ヴァイアン・ローレンス視点,1
サンディー・ノエル、世界一嫌いな女だ。
無駄に華美なドレスと装飾品、靴に髪飾り。しかもそのどれもがちぐはぐだ。
(豪華に見えればそれで良いのか。売女め)
ちらりと僕を見るその目も、知性のかけらすら見て取れない。そんな女と並んで歩くのも嫌だと言うのに。
(…いけない、思い切り顔に出てしまいそうだ)
僕は今日、このサンディー・ノエル伯爵令嬢と夫婦の契りを交わす。
「誓いのくちづけを」
げんなりした。手の甲では駄目だろうか。僕の本当の想い人が見ている。サンディーの妹、メアリー・ノエル。
僕の視線はサンディーを超えて、メアリーに向けられた。
酷い姉を祝福するメアリーの穏やかな微笑み。彼女の視線が僕と絡んだ。
(ああ…)
サンディーにメアリーを重ねて、なんとか頬にくちづけを交わすことで誤魔化した。
ためらいに気が付いた牧師の、安堵のため息が漏れる。
(メアリー)
なんという美しさだろう。君は、一瞬で僕の目線を奪ってしまう。
(ここに立っているのが君だったなら、どんなに…)
だが仕方がない。求婚を断られた僕に、どうすることができただろう。
(義兄の僕は、誰よりも君を想う)
僕の気持ちを、知ってか知らずか、サンディーはにこりと微笑んだ。
(本当に、げんなりする)
どれだけの男に抱かれたか知れぬこの売女が、純白のドレスを着てヴァージンロードを歩く様は、滑稽を通り越して失笑ものだった。
しかし、サンディーの持参金に目が眩んだのは事実だ。ノエル家としても、早くこの娘を嫁がせてしまいたかったのだろう。でないと、姉の悪名のせいで妹までもが婚期を逃す。メアリーを狙う男は数多いるというのに、だ。
メアリーが僕の求婚を断ったのにも、姉を差し置いて先に嫁入りすることなどできないという謙虚な理由であった。
(だが、僕は知っている。求婚を断った本当の理由は、僕に付き纏う恐ろしい噂のせいだ)
『生娘を攫って喰らう、氷の伯爵』
所詮つまらぬ噂だ。だが、なるほどそうか、だから売女の姉を寄越したのだ。命までは取らぬだろうと…。
(どうも卑屈になっている。やめよう、くだらん憶測だ)
教会に、祝福の花びらが舞う。サンディーが嬉しそうに頬を赤らめたその様子に無性に腹が立つ。
(メアリー、僕は君のことを義兄として生涯見守ろう。他の誰よりも間近で…)
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