7 国王陛下と宰相閣下
急遽、閉会となった卒業パーティーの代わりにと
開催した夜会が、今夜行われている。
あれから、ひと月がたった。
エドワードは、国王としての挨拶だけ済ませ、
執務室へ戻ってきていた。
ソファに座り、目を閉じる…。
自然と、ため息が出た。
コトンと音がする。
目を開くと、宰相のルイスが正面のソファに座り、
テーブルに、ワインとグラスを2つ置いていた。
手際よく、それぞれのグラスに注いでいく。
ルイスとは幼い頃からの付き合いで、
学園でも共に学んだ友人だ。
そして、最も信頼している戦友でもある。
「ルイス、今回のレイの件、
手間をかけさせて、悪かったな。」
名前で呼び合う時は、完全プライベートだ。
ルイスは、ワインをひと口飲んでから
一瞬気遣うような表情をした後、ふっ…と笑う。
「問題ない。…レイ様は残念な結果になってしまったな。」
「そうだな…。だが、レイは自業自得だ。
『穏便に済ませる為、不貞を公にする必要はない』と、
アリア嬢が、提案してくれたというのに…。」
「不貞が公になれば、罪に問われる。
せっかく2人が一緒になれる様、皆で誘導したのにな。」
「ああ。
だがレイは『王となり・ナターシャ嬢を王妃にする』事に、
固執していた。ナターシャ嬢も『王となる・レイとの婚姻』
に、固執していた様だったからな。」
「最終的には妥協して、『2人が共にいれる道』を
受け入れると思ったんだがな。」
エドワードはワインをひと口飲み、呆れたように呟いた。
「王位ありきの関係だったのなら、
どの道2人は、続かなかったのかもしれんな…。」
「そうだな…。」
すでに刑は執行された。もう今さらなのだ。
エドワードは、この話は終わりとばかりに、
ずっと言いたかった恨み言を、ルイスに放つ。
「アリア嬢が義娘になってくれる日を、
楽しみにしておったのに…。」
アリア嬢は、とても熱心に王妃教育を受けており、
優秀だと評価も高かった。
実は時々、様子を見に行ったり差し入れをしたりしており、
実の娘の様に思い、可愛がっていたのだ。
ルイスは、器用に片眉を上げると、ニヤリと笑った。
「羨ましいだろう?」
エドワードは、目を見開き、
苦虫を噛み潰した様な顔をした後…
「ふっ、そうだな…羨ましすぎるな。」
そう言って、笑いだす。
ルイスもつられて笑ったのだった。
***
ある晴れた日、教会で
ライルとアリアの結婚式が行われた。
2人の幸せそうな姿を見て、良かった…と、安堵する。
長年、王命による婚約で、縛ってしまったのだ。
アリア嬢には、申し訳ない事をした。
これから、もっともっと幸せになって欲しい。
あの2人なら、心配はないだろう。
宰相ルイスの隣で、
密かに父親気分になっていたのは…秘密だ。