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故意無き恋~クリスマスの不適格者~  作者: おふとんふゎゎ


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14/20

第14部:嘘吐きごっこのお節介

「はははははははははははは! ははははははははっはははははははははははは」

「ライア!?」

「はははははははあははははははははははははははははは! はっははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!」


 笑っている。

 ライアが、笑っている。

 狂わんばかりに高らかに、力強く、心底おかしげに。


「はははあはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは、あはははははははははははっははははっはっはっはっは、あははははっはっは、」


 止まらない。

 パブ中の客の視線がライアと、彼に向かい合っている僕に集まる。

羞恥で僕の顔が、体がカァッと熱くなって、今すぐにでも消えてしまいたいとばかりに身をすくめるけれど、ライアは気にすることなく笑い続ける。

 腹を抱え、ライアは笑う。


「……ライア」


 思えば、親友がここまで感情を見せるのは初めてだったかもしれない。

 いつも笑ったり、不機嫌そうにしていたり、怒って殴りかかったりすることはあったけれど、それでもどこかに理性が残っていて、抑制がかかっていた。

 だけど目の前のライアはそれらを取っ払ったように、楽しげに笑っていた。


「まったく、これは驚いたな!」

「何がだ?」

「どうしてこうも莫迦で、阿呆なんだかなぁ!」

「誰がだ?」

「オレも、オマエも、あの女もだ!」


 しばらくして笑いが収まった後、ライアは声を張り上げるが、それは言葉の内容とは裏腹に嬉しげな色を帯びていた。


「ここまで、揃いも揃って何もかもを勘違いし続けるとはな。呆れや怒りなんか通り越して、滑稽ですらある」

「は?」

「中心にいる当の本人は演技でもなんでもない、素で気づいちゃいないとくるんだ、ロクでもないことに拍車がかかっていやがる」

「……お前は、何を言ってるんだ?」


 ワケも分からず僕が首を傾げると、ライアは笑いの余韻を顔に貼りつけたままにウイスキーを飲み干し、ダンッ、と叩き付けるようにグラスを置くと、小さく息を吐いた。


「アインはまだ、気づいていないんだ……まあ、一度も味わったことのないモンだ、気づかなくて当然だ」

「だから、お前は何を言ってるんだよ」


 目の前の悪友が言おうとしていることが、さっぱり分からない。

 それに、なんだか体が熱い。

 僕は最初に注文した林檎酒のグラスにはまだ口をつけてすらいないのに、体のどこからか熱が灯っているように体が熱い。


 ――カラン、コロン


 不意に鳴る、高い音。

 その源はパブのドアに掛けられた鈴で、開いたドアから黒い影滑りこみ、ライアの隣に立つ。


「――ライアさん」


 低い声でそう言った来客は、見覚えがあった。

 たしか……そう、ライアの部下の一人だ。


「頼まれたモノ、お持ちしました」

「おう、ありがとさん」


 短いやり取りで部下の男がライアに渡したのは薄い茶色の紙袋で、申し訳程度にリボンがかかっている。

 部下の男はライアに深々と頭を下げ、続いて僕にも小さく会釈すると、踵を返し出口へと足を向け、ライアはそれを目で追う。

 カラン、コロン。

 再びドアが開閉され、鈴の残滓が消えた後、ライアは僕へと向き直り、アルコールを感じさせない目でまっすぐに僕を見た。

 それから数秒ほど視線を交わし、


「やっぱり言葉不足だよなぁ、オマエは」


 ライアは僕から目を離し、ウイスキーの入ったグラスを手に取る。

 そして、親指と人差し指だけでグラス摘まみ、ぷらぷらと小さく揺らしながら、


「なぁんにも、言えない。言おうとして、躊躇っちまう」


 歌うように、酔っ払いの鼻歌、ともすれば愚痴の一つでもあるかのように、


「そうしていっつも、大事なことは気づけばドブの底に沈んじまってる」


 ライアの口調は、軽かった。

 巻き藁、ともすれば鳥の羽のように、軽かった。


「なあ、アイン」

「何だ?」


 口にして初めて、僕の声が固く、ぶっきらぼうになっていることに気付く。

 なぜか、なんて考える必要さえなくて、すぐにその答えに行き着いた。


(……ああ、そうか)


 僕は、苛立っているんだ。

 怒っているんだ。

 いつもは気にしない、ライアの人を食ったような、肝心な部分だけぼかした態度に苛立ちを覚えているんだ。


「何度も訊くがな、――オマエは、これからどうする?」


 ライアは、初老のマスターが空いたグラスに新たにウイスキーを注ぐのを眺めていて、その目はさっきまでのどんよりと曇ったモノとは違う、怒りの取り去られた優しげな眼差しに変わっていた。


「このまま、黙って事が終わるのを眺めるだけか?」

「それは……」


 どう、って?

 どうも、しようがないじゃないか。


「医者に見せちゃいるが、そう長くは持たないだろうってのは、オマエも分かってるだろ?」

「……ああ、分かってるさ」


 ブリスはもうすぐ死ぬ、これは変えようがない事実だ。

 運が良ければ、なんていう余裕はなくて、痛みや幻に悶えながらそう遠くない所に立つ死神がやってくるのを待つしかないのだ。


「ブリスを、このまま逝かせる気か?」


 目は、優しげだ。

 口元は、笑みに歪んでいる。


「名にそぐわぬ人生を歩ませて、そのまま幕を下ろさせる気か?」


 だけど、その声は、違っていた。

 言葉を紡ぐそれは、凍らせたナイフのような、ひどく冷たい声だった。


「そんな間抜けなオマエに――ほら、受け取れ」

「……え?」


 ライアが差し出してきたのは、ついさっき部下が持ってきた、ささやかなリボンがかけられた茶色の紙袋だった。

 受け取ったそれは見ために反してずしりと重く、だけど薄い紙を通して伝わる感触は柔らかい。


「開けてみろ」

「……うん」


 うながされ、リボンを解いて紙袋につっこんだ手が感じたのは、ふわりとした柔らかさと、温かさ。

 取り出し、広げてみると、


「セーター……?」


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