事故物件ファイル22 事故再発マンション
「千堂さん、訳ありマンションの404号室……またキャンセルが出たよ」
小林が端末を見ながら言った。
資料には、短く恐ろしい記録が並ぶ。
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前々入居者:ベランダから転落死
前入居者:浴槽で溺死
次の入居予定者:内見前日にキャンセル(理由不明)
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千堂「……偶然じゃ、ないですよね」
小林「まあ、“呼ばれてる”部屋ってあるんだよ」
そう言いながらも、彼の表情は珍しく固い。
現地調査へ
マンションは綺麗で、築年数も浅い。
事故物件独特の陰気さは“外側には”ない。
だが、404号室の前に来た瞬間――
空気が重く沈んだ。
千堂
「……ここだけ寒くないですか?」
小林
「気のせいで済めばいいけどね」
鍵を開けると、濃い湿り気が顔にぶつかった。
◇◇◇
内見開始
部屋は整っていた。
家具もなく、清掃も済んでいる。
だが千堂には、どうしても
“水の匂い”が消えていないように思えた。
千堂
「小林さん、浴室だけ……異様に湿ってます」
小林
「事故があったのは風呂場だからね。
でも、清掃後は普通なんだけどなぁ」
浴室のドアに触れた瞬間。
カチャ……
誰も触っていないのに、ドアが勝手に開いた。
ゆっくりと、内側から押されるように。
浴室へ入ると、空のはずの浴槽に――
ぽちゃん……ぽちゃん……
一滴ずつ、水が落ちている。
その音は、ただの水音ではなかった。
重い。
粘るような。
“底に何かがある”音。
千堂
「あれ……配管止まってますよね?」
次の瞬間、
ジャアアアアア……!
蛇口が勝手にひねられたように回転し、
勢いよく水が噴き出した。
水は浴槽に叩きつけられ、
一瞬で白く泡立つ。
排水は間に合わず、
みるみるうちに水位が上がっていく。
小林
「戻れ、千堂さん!!」
しかし――
ぬるり、とした感触。
千堂の足首に、何かが触れた。
床に広がった水が、ただ流れるのではなく、
“集まる”
筋を作るように、
千堂の足元へ集束していく。
そして、
ぎゅっ
掴まれた。
明確な“力”で。
千堂
「ひっ……いや……引っ張られてる……っ!!」
水が足首に絡みつく。
冷たい。
だが内側に、ぬくもりのようなものがある。
まるで――
人の手。
ぐいっ
足が滑る。
浴室の床に叩きつけられ、
そのまま水に引きずられる。
指が床を掻く。
タイルの隙間に爪が引っかかり、
嫌な音を立てる。
千堂
「や……やめて……!!」
水は止まらない。
むしろ、意志を持つようにうねり、
千堂の膝、腰へと巻き付いていく。
バシャッ
身体が浴槽の縁にぶつかる。
その瞬間。
中から――
ボコッ
泡が浮かんだ。
水面が、内側から膨らむ。
“何かがいる”
その確信が、皮膚を突き破るように伝わる。
千堂
「た、助け……!」
次の瞬間、
ズルッ
一気に引き込まれる。
上半身が浴槽に落ち、
顔が水面に叩きつけられる。
冷たいはずの水が、
妙にぬるく、重い。
視界が歪む。
水の中で――
見えた。
白い顔。
目を見開いたまま、
沈んでいる“誰か”。
その腕が、
千堂の足を掴んでいた。
ぐいっ
さらに引かれる。
肺に空気がない。
千堂「――――!!」
水を飲む。
喉に流れ込む。
耳の中に、低い声が響く。
ゴボ……ゴボ……
“まだ……足りない……”
小林が後ろから抱きかかえるように引き戻した。
「絶対に手を離すな!!」
水と、小林の力がぶつかる。
引く力は異常だった。
人間のものじゃない。
ズル……ズル……
千堂の体が、
水面に半分沈んだまま引き裂かれるように揺れる。
千堂は叫んだ。
「やだ……! 手、放さないで……!!」
小林
「離すかよ!!」
最後の力で引き上げる。
水の中の“それ”が、
一瞬、顔を上げた。
濁った目が、
確かに千堂を見た。
そして――
バシャッ!!
引き抜かれた瞬間。
水が、すべて止まった。
蛇口の水も、
浴槽の波も、
滴る音さえも。
完全な静止。
まるで
“取り逃がした”ことに気づいた何かが、
沈黙したかのように。
◇◇◇
部屋を出た小林は、息を整えながら電話をかけた。
「……404、もうダメだ。貸し止めにしよう。
これ以上は誰も住めない」
千堂は震えたまま頷くしかなかった。
◇◇◇
翌日。
マンション管理会社から電話があった。
『404号室の前に……変なものがありまして』
千堂と小林は急いで現地へ向かった。
そこには
濡れた足跡が、延々と廊下に続いていた。
水はまだ新しく、ついさっきまでそこに“いた”ように光っている。
404号室のドアから始まり、エレベーターの方へ。
そして
途中で突然、消えている。
千堂
「……誰か、出てきた……?」
小林が低く答える。
「いや。
水の事故で亡くなった人はね、ずっと“出られない”んだよ。
あの部屋から。」
千堂の喉がひゅっと鳴る。
最後の足跡だけ、
つま先が“部屋の中へ向かっていた”。
まるで
もう一度、
誰かを浴槽へ引きずり込むために
戻っていったように。
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