↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢なのに慕われる!?~令嬢たちが放っておいてくれません~  作者: ねぎとろ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
99/99

第102話 母の教え

 エマの縁談について打ち明けられてから、二日が経った。

 ヴィオレッタは授業を終えると、いつもより少し早足で学院の廊下を歩いていた。

(お母様から、お返事が来てるかな……)

 昨日、アルバレス公爵家へ送った手紙には、まだ返事が届いていない。急ぎの相談だと伝えてはいたものの、母も忙しいはずだ。

 そう思いながら角を曲がろうとしたところで、背後から聞き慣れた声がした。

「ヴィオレッタ!」

「あ、セレス!」

 振り返ると、金色の髪を揺らしながらセレスティアが駆け寄ってきた。

「今日はずいぶん急いでるね。何か予定でもあるの?」

「うん、ちょっとね。お母様からのお手紙を待ってるんだ」

「公爵夫人から?」

「そうなの。少し相談したいことがあって」

 セレスティアは不思議そうに首を傾げたが、それ以上は尋ねなかった。

「そっか。じゃあ、今日は引き止めない方がよさそうだね」

「ごめんね、セレス」

「いいって! 何か手伝えることがあったら言ってよ」

「うん、ありがとう!」

 ヴィオレッタが笑うと、セレスティアも明るく手を振った。

「それじゃ、また明日!」

「うん、また明日!」

 セレスティアと別れたヴィオレッタは、寮へ向かって歩き出した。

 友人たちに事情を話すことも考えたが、エマの実家に関わる問題だ。本人の許可なく広めるわけにはいかない。

(まずは、お母様に相談してからだよね)

 そう心の中で頷き、歩く速度を少し上げた。


◇


 寮の自室へ戻ると、エマが机の上に一通の封筒を置いていた。

「お帰りなさいませ、ヴィオレッタ様」

「ただいま、エマ! ……あっ、それ!」

「はい。イザベラ様からのお返事が届いております」

「本当!?」

 ヴィオレッタは急いで封筒を手に取り、丁寧に封を開けた。

『ヴィオレッタへ。

 お手紙をありがとう。エマのことで相談があるとのこと、承知しました。

 詳しい事情はまだ分かりませんが、あなたが真剣に考えていることは伝わってきました。

 明日の午後、こちらへいらっしゃい。時間を空けておきます。

 久しぶりにあなたの顔を見られるのも楽しみにしています。

 母より』

「……お母様!」

 ヴィオレッタは嬉しそうに声を上げた。

「明日、お屋敷に来ていいって!」

「それは何よりでございます」

 エマはほっとしたように微笑んだが、その表情には少しだけ緊張も混じっていた。

「……ヴィオレッタ様。本当に、よろしいのでしょうか」

「何が?」

「私のことで、イザベラ様のお時間をいただくなど……」

「もちろんだよ! お母様も、ちゃんと話を聞いてくれるって」

 ヴィオレッタは手紙を大切そうに胸に抱いた。

「それに、エマのことは私だけの問題じゃないもん。お母様だって、きっと心配してくれるよ」

「……ありがとうございます」

 エマは深く頭を下げた。

 その姿を見て、ヴィオレッタは慌てて首を振る。

「そんなにかしこまらなくていいよ! 私がそうしたいだけなんだから」

「ふふ。そうでございますね」

 エマは小さく笑った。

 その笑顔を見て、ヴィオレッタも安心したように頬を緩めた。


◇


 翌日の午後。

 ヴィオレッタはエマとともに、久しぶりにアルバレス公爵家の屋敷を訪れていた。

 玄関を抜け、案内された応接室へ入ると、そこには母イザベラが待っていた。

「ヴィオレッタ!」

「お母様!」

 イザベラは娘の姿を見るなり立ち上がり、嬉しそうに両手を広げた。

「まあ、少し見ない間に、また綺麗になったんじゃないかしら」

「ええっ、そんなに変わってないよ!」

「いいえ。母親には分かるものなのよ」

 そう言って、イザベラはヴィオレッタを優しく抱きしめた。

「学院祭も大成功だったそうね。お父様から聞いたわ」

「うん! みんなで頑張ったんだよ!」

「ふふ。今度、ゆっくりお話を聞かせてちょうだい」

 イザベラは名残惜しそうに娘から離れると、エマへ視線を向けた。

「エマも、お帰りなさい」

「ただいま戻りました、イザベラ様」

「いつもヴィオレッタのことをありがとう。あなたがそばにいてくれるから、私も安心していられるわ」

「……もったいないお言葉でございます」

 エマは丁寧に頭を下げた。

 イザベラは穏やかに微笑み、二人へ席を勧めた。

「さあ、座って。今日は大切なお話があるのでしょう?」

「うん……」

 ヴィオレッタは少しだけ緊張しながら、椅子に腰掛けた。


◇


「……エマに、縁談が来ているの」

 ヴィオレッタがそう切り出すと、イザベラは静かに頷いた。

「そう。それで?」

「相手はハーディング子爵っていう人なんだけど、エマはその人と結婚したくないんだって」

 イザベラはエマへ視線を向けた。

「エマ。それは本当なの?」

「……はい」

 エマは膝の上で手を重ね、静かに答えた。

「父から、一方的に話を進めたという手紙が届きました。ですが、私はその方にお会いしたこともなく、結婚を望んでおりません」

「そう……」

 イザベラはしばらく考え込んだ。

「グレイフォード男爵家だったわね。あなたのご実家は」

「はい」

「確か、地方に領地を持つ家だったと記憶しているわ」

「……そのとおりでございます」

 エマは少しだけ俯いた。

「実家は、以前から財政的に苦しい状況にございました。父は今回の縁談によって、子爵家から援助を受けようとしているようです」

「なるほどね」

 イザベラは静かに紅茶を置いた。

 ヴィオレッタは思わず身を乗り出す。

「お母様! エマが嫌がってるんだから、断ってもいいよね?」

「もちろん、本人が望まない結婚を無理に進めるべきではないわ」

「じゃあ……!」

「でもね、ヴィオレッタ」

 イザベラは優しく娘の言葉を遮った。

「あなたがエマを大切に思う気持ちは分かるわ。けれど、ここで一つ、忘れてはいけないことがあるの」

「……何?」

「エマの人生を決めるのは、あなたでも、あの子のお父様でもない。エマ自身よ」

 ヴィオレッタは目を瞬かせた。

「……うん」

「あなたが公爵家の娘として強く出れば、相手の家も簡単には逆らえないでしょう。でも、それではエマの代わりにあなたが決めたことになってしまう」

「……そっか」

 ヴィオレッタは小さく頷いた。

 自分はただ、エマを助けたいと思っていた。

 けれど、その気持ちが強すぎれば、知らないうちにエマの意思を置き去りにしてしまうかもしれない。

「……じゃあ、私はどうすればいいの?」

 イザベラは柔らかく微笑んだ。

「エマが自分の意思を伝えられるように、支えてあげなさい」

「……支える?」

「ええ。必要なら私たちも力を貸すわ。でも、最後に答えを出すのはエマ自身でなければならないの」

 ヴィオレッタはしばらく考えたあと、ゆっくりと顔を上げた。

「……分かった」

 その瞳には、真剣な光が宿っていた。

「私、エマが自分で決められるように手伝う!」

「ふふ。それでこそ、私の娘ね」

 イザベラは嬉しそうに微笑んだ。

 そして、エマへ視線を向ける。

「エマ。あなたは、どうしたいの?」

 エマは一瞬、言葉に詰まった。

 けれど、ヴィオレッタが隣で小さく頷いてくれたのを見て、ゆっくりと口を開いた。

「……私は、今の仕事を続けたいと考えております」

「そう」

「ヴィオレッタ様のおそばで、これからもお仕えしたいのです」

 イザベラは静かに頷いた。

「分かったわ。その気持ちは、きちんと受け取ったわよ」

「……ありがとうございます」

 エマは深く頭を下げた。

 その目には、少しだけ涙が浮かんでいた。


◇


 話が一段落すると、イザベラは少しだけ表情を引き締めた。

「ただし、今回の件には気になることがあるわ」

「気になること?」

「ええ。グレイフォード男爵家の財政状況と、ハーディング子爵が援助を申し出た理由よ」

 ヴィオレッタは首を傾げた。

「お金に困ってるから、助けてくれるんじゃないの?」

「もちろん、そういう可能性もあるわ。でも、家同士の結婚に金銭の話が絡むなら、条件をきちんと確認する必要があるの」

 イザベラはエマへ向き直った。

「エマ。お父様から届いた手紙を、見せてもらってもいいかしら」

「……はい。持参しております」

 エマは鞄から封筒を取り出し、丁寧に差し出した。

 イザベラは内容を一通り読み、わずかに眉を寄せた。

「……なるほど」

「お母様?」

「少なくとも、この手紙にはエマ本人の意向を確認した形跡がないわね。それに、援助の条件も曖昧だわ」

 イザベラは手紙を机に置いた。

「まずは事実関係を確かめましょう。相手方がどのような話をしているのか、こちらでも確認してみるわ」

「本当!?」

「ええ。ただし、勝手に縁談を破談にするためではないわよ。エマが自分の意思を伝えられるよう、状況を整理するためよ」

「うん、分かってる!」

 ヴィオレッタは大きく頷いた。

 イザベラはそんな娘を見て、少しだけ目を細めた。

「……それにしても」

「ん?」

「あなたが、こんなふうに誰かのために真剣に悩むようになるなんてね」

「えっ?」

「ふふ。何でもないわ」

 イザベラは微笑みながら、ヴィオレッタの頭を優しく撫でた。

「本当に、大きくなったわね」

「も、もう! お母様ったら!」

 ヴィオレッタが照れたように頬を赤らめると、エマも思わず小さく笑った。

 その笑顔は、ここ数日で一番自然なものだった。


◇


 夕方、屋敷を出る前に、ヴィオレッタはエマと庭園を歩いていた。

 秋の風が木々を揺らし、色づいた葉が足元へ舞い落ちる。

「……エマ」

「はい、ヴィオレッタ様」

「今日は、来てくれてありがとう」

「……こちらこそ、ありがとうございます」

 エマは静かに微笑んだ。

「ヴィオレッタ様が声をかけてくださらなければ、私はきっと、誰にも相談できなかったと思います」

「そんなことないよ。エマはいつも頑張ってるんだから、たまには誰かに頼ってもいいんだよ」

「……ふふ。そうでございますね」

 エマは少しだけ目を細めた。

 ヴィオレッタは隣を歩きながら、空を見上げる。

「私ね、エマには幸せでいてほしいんだ」

「……ヴィオレッタ様」

「だから、ちゃんと自分で決めてね。私は、そのお手伝いをするから!」

 エマはしばらく黙っていた。

 そして、ゆっくりと頷いた。

「……はい」

 その声には、以前よりも少しだけ力がこもっていた。

 ヴィオレッタは嬉しそうに笑い、エマも穏やかに微笑み返す。

 まだ、何も解決したわけではない。

 けれど、少なくともエマは、もう一人ではなかった。

 そして、その日の夜。

 イザベラの指示を受けた公爵家の使用人が、グレイフォード男爵家とハーディング子爵家について調べ始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。