表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
しらかわよふね  作者: 蚊取線香
僕とじいさん
13/15

僕のよふねとじいさんのこと5

目の前の光景が信じられない。

じいさんはいつも通りに近くの客やヨージさん夫婦と話したり本を読む。

このじいさんは確実に7日を過ぎても『生きている。』


それは嬉しいし、まさかの展開にこんな幸せなことはなかなかないと思うのだが――。

しかしとうとうこの力もおかしくなり始めたのか。

それならいっそなくなってくれないだろうかと違う方向へ思考が傾いていると問題の人物と目が合った。

いつもの笑い顔ではなく、ニヤリと聞こえてきそうな笑い方をしていた。

 




客の入りが少なくなるまでじいさんは座って本を読んでいた。

そう、この一週間で初めての“居残り”だ。自分の仕事を済ませてヨージさんたちが裏で発注の確認をやりに行ったのをタイミングにして、僕はじいさんに話しかけた。



「僕と、同じですよね。」

肯定だ。じいさんはまたニヤリと笑って

「ようやく気づいたね。僕がなかなか死ななくて驚いたでしょう。」

と平然と言ってのけた。

「――ええ、僕の場合は“期限”が7日以内なので…今日いらっしゃった時は驚きすぎて倒れそうになりましたよ。」

「それはそれは。少しからかいが過ぎてしまったようだね。久しぶりに“仲間”に会ったものでつい反応を伺いすぎてしまったよ。」

少しバツの悪そうな顔をしているが……酷いものだ。

「毎日気が気じゃなかったですよ。少しでも距離を置こうと思ったり、それでもどうしても考えてしまったり――あの時の気がかりはあなたのことですよ。」

少し感情を顕にして言えば、カラカラと笑った。

「だから言ったでしょう。『何かあったら僕の暇つぶしがてら話してみるといいよ。少しは解決に近づけるかも知れない』ってね。」

まさにその通りだっただろう?

「まったく、ええ、その通りですよ。」

投げやりな気分になってくる。

「――初めから気づいていたんですか?」

「ええまあ。私の場合は死ぬその瞬間までアレが見えてしまうからね。【数字】がない人間なんて、同じ“仲間”以外に 考えられないのだよ。」

穏やかな笑顔とまだ僕をおもしろがっているような顔で言い放った言葉に、僕は固まった。少し優しい目をしてから

「大丈夫だよ、僕はこの年になってやっと受け入れ始めた。だから芦名くんほどの悲壮感は僕の中にはもう、ない。」

と淡々と話した。その表情に垣間見えたのは、この人の過去にあったであろう酷くつらい出来事。

だがそれを隠すわけでもなく笑っている。



「どうして、どうしてそんな風に思えるんですか。どうして。」

もっと他に言いたいことがあるのに、駄々をこねる子どものようなセリフしか出て来なかった。

「どうして、か。そうさね、やはり一番大きい理由は見送った数だよ。」

僕はね、芦名くん。

「数字が少数にまで下がってまで見えるんだ。文字通りその死まで見てしまったのは……あまりにも多い。身内も全く知らない他人も、一日に何十人という人数で見てきたよ。あの時代は酷過ぎた。僕にかぎらず誰にとってもね。」

戦争。

僕の知らない忌むべき出来事。


「集団で逃げている時のことだ。ふと隣を見れば彼の数字がもうかなり小さくなっているじゃないか。その隣も後ろも前も。さっきまではみんなもっと大きな数字を持っていたのにね。それで僕はその意味に気づきここは危ない、と叫んで 少しでもっみんな逃げられるように走りまわったさ。誰も信じてくれるわけなんてなかったのにだよ。それにね、今思えばあの時代はどこに逃げたって無事に過ごせる場所なんてなかったんだよ。大人たちはそれを知っていたんだね。」

どこか懐かしむように語る姿が僕をとても小さく思わせた。

「おっと、話がずれてしまった。そう、僕は死を見せつけられて生きてきた。実はほんの少し前までは芦名くんのように“傍観者”だったんだよ。ああ、気づいていたよ最初から。だって僕によく似ているからね君は。そこに至るまでの経緯もなんとなく予想できるよ。何より君はこの一週間“傍観者”であろうとし続けていた。」


そう、関わってはいけないと僕は。


「しかしだが、君は自分の心に抵抗しながらも僕に接触していたね。探るような視線は隠せるものじゃないよ芦名くん。こう言っては失礼だが、そんな君がひどくおもしろくて懐かしく思えたよ。ああ、そんなに不機嫌な顔をしないでおくれ。ただ思い出してしまったんだよ昔の僕を。家族でさえも干渉しないように、傍観者であるように言い聞かせ続けた僕の半生を。」

立っていられなくなりじいさんの横の床に座り込んだ。

諭すような、慈しむような声色に何かが解けるそんな期待を微かに抱きながら。



「今こうなってしまえば、傍観者に徹していた時が馬鹿げた規律に思えるよ。もっと、素直に過ごせばよかったのにってね。君もきっと当時の僕の気持ちがわかるだろう? だからね、君を見ているとまるで君を自分の子どもか分身のように思えるのだよ。傲慢極まりないだろう? 申し訳ないね。」

目の前で笑みを浮かべるこの人がこうしていられるのは、傍観者として過ごす中で何か答えを見つけたからなんだろう。

それがどういうものか僕にはわからないが、深く開いてしまった穴に少しずつ土が被せられて埋められていくようなものの気がした。


















未熟な話を読んでくださりありがとうございました。

ポイント評価だけでもお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ