火種
山姥討伐から数日後、
怪異対策課 関東支部 第三部隊 松永班では、封印石を巡る事件について会議が開かれていた。
スクリーンに映し出された全国地図に赤い印が各地へ点々と表示されている。
松永が静かに口を開いた。
「全国で封印が解かれた妖は、現在確認できているだけで23体。
そして共通しているのは、封印石が持ち去られていること。
……目的はまだ分からねえ。」
伊吹が煙草を灰皿へ押し付けた。
「酒呑童子みたいな大物だけじゃなく、ある程度脅威とされる妖を広めに狙ってるってことか。」
さくらも資料へ目を向ける。
(あの闇バイト……。)
今でもどうしてあんな仕事を受けてしまったのか、後悔の念に駆られる。
その時、警報が鳴り響き館内へ放送が流れる。
[緊急出動。東京都██区にて怪異出現。一般人への被害多数。]
「行くぞ。」
伊吹が立ち上がると、陣とさくらもそれに続く。
現場は住宅街で、消防車と救急車が並び、人々が逃げ惑っていた。
道路には黒い轍が残され、何台もの車が横転し、建物からは炎が噴き上がっている。
その中心で笑っている怪異は全身に黒い炎を纏い、車輪の中心に恐ろしい男性の顔を浮かべている。
「”輪入道”ですね。
脅威ではありますが、このメンバーでも十分対応できる相手ではあると思います。」
陣は冷静に現場の状況を分析している。
「ハハハハ!!燃える燃える!!人間が燃える様はいつ見ても良い!!」
さくらが息を呑む。
「これが……輪入道……。てかこんな人前に姿見せて、みんなパニックになるんじゃ…!」
「住民の大半はただの火事と認識しているはずだ。
さくらも妖が見えるようになったのは酒吞童子の結士となってからだろ?」
伊吹曰く、妖が見えるのは「元々そういう才能がある」か、「結士となって見えるようになったか」で、基本一般人に見えるものではないのだという。
「いわゆる霊感ってやつに近いな。あと稀に、子供の頃だけ見えたとかいう話もある。
よし、じゃあとりあえず総二郎!避難誘導頼む!」
「了解!」
陣は木葉を呼び出し、風で煙を払う。
「住民の皆さんはこちらへ!煙吸わないように気をつけてください!」
さくらも輪入道へ向かう。
「酒呑童子!」
『任せろ。』
紫色の鬼火が噴き上がると、銀髪、赤い瞳の鬼の王が姿を現す。
輪入道は酒吞童子の姿を確認すると炎を撒き散らしながらこちらへ突進してきた。
『ほお、俺に正面突破とは。余程の馬鹿と見える。』
酒呑童子は真正面から迎え撃つ。
鬼火と黒炎の二つの炎が激突し、爆炎が空へ昇る。
輪入道は笑う。
「貴様が伝説の酒呑童子!!現世にいるという噂は誠であったか!!」
『雑魚が俺を知ったような口を利くな。』
酒呑童子は鬼火を纏った拳で吹き飛ばすと、輪入道はアパートの壁に叩き付けられ、建物が崩れた。
隙を見て伊吹が札を構え、数十枚の封印札が輪入道を囲む。
しかし、その瞬間、輪入道から赤黒い石の欠片が妖しく輝いた。
「なんだ!?」
『その石は・・・!』
膨大な妖力が噴き出すと同時に札が一斉に弾き飛ばされた。
伊吹が目を見開く。
「封印石の……欠片!?」
輪入道は大笑いする。
「フハハハハハ!!ではな!!!今日のところはこれくらいにしておこう!!」
黒炎が爆発し、煙が晴れた時には姿は消えていた。
静まり返る現場で伊吹は砕けた札を拾い上げる。
「普通の妖じゃねえ……。あれは誰かと結んでんな。」
「結士……ってことですか?」
「ああ、封印札がはじけ飛んだろ。あれは現世との結びつきが強い証拠なんだ。
ちゃんと倒さないと封印はできねえ。」
酒呑童子は断言した。
『間違いなく俺の妖力で強化されてる。
くっ…俺の力をあんな雑魚に使われるとは…許せん…』
怒りに震えている様子は結士であるさくらにもひしひしと伝わってくる。
「こちら松永。解析班の結果、あの欠片は酒呑童子の封印石と同質のものらしい。」
「了解です。酒吞童子の読み通りだな。」
さくらは拳を握る。
(やっぱり……。あの闇バイトが繋がってるんだ…。)
同日、とある古びたビルの一室で黒い外套を纏う三人が集まっていた。
「いやぁ悪ぃ悪ぃ。酒呑童子なんて出てくるとは思わなくてよ。
準備不足で一旦引き返してきたわ。」
赤髪の男が輪入道をメンテナンスでもするように、磨きながら笑う。
「各地の封印石の回収は順調だ。解放した妖どもも予定通りこちらで再封印できている。
酒呑童子以外はな。」
三人の中で最も年上と見られるリーダー風の厳格な男は、資料を横目に不敵な笑みを浮かべる。
「酒呑童子に逃げられたのには焦りましたが、逃げた先で人間と結ぶとは予想外でしたね。」
白く長い髪の若い男はそう言うと、資料を机へ放るように置く。そこには東蒔さくらの姿が映った写真が載っていた。
「伴妖となった以上、酒呑童子は人間の器から引き剥がせばいい。
結士を殺せば結びは無くなる。酒吞童子の討伐よりはいささか楽だろう。」
「しかし、酒呑童子ほどの妖と結ぶほどの結士…。強敵かもしれませんね。」
「いや?輪入道の近くで観察してたがそんな感じはしなかったぜ?むしろ新人って印象だったが、酒吞童子に身体をそのままフルで使わせてるように見えたな。」
「なるほど、恐らく酒吞童子に利用されているだけですか。」
リーダー格の男は静かに立ち上がる。
「奪うぞ、酒呑童子を。九鬼様もお喜びになるだろう。」
一方その頃、怪異対策課 関東支部 第三部隊隊長室にて、
桐生司もまた、資料を読みながら眉間に皺を寄せていた。
「九鬼……」
静まり返った空間で、その声だけが低く響いた。




