↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢なのに慕われる!?~令嬢たちが放っておいてくれません~  作者: ねぎとろ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
74/96

第73話 夏休みまで、あと少し

 フィオラ女学院の夏は、思っていたよりも暑かった。

 高い天井に大きな窓。風通しのよい造りのおかげで、教室の中は比較的涼しい。それでも、午後の日差しが差し込む時間になると、窓際の席にはじんわりと熱がこもる。

 ヴィオレッタは教科書の端を押さえながら、窓の外を眺めていた。

 中庭の木々は青々と茂り、噴水の水面が太陽の光を受けてきらきらと輝いている。

(……暑そう)

 窓の外を眺めるだけで、なんだか喉が渇いてくる。

「アルバレスさん」

「はいっ!」

 突然名前を呼ばれ、ヴィオレッタは慌てて背筋を伸ばした。

 教壇に立つ教師が、こちらを見ている。

「今説明した箇所を、もう一度読んでもらえますか?」

「……ええと」

 ヴィオレッタは教科書に視線を落とした。

 どこだろう。

 少なくとも、今開いているページではない気がする。

 隣の席から、小さな紙片がすっと差し出された。

『四十二頁、三段落目』

 アリアの整った文字だった。

「四十二頁の三段落目ですね!」

 ヴィオレッタが勢いよく答えると、教師は少しだけ眉を上げた。

「……そうです。では、お願いします」

 何とか読み終えたところで、授業終了の鐘が鳴った。

 ヴィオレッタは、ほっと息を吐いた。

「……助かったあ」

「窓の外ばかり見ているからですよ」

 アリアが教科書を閉じながら言った。

「だって、暑そうだったんだもん」

「暑そうなのは分かりますけど、授業とは関係ありませんよね」

「……はい」

 ヴィオレッタが素直に頷くと、アリアは小さく笑った。

「まあ、今日はいつもより暑いですからね」

「でしょ?」

「だからといって、次も助けられるとは限りませんよ」

「うっ……気をつけます」

 アリアは満足そうに頷いた。

 その時、教室の後ろから楽しそうな声が聞こえてきた。

「あと五日ですわね!」

「ええ、待ち遠しいですわ!」

 ヴィオレッタは、そちらへ顔を向けた。

「……あと五日?」

「夏休みですよ」

 アリアが答えた。

「来週から、長期休暇に入ります」

「あっ、そっか!」

 ヴィオレッタは、ぱっと顔を輝かせた。

「もうそんな時期なんだね!」

「……今さらですか?」

「いや、知ってたよ? 知ってたけど、改めて聞くと嬉しくて!」

 アリアは、何か言いたそうにヴィオレッタを見た。

 けれど、結局何も言わずに微笑んだ。

◇

 昼休み。

 食堂へ向かう途中、ヴィオレッタは廊下の向こうに見慣れた金髪を見つけた。

「あ、セレス!」

 声をかけると、セレスティアが振り返った。

「ヴィオレッタ! ちょうどよかった」

「どうしたの?」

「昼、一緒に食べない?」

「もちろん!」

 セレスティアは、隣にいたリリアーナにも声をかけた。

「リリも一緒でいいよね?」

「はい。ありがとうございます」

 三人は食堂へ向かった。

 昼食を受け取り、窓際の席に腰を下ろす。

 ヴィオレッタは、目の前の冷たい果実水を一口飲んで、満足そうに息を吐いた。

「はあ、生き返る……」

「大げさだなあ」

 セレスティアが笑った。

「だって、今日暑くない?」

「まあ、暑いけどね」

「さっきなんて、授業中に窓の外見てたら先生に当てられちゃって」

「……何してるの?」

「いやあ、ちょっと考え事を」

「絶対違うでしょ」

 セレスティアは呆れたように笑った。

 リリアーナも口元を押さえてくすくすと笑っている。

「そういえば、もうすぐ夏休みですね」

 リリアーナが話題を変えた。

「皆さんは、もうご予定を決められましたか?」

「私は帰省するよ」

 ヴィオレッタが答えた。

「久しぶりに家に帰れるの、楽しみなんだ」

「アルバレス家のお屋敷ですか?」

「うん! お母様、お父様にも会いたいし、屋敷の皆にも会いたいし」

「ふふ。きっと皆さん、お喜びになりますね」

「そうだといいな」

 ヴィオレッタは笑った。

 もっとも、母イザベラの反応は容易に想像できる。

 きっと、帰ってきた瞬間から抱きしめられるだろう。

 場合によっては、しばらく離してもらえないかもしれない。

(……まあ、それも久しぶりだしね)

「セレスは?」

 ヴィオレッタが尋ねると、セレスティアは少し考えた。

「私も一度は家に戻るよ。でも、ずっと屋敷にいるつもりはないかな」

「そうなの?」

「うん。剣術の稽古もしたいし、父様から領地の仕事について少し教わる予定もあるんだ」

「へえ、忙しそう」

「まあね。でも、休みなんだから遊ぶ時間も欲しいし」

 セレスティアは、にやりと笑った。

「だから、ヴィオレッタにも会いに行こうかなって」

「えっ、来てくれるの?」

「嫌?」

「まさか! 大歓迎だよ!」

 ヴィオレッタは嬉しそうに笑った。

「じゃあ、今度ちゃんと予定合わせようね」

「うん!」

「リリはどうするの?」

 セレスティアが尋ねると、リリアーナは少し考えた。

「私は、しばらく実家で過ごす予定です」

「そうなんだ」

「はい。家族と過ごしたり、刺繍をしたり……あとは、少し本を読みたいと思っています」

「いいね! のんびりできそう」

「ふふ。そうですね」

 リリアーナは微笑んだ。

「でも、皆さんと会えなくなるのは少し寂しいです」

「じゃあ、リリも遊びにおいでよ!」

 ヴィオレッタが言うと、リリアーナは目を丸くした。

「えっ、私もですか?」

「もちろん!」

「で、でも……アルバレス家のお屋敷にお邪魔するなんて……」

「そんなに気にしなくていいって!」

 ヴィオレッタは笑った。

「母様も、きっと喜ぶと思うし」

「……そうでしょうか」

「うん! 絶対!」

 その勢いに、セレスティアがくすっと笑った。

「ヴィオレッタがそこまで言うなら、大丈夫でしょ」

「……ふふ。それなら、ぜひお邪魔したいです」

 リリアーナは、嬉しそうに頷いた。

◇

 放課後。

 ヴィオレッタは、学院の図書室で借りた本を返却しようとしていた。

 ところが、返却台の前に立ったところで、ふと気づく。

「……あれ?」

 鞄の中を探る。

 教科書、筆記具、手帳。

 目的の本がない。

「……あれれ?」

 もう一度探る。

 やっぱりない。

「……忘れた」

 ヴィオレッタは、小さく呟いた。

 寮の部屋に置いてきたのだろう。

 せっかくここまで来たのに。

「……まあ、明日でいっか」

 そう思って振り返ると、ちょうど図書室の入口にアリアが立っていた。

「あ、ヴィオレッタ様」

「アリア!」

「本を返しにいらしたんですか?」

「うん。でも、肝心の本を忘れちゃって」

「……そうですか」

 アリアは少しだけ目を細めた。

「ヴィオレッタ様らしいですね」

「えっ、それ褒めてる?」

「どうでしょう」

 アリアは小さく笑った。

「ところで、アリアは夏休みどうするの?」

 ヴィオレッタが尋ねると、アリアは少し考えた。

「私も実家に帰る予定です」

「そっか! 久しぶりに家族に会えるね」

「はい。家の手伝いもありますので」

「お手伝い?」

「ええ。家族が営んでいる仕事を、少し手伝うつもりです」

「へえ!」

 ヴィオレッタは興味深そうに頷いた。

「アリアの家って、何のお仕事してるの?」

「小さな商いをしています。大きな店ではありませんけど」

「そうなんだ!」

「はい。休暇中は、帳簿をつけたり、品物の整理をしたりすることになると思います」

「……夏休みなのに、働くんだね」

 ヴィオレッタが言うと、アリアは少し驚いたように目を瞬かせた。

「ふふ。家の仕事ですから」

「そっか……」

 ヴィオレッタは、少し考えた。

「でも、ちゃんと休む時間も作ってね」

「……ありがとうございます」

 アリアは、穏やかに微笑んだ。

「ヴィオレッタ様も、楽しい休暇をお過ごしください」

「うん! アリアもね!」

 ヴィオレッタは手を振り、図書室を後にした。

◇

 その日の夕方。

 寮の自室に戻ったヴィオレッタは、机に向かって手紙を書いていた。

 宛先は、母イザベラ。

『お母様、お父様へ

 もうすぐ夏休みですね。

 久しぶりにお屋敷へ帰れるのを、とても楽しみにしています。

 学院では、毎日いろいろなことがありました。

 友達もたくさんできて、最近は一緒に人形を作ったりもしました。

 帰ったら、ぜひお話を聞いてください。

 それから、夏休み中に友達をお屋敷へ招待してもいいでしょうか。

 みんなと、ゆっくり過ごせたら嬉しいです。

 ヴィオレッタより』

 書き終えると、ヴィオレッタは満足そうに頷いた。

「……よし!」

 封筒に手紙を入れ、机の上に置く。

 窓の外には、夕暮れの空が広がっていた。

 学院に入学してから、あっという間に時間が過ぎた気がする。

 思い返せば、楽しいことばかりだった。

「……夏休みかあ」

 ヴィオレッタは、窓の外を眺めた。

「……楽しみだな」

 ヴィオレッタは小さく笑った。フィオラ女学院で迎える、初めての夏休み。

 その始まりは、もうすぐそこまで来ていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。