僕のよふねとじいさんのこと6
短いです。
「僕の持論で年寄りの戯言だがね、芦名くん聞いてくれるかい。僕はこの75年の人生の中で数えきれない死に遭遇してきた。それをね、ある時から僕は『遭遇』ではなく『看取る』と言い換えることにしたんだ。だって、死は必ずしも忌むものではないだろう? 酷く恐ろしいものだけども死を迎えた人には忌まわしい気持ちなんて起こりやしない。少なくとも僕はね。それに、僕が『看取って』きた人たちにも本当の意味で看取る、その人の死に直面した人たちがいる。僕はその人達の中に加わっただけなんだよ。それでいて、すこーしその加わった数が多かっただけだ。僕は運良く生き残ったが大戦の時は加わるどころかいつも看取る当事者だったものだしね。――僕はそう思うんだ。今は。これは僕がやっとこの力を受け入れた証拠だと思っているよ。」
話し終えてからまだ言葉を発せない僕を見て苦笑する、
「それでもだよ、芦名くん。僕はそう思ってもこの年になっても“仲間”に出会えるのが嬉しいんだ。君たちは唯一僕に 普通の感覚を味あわせてくれる大切な存在だ。それにとまどったことも何回か経験しているが、彼らが死にゆく時に大きな悲しみやらなんやらとほんの少しの嬉しさがを感じたんだ。歪んでいるだろうね、他の人から見れば。だが、そのほんの少しの嬉しさが僕の生きている理由の一つに思えたんだ。」
僕の抱える罪悪感の中身にソレが入っている。
望月さんに出会った時に心の片隅で芽生えた罪の芽だ。
排除しようとしても、勝手に育ってゆくそれは確かに僕の中に存在している。
「だから、僕はこの力を嬉しく思うんだよ。」
その一言で僕の何かが、解けた。
あの日、座り込んだままの僕が落ち着くまで、君を驚かせてしまった悪い大人の責任だよと言いながら待っていてくれたじいさん。
いつの間にか店は閉まっていて、カウンターに鍵の束と
『話し込んでいるようなので先に帰るわね。店の戸締りだけお願いします。鍵は郵便受けに入れておいてくれればいいから。春美』と書き置きがあった。
いつの間に店を閉めたんだと疑問に思ったが、じいさんは気づいていたらしい。
先にじいさんを出して、店の戸締りをする。
遅い時間になってしまったのでじいさんを家まで送っていった。
「友達と家に帰るのは何年ぶりかね。」と嬉しそうにしていたので良しとする。
送り届けると、引き返し鍵を返しに行かねばならない。
ポストで良いと言っていたが直接謝りたい。
「こんばんは。こんなに遅くなって、本当に申し訳ありませんでした。でもおかげさまで、最近の悩みが少し解消した気がします。」
鍵を渡しながら少しは晴れやかになったであろう顔を見せた。
「良い面になったじゃねえか。あのじいさん、只者じゃねえ空気出してるからな。店の事は気にすんな。秋也には世話になってるからよ。お前がスッキリしたんならそれで良い。」
ドア縁に持たれたたり腕を組んだヨージさんはニヒルな笑みを浮かべた
。言い返したくなったがその目が優しいことは言いたくないので黙っておこう。
気をつけて帰れよ!と言われてヨージさんと別れた。最終のバスまで10分はある。
今日は何もかもが順調のような気がする。
バスに揺られながらじいさんが言った言葉を思い返す。あの人はこの力を『嬉しい』と言った。僕に会えて『嬉しい』と言った。望月さんも同じ事を言った。
彼らにとって僕は文字通り『未知』の存在だということを初めてわかったような気がする。そして彼女とじいさんが言った言葉たちに、あの時よりも現実味が出てきて彼らが何を言いたくて僕に伝えたかったのか少し理解できた。
――残りの部分は多分、これから僕が生きていく中で理解できるものなんだろう。
未熟な話を読んでくださりありがとうございました。
ポイント評価だけでもお待ちしております。




