表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺氏、オンラインゲームの中の人になる  作者: 澤梛セビン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/2

1.俺氏。夜しか眠れない

『じゃあな、篤紫。いい夢見ろよ』

「ああ。また明日な――」


 目の前で、青く透き通った知り合いプレイヤーの体が、ブロック状に分解されながら、空中に消えていく。そんないつもの別れに、俺は精一杯の笑顔を向けた。


 夕焼け空が、何とも心に染みる。いや何だろ、少し景色が滲んでいるぞ。

 

 そんな俺氏に構わず、周りにたくさんいたプレイヤーっぽい人たちも、同じように消えていく。


 俺氏も、ログアウトしたいんだが――


 吐き出したため息が、少しだけ淡く光って、寂しそうに消えていった。

 そして、空中に突如として現れる『緊急メンテナンス』の文字。


「あああああっ、やっと休日だ。何だよ、最近のプレイヤー、面倒くさいんだよな」

「メンテ、いつまでだったかしら?」

「朝四時には終わるらしい」

「マジか。夜しか寝られないやつだ」


 さっきまで周りで、同じルートを周回しながら、テンプレ会話していたNPCの奴らが、一斉に喋りながらあちこちに散っていく。


 見慣れた光景に、ため息を重ねる。


 俺氏。気がついたら、ゲームの中の人になっていたんだが。




 事の発端は一ヶ月前に遡る。

 その日俺氏は、普通に寝たはずだった。


 いつも通りゲームをして、ちょっと遅めの夕飯をかき込んで、寝た。ベッドで。


『いや篤紫さ、ほんとにオレがこの部屋使ってて良いのか?』

「ああ。どうも俺氏は、現実世界には戻れないみたいだからな、もし戻れた時のことを考えると、その部屋は確保しておいて欲しいんだ」


 剣と盾、重厚なプレートメイルを着た長身の男が、器用にも首を傾げるアクションをして、全く関係ない話題を振ってくる。

 いやいいけど、ここダンジョンの中なんだぞ? ほら、見ろよ。そこの曲がり角からスライムがにじり寄ってきているぞ。


 あ、倒した。


 いやまあ知っていた。鎧男が喋っている内容と、動いている内容違うこと。


『だけどさ、オレも昨日、お前のベッドで寝たんだが、そっちに行けそうにないぞ?』

「いや、知らんし」


 空中の画面を見て、今日の予定の再確認。

 セーブポイント俺氏は、一時パーティを組んだプレイヤー『ムサシ』と一緒に、明日までの予定でダンジョン入り。ムサシは現実時間の『夜11時』にログアウトするから、その後は俺氏だけでダンジョンを進むと。


 いや、めんど。


「それで今日もその、俺氏のベッドで寝るのか?」

『そりゃそうさ。このベッドで寝たから、そっちに行けたんだろう? ワンちゃんオレもそっちに行けたら、夢が叶うからさ』

「夢ってお前、この間言ってたFIREってやつか? なんか違う気がするぞ?」

『細かいこたいいんだよ。明日は仕事だし、もう寝るからな』


 そうしてログアウトしていく知り合いが、何だかうらやましい。俺氏もログアウトしたい。メニューに項目すらないから、無理なんだが。


 肩を回して、ダンジョンを進む。

 通路から曲がってきたゴブリンが、びっくりして立ち止まった。出会ったのが俺氏だと気がつくと、頭を下げて、手を振って去って行った。

 もう、何なんだろうね、当たり前のように中の人判定されている。


 マイナーな、ほんと人数数百人のオンラインゲームをした後、ベッドで寝た。


 そして気がついたら、噴水広場に立っていた。


 ログアウトしようとしたら、項目がなかった。


 三行にしたらこんな感じか。

 半透明のメニューが普通に出たから、一生懸命メニューを探して、ログアウトの項目を小一時間探したのは、いい思い出。


 俺氏。ここで、ログアウトできないことを悟る。


 最初は何か、よくあるゲーム世界系の異世界転移かと思っていた。でも全然違くて、俺氏は中途半端にゲームの中の人に転移していたんだが。


 前から来た魔法使い風のペアが、険しい顔をして通路を歩いて行く。


『明日さ、駅前のポチ公前で待ち合わせだったよね?』

『時間は10時よ。それからコンサート会場に向かえば、普通に間に合うわ』

『ねえ、今誰かいた?』

『いたかしら? こんなところに、NPCなんていないはずよ』


 いるんだが。


 目の前に回って、手を振る。


『うそ、もしかしてワンダリングプレイヤーの篤紫さん?』

『わわっ、激レアキャラじゃん。友達申請しないと』

「いや、そういうつもりではないんだが。俺氏は忙しいから、先に進むぞ」

『申請したから、またよろしくね』

『またね』


 そう言って、険しい顔をしたまま去って行くプレイヤーキャラ。


 はい。

 寂しくて、ついつい声かけている。それは否定しない。


 空中の画面にある申請に、受諾を選択して、もうどうしようもない現実にまた、行き場の無いため息を漏らす。

 ため息をつき次な自覚はある。止められない、やめられない。




 中ボスの部屋の扉を開ける。

 武器を構えて扉を睨んでいたホブゴブリンが、部屋に入った俺氏を見て、そっと構えていた武器を下ろす。部屋の隅に行って壁のボタンを押す。


『緊急メンテのお知らせ』


 部屋の明かりが落ちて、赤い非常灯っぽい明かりだけが後に残った。見づらい。


「ごぶごぶ、ごぶご?」

「いや、何を言っているか分からないんだが」


 壁の隠し扉を開けて、中に案内された。


 緊急メンテが点滅していたからタップすると、翌日の9時まで中ボス部屋がメンテナンススケジュールになっていた。自由かよ。


「つまりあれか。緊急メンテついでに、俺氏を休ませてくれるのか?」

「ごぶっ! ごぶごぶ、ごぶご?」

「何で俺氏の言葉は通じるのに、俺氏は何言っているのか理解できないんだろう」

「ごぷ、ぷぷぷぷ」

「笑うなよ。それ失礼なやつだからな」


 まあでも、有り難い。


 少し待っていると、奥からピンクフリルを着たゴブリンメイジが、配膳カートを引いてきた。頭の上に、名前が浮いているから分かりやすい。

 推定、妻か? ホブゴブリンは妻帯者だってことか。


 テーブルに腰掛けて、振る舞って貰ったステーキと、色とりどりのピザ。それにビーフシチューを食べた。

 そうしてお腹がいっぱいになった俺氏は、客間のベッドで就寝した。




 スター・ウォーク・オンライン。

 それが俺氏の迷い込んだ、ゲームのタイトルだ。


 アニメタッチなキャラが特徴のオンラインゲームで、運営は零細。何なら俺氏がゲームしていた時には、そろそろサービス終了だって噂されていた。

 実際に、俺氏がここに迷い込んだ半月後には、会社が倒産したらしいって、ムサシに聞いた。だけど、ゲーム自体は続いているらしい。


 それが俺氏がいるからか、もしくは他の因果があって続いているのか、サービスは現在も続いているらしい。


『おい、篤紫。そっちにゴブリン行ったぞ』

「ああ任せるがいい」


 近づいてきたゴブリンは、俺氏の目を見て頷く。

 わざと大ぶりに振り上げた棍棒が、俺氏の横を通り過ぎていく。そして倒れたゴブリンが、光の粒になって消えていった。


 俺氏、何もしていない。


『あっぶね。ちゃんと見ていないと、やられちゃうだろう?』

「ああ、すまん。俺氏、油断していた」


 そんな日常。


 明日は、丸一日が緊急メンテ。


 ユーザーの間で、緊急メンテのことを『夜』って言いだしたのは、いつからか。


 そんな俺氏の日常。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ