ……」

 マスターは黙ってアスモデウスにいつものドリンクを用意してくれる。にっこりと笑顔でお礼をして、グラスに口を付けた。

 けれど、どうしてだか今日は酔えそうもない。

 何度目かのため息のあと、蜂蜜色の液体をじっと見つめていると、ミハイルを追い払ったレヴィアタンが隣に移動してきた。

「どうかした?」

 心配そうにアスモデウスの顔を覗き込む。

「うん……ちょっと悩んでて……私、隠れMかもしれなくて……どうしたらいい?」

「……え? 隠れ、何?」

「普段はそうでもないんだけど、あの目に睨まれると、なんかおかしくなるの。大嫌いだったはずなのに、ぞくぞくしちゃって、蹂躙されいって思うの。普段はあたし女王様気質だから、どちらかというと騎乗位の方が好きなんだけど。レヴィはそんな経験ない?」

「え、経験? ああ……経験ね、うん。あはは……」

 レヴィアタンは何故か視線を逸らし、ついには黙ってしまった。

 解決策を見出せないまま、アスモデウスは悩ましげに睫毛を伏せて息を吐く。

「……はあ」


 アスモデウスの明日はどっちだ――!?







 ……To Be Continued.

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ