6 アリアの幸せ
私の監視に付いて下さる文官は、実は宰相閣下のご長男だった。私の兄とは、学園で面識があったそう。
私は、初対面だったのだが、とても有名な方なので、
以前からお名前は知っていた。
ライル・エバンス公爵令息。
学園卒業後、文官になられてまだ3年目。
とても優秀で人柄も良く、トントンと出世され、
あっという間に宰相付きの文官になった、すごい方だ。
すらっと背も高く、きりっとした整ったお顔をされているので、女性にも大変人気だ。
でも本人に結婚する気がないらしく、断り続けて
おられるそうだ。
お父上の宰相閣下も、理解のある方で、
『結婚したいと思う相手が見つかれば、その時に考えれば良い』と、ライル様の意志を尊重して下さるらしい。
ライル様の第一印象は
厳しそう、無口そう…と、全体的に冷たい雰囲気だった。
でも何度かお話して、とても穏やかで、優しい方だと、
すぐにわかった。
心地の良い距離を取るのが、とてもお上手で、
監視も苦痛ではなかった。
とても感謝している。
***
婚約は解消されたが、公表をするのは、まだ先のこと。
私の生活が、変化することは特にない。
レイ殿下の方から接触される事を、警戒はしていたが
早くも蜜月といった様子で、私の事は忘れているようだ。
(こちらとしては、大変ありがたい)
ちょうどその頃からだ。
ライル様からの視線に、労りや好意が含まれる様に
なったのは。
ふとした時の、気遣いに…労りの言葉に…、
じわっと心が温かくなり、張っていた気がゆるむ。
思い返すだけでも、無意識に微笑んでいたようで…
マリーに指摘されて初めて気付き、そんな自分に
笑ってしまった。
それを見たマリーも嬉しそうに笑っていた。
***
卒業パーティー前の、休日の午後。
ライル様が、我が家を訪ねていらした。
父と面会の約束があったようで応接間に入っていかれたと、
マリーが教えてくれる。
(卒業パーティー直前なのに、何か問題でも?)
不安になり始めた…その時、部屋をノックする音が響く。
使用人から、父の伝言を聴く。
『庭園に向かうように』
(?…応接間でも、父の書斎でもなく?)
とりあえずマリーと向かう事にする。
庭園が見えて来て、人影が見えた…(!?)
ライル様だった。
そして、父は…いないようだ。
(マリーは、何か聴いているのかしら?)
少し後ろに控えているマリーに…、いない!?
その時、ライル様と視線が絡んだ。
少し先で、礼をしてから微笑まれる。
その後、庭園を案内する事になり会話しつつ歩いていく。
そして噴水の前で、求婚してくださったのだ。
先ほどの面会は、
父に『私への求婚の許可』をもらう為であり、
『アリアの気持ち次第』と言われたそうだ。
ライル様は跪き、ゆっくり視線を上げる。
「ドレイク公爵令嬢の話は、父や同僚から度々聴いていた。
王妃教育に通う姿を見かけるたび、いつか話をしてみたいと
思っていたんだ。
だから、今回の依頼が来た時、飛びつく様に受けた。」
「あからさまだったのか、父には笑われたよ。
釘もさされたが…。」
「監視ではあるが、共に過ごして…
自分でも呆れるほど、貴方に惚れ込んでしまったんだ。
こんな気持ちになるのは初めてで、かなり…戸惑った。
でも、貴方を支えるのも、護るのも、自分でありたい。」
「…貴方に、愛されたい。」
「貴方は、とても美しく、優秀だ。
卒業パーティーで、婚約解消したと周知されれば、
すぐに多くの求婚が舞い込むだろう。
絶対に…誰にも貴方を渡したくないんだ。
どうかこの求婚を、受けてはもらえないだろうか?」
真剣なライル様の視線に、釘付けになる。
身動き出来ず、しばらく見つめ合った。
(心臓が壊れそう…顔が熱い…)
視界がぼやけ…
それが涙なのだとアリアが気づいた時には
ポロリ…と、こぼれていた。
それを見たライル様は、
反射的に立ち上がり、涙を拭おうとして右腕を上げるが、
ためらうように戻す。困ったように眉を下げ…
「迷惑だっただろうか?」と、
しゅんとしながら、控えめにきいてくる。
そして、ハンカチを渡してくれた。
そんな彼を、可愛い…と、好きだ…と思った。
そして、誰にも見せたくないと、思ってしまった…。
(あ…ライル様がおっしゃった気持ちと同じだわ)
(私もきちんと、この気持ちをお伝えしたい…)
必死に…噛みそうになりながら、言葉をつむぐ…。
「私も…、ライル様をお慕いしています。
ずっと…貴方の優しさに、気遣いに…支えられ、
癒されておりました。」
「いつも、感謝しながら…心の何処かでは、
私も…貴方にとって、そんな存在になりたいと、
思って…いたようです。」
「私も…初めての気持ちに…戸惑っております。」
(私、ちゃんと伝えれているのかしら…?)
恥ずかしくて、ライル様を直視できない。
(目線を下げてしまったわ…どうしましょう)
「・・・・・」
「・・・・・」
ふっと、温かいものに包まれる。
そして強く、抱きしめられる。
ライル様が、私の肩に顔をうずめ震えるような息をはく。
「…ありがとう。嬉しい…とても」
小さな声が、聴こえた。
私も、ライル様の背中に腕を回し、
「私も…、です。」
精一杯、伝えた。
「ずっと、貴方に…そばに、いて欲しいのです。」
ライル様は、顔を上げ、
「これからも、ずっと一緒です。」
嬉しそうに、微笑んだ。
私も、自然と微笑んでいた。




