ファイル12 孤独死している部屋
【孤独死】
それは現代の社会問題となり、特に高齢者が部屋を借りにくくなる一因となっている。孤独死は、身近に頼れる人がいないまま、静かに命を落としていくことを意味する。
そして、病死や孤独死が起きた場合、告知義務が発生しないとの見解がなされている。つまり、次にその部屋に入居する人々には、その死が告知されることはないのだ。
小林と千堂は、今回もまた、そんな状況の部屋を調査しに来た。警察官を立ち会わせての調査だ。第一発見者が疑われることを避けるためだ。
警察官は腕を組みながら、少し緊張した面持ちで言った。
「あまりにも長い間放置されていた場合、他の問題が発覚する可能性もありますから、慎重に行動してください。」
小林は軽く頷き、扉の前に立った。
「わかっている。事故物件として扱うには、少しでも証拠を見逃せないからな。」
千堂はその言葉に同意し、慎重に鍵を回し始めた。ガチャリという音が響き、扉がゆっくりと開いていく。部屋の中からは、長い間換気されていない空気が漏れ出す。小林と千堂は一瞬、鼻をつまんだ。
警察官は軽く咳をして、顔をしかめながら言った。
「ちょっと臭いですね…かなり時間が経っているようです。」
扉が完全に開かれると、部屋の中の光景が目に入った。薄暗く、埃まみれの部屋。そこに横たわるのは、動かなくなった入居者だ。布団の上で固まった姿勢のまま、ミイラのように横たわっている。顔には恐怖の表情がわずかに残り、目は見開かれていた。
警察官は静かに部屋に足を踏み入れ、ゆっくりと周囲を見渡した。
「この人、亡くなってからかなりの時間が経っている… これは孤独死の可能性が高いですね。」
その時、千堂が部屋の片隅に置かれた書類を見つけた。それは一見何の変哲もない営業資料のようだが、よく見ると消火器の販売に関するものだった。販売代理店が記された名刺も挟まっていた。
「これ、消火器の訪問販売の資料ですね。」
千堂が不思議そうに言った。
「でも、今の時代に訪問販売で消火器なんて、売れるわけないだろう?」
小林が答える。
警察官がその資料を手に取り、
「確かに、消火器の訪問販売はもう過去のものだ。今ではほとんど売れないだろうな。」と呟いた。
小林が静かに話を続けた。
「つまり、この男は何かしらの経済的な困難に陥っていた可能性がある。消火器を売る仕事では生活が成り立たない。借金や滞納もあったのかもしれない。」
千堂は部屋の隅に目をやり、そこに掛けられた家族の写真を見つけた。笑顔で写る親子の姿。しかし、その中の一人、笑顔が少し不自然だった。千堂が写真を手に取ると、警察官が再び口を開いた。
「遺族の方かもしれません。」
千堂はその言葉に心を揺さぶられながら、写真をじっと見つめる。
「でも、これじゃ家族が助けを求めていたのに…誰も助けなかったってことになる。」
その時、小林がふとメモを発見した。それは、遺書のようなもので、息子にお金を振り込んでほしいと書かれていた。しかし、その金額は家賃滞納分では到底払えるはずもなかった。
「家賃滞納分ですら払えていない。どうやってお金を振り込めるというんだ…?」
小林がつぶやいた。
警察官はその遺書を手に取り、慎重に言った。
「金銭的な問題があったということは確かですね。誰かが助けを求めていたのに、結局は届かなかった…。こんな結果になる前に、もっと早く手を差し伸べられなかったのか。」
小林は遺書をじっと見つめ、ため息をついた。
「結局、孤独死はこのように誰も助けない、という悲しい現実を突きつける。遺族の方を探さないと。」
その後、調査を終えた小林と千堂は部屋を後にした。
警察官は一度振り返り、少し寂しげに呟いた。
「寂しく一人で死んだんですかね…。」
再び冷たい風が部屋の中に吹き込むのを感じながら、二人はその場を去った。しかし、心の中にはどこか晴れない気持ちが残っていた。
ファイル12 孤独死している部屋 エンド




