6、7日目 川
選びぬかれた戦利品を背負い、ルンルンで生還した後の現世から続く話である
現世に戻った時には、20時を過ぎていた
戦闘続きで、やっと飯にありつける
疲れ切った体に、塩の効いたおむすびがたまらない
無心で口に放り込んでいたら、明日の食料まで食い尽くしていた
ふ〜、と一息つき
食った、食ったと腹を撫でる
ひとしきり休憩して、立ち上がる
膜に近づき異世界に渡る
異世界は闇に包まれていると確認した後、また戻ってきた
武器は潤ってきたとはいえ
異世界の夜を安全に散策出来る程、強くなったわけではない
つまり、今の所、夜の異世界は、暗すぎて身動き取れないため、現世で大人しく待機するしかない
今のうちに食料買い足したいなあ
仮眠取りたいなあ
空き時間を有効活用するべく、あらゆる欲望が沸き起こる
異世界の夜って何時間だっけ?
確か初めに現世に戻ってきたのが、敵の大群から逃げ切った時だから、12時頃で、、、その後飯食って、、、え~と、
「夜まだかな~、なげーよ。」と思いながら待って、、、
確か4時、あれ5時だっけ
わっかんねえ
正確な時間はわからないが、恐らく異世界の夜は4、5時間ぐらいなのだろう
そう言われてみるとそんな気もするし、でもやっぱりもっと長い間待たされた気もする
どちらであろうと、十分買い出しに行ける時間なので、近くのスーパーに寄ることにする
こじんまりとした通路から出て、久しぶりに外に出る
出た先が暗かったので、異世界に召喚されたのでは、と誤解する
だが、遠目に映る家庭からの、ポツリ、ポツリとしたほのかな光で我に返る
9時頃なので現世も暗いはずである
「ああもう、ややこしい」
時間の流れが違う、まさに異世界と現世を行き来する俺は、脳内がごっちゃになっていた
肌寒い気温と、冷たい風で、頭を冷やしながら
見慣れた街並みを歩いていく
道いく道の両脇が住宅で埋め尽くされている
つい先程まで野原を駆け巡っていたのが嘘みたいだ
なんてことを考えていたら、スーパーについた
流石に遅い時間で、客の入りは、ちらほら
そして商品もまばらである
手頃に食べれる菓子パンエリアに行くが
俺が好物なものは、軒並み売れ切れで
泣く泣く残り物を掻き集める
他にも、水分やら保存食やら足して購入する
これ以上ようもないので、再びゲートのある空間まで戻る
やるべきことは終えたし、異世界もまだ夜ですることがない
流石に疲れで、うっつら、うっつらと船を漕ぐ
適当に2、3時間後になるようにスマホのアラーム機能で設定して、持ってきた寝巻で床についた
ーーーーー
目が醒めた時には、15時でおっかなびっくりした
えっ〜と、昨日が土曜だったから、今日が日曜日なわけで、午前3時じゃなくて午後の3時か、、、、、
幾度の非日常の初体験で、日にち感覚どころか時間感覚もバグる
異世界を確認するとまだ夜
眠気ナマコなまま、遅すぎる朝食をとる
そうこうしているうちに、異世界が明けたので降り立つ
お気に入りの斧を背に負い、相棒にまたがって、調査を開始した
昨日の疲れを完全に癒せた訳では無いが、寝まくったおかげで、目はパチクリ状態である
体も幾分軽い
偶然、前回進んだ所が、草が倒れタイヤの跡として残っていた
これで迷う心配はなくなった
それを寸分違わず進んでいく
しばし道印どおり進んでいると、跡がパッタリとやんだ
どうやら前回まで進めた所までついてしまったらしい
およそだが、何十分も早い
いちよ周辺にあった小石を集め、目印を付けておく
こうしとけば、どれ程進めたか、確認出来るしな
石を積み上げ、絶妙なバランスのオブジェを創り上げる
ちょうど休息もとれた
一息ついた所でもう一度相棒にまたがって、漕ぎ始める
ーーーーー
またあれから、2、30分といった所か
まるで景色の代わり映えが無い
至る所草原だ
余りに同じ光景で飽き飽きしていた所、前方に、山のようなこんもりとしたものが見える
遠いし、影となって黒くて、よく見えない
調査すべき対象がやっと現れ、つい感極まる
その気持ちに呼応するように、ペダルを踏む力も増していく
距離が縮まるにつれ、シルエットだったものが、段々と姿を現す
ついに目視できる距離まで来て、驚愕する
俺が目指した正体とは、たった1本の木だった
杉?だろうか
天を見上げても、全貌を見渡すことができず上の方は雲がかかっている
圧倒的高さを誇る木は、その体を支えるため幹の太さも段違い
下手したら、メジャーで括り付けて測定するのも無理なレベル
山と勘違いしたのも無理もない
それ程の巨木だった
木の根元まで相棒に近づき、辺りに止める
そして恐る恐る近づき、そっと確かめるように触れてみる
手袋ごしでも、しっかりと木の感触が伝わる
何百年、いや何万年という長き年月の重みを目の当たりにした気さえした
それ程に、どこか神秘的で近づき難かった
特に深く考えることなく、とりあえず一周してみる
時に触れてみて「へー」とか「ホー」とか呟いてみる
まあ、木に関する知識はゼロなのだが、、、
いつの間にか一周を終えてしまった
それにしてもデカイ
幹の表面なんてゴツゴツしてる
コブなの? それとも攻撃でも食らったの? と、疑うレベルで凸凹だ
この巨木をじっくり観察しながら、しばし頭を働かす
「登ってみるか。」
子供なんて、登れそうなものが見つかれば、木だろうと、フェンスだろうと、壁だろうと手当たり次第登るものだ
こんな千載一遇の木を前にして、童心をくすぐられ無い者は居ない
両手それぞれ別のコブを掴み、右足をちょうど良い出っ張ったところにかける
しっかりと体が、固定されたことを確認し、左足をあげる
今度は右足というように、途方も無いくらい繰り返す
しばし、単純作業の繰り返しで、無心に登っていると突然
ズリッと、足を滑らせる
「わっ、、、とおおお」
すんでのところで、コブに捕まり右手だけで全体を支える
落ち着け、落ち着け、大丈夫だ
心に言い聞かせ、手、足の順にかけ、体を固定させる
そして頬を樹皮に押し付け、両手を横に大きく広げ、幹にハグするように寄りかかった
「はあ〜、ふう〜、生きてる、生きてる、、、」
まだ、途中であるのにかかわらず、落下死を免れたことに安堵する
安心した心のせいか、単なる疲れなのか
頭を下げたせいで、地が見えてしまう
「ひっ」
あまりの高所に、足の筋肉が強張り、血の気が引いていく
もし落ちていたら、、、
嫌な想像が頭の中でグルグルと廻り、足だけでなく頬までも引きつるのが感じられる
目にしたくないものを見てしまい、バッと、顔を上げ、地から目を背ける
頭皮にビッショリかいた、冷や汗を拭い、ドクンドクンとうるさい心臓をなんとか呼吸で整える
あまりの動揺に、一時は、退却しようとまで考えていたが、なんとか平静を取り戻し、再び登り始める
我ながら無茶をするものだ
ろくにロープもつけないで安全確保せずに挑んむものだから、一瞬も気を抜けず、死を意識するたびに、筋肉が強張っていく
滑って落ちる想像をするたびに、頭を振ってその悪夢を振り払う
ナマケモノと間違われるレベルで、ゆっくりだが、着実に、確実に、そして慎重に一歩、一歩上に登っていく
流石にてっぺんまで目指せるはずもなく
一番低い、枝によじ登る
まあ、枝と言っても寝そべられるぐらい太いのだが、、、
ふ〜、と一息つき、枝に抱きつくようにして倒れ込む
気を抜けず、常に力を込めていた筋肉がいっきに弛緩していく
それとともにどっと、疲れも押し寄せてきた
荒れた息を、誇張するように深く吐いて、吸ってを繰り返す
次第に落ち着きを取り戻し、ゆっくりと上半身を起こしたその最中ーーー
そこから見下ろした時の風景が目に飛び込んできた
広大な草原の奥の、更に奥
これほどの高さからでないと、見落とすどころか、見当たらない程の先に、黒みがかった緑が広がっている
よくよく目を凝らして見ると、木々が生い茂っている
それだけの要素を見れば分かる
「べっ、別のバイオームだ。」
今回の調査の目的である、草原を超えた向こうにある気候を無事見つけることに成功した
歓喜のあまり、高層とは言わないまでも、そこそこのビル程度の高さがあるというのに、飛び跳ねてしまった
宙に浮いた瞬間、我に返り、ふわっ、という心地の悪い感覚に襲われ
地に戻されると、幼児がお気に入りの先生に怒られた時のように、シュンと縮こまる
縮こまったまま、その場で首を回し、辺りを見渡す
基本、草原でビックリする程かわらない
奥の方にゲートのありそうな高原が見えるが、沢山連なっていてどれかまでは特定できない
唯一収穫なのは、川が思ったより近くで、流れていることだ
俺は限りなく直線を進んできたので、川の経路がこちら側に傾いて流れているのだろう
初期地から川までの距離は結構あるから、道行く途中で寄ることはできないと踏んでいたが、これは嬉しい誤算だ
ここからなら、相棒で5分としてかからないだろう
ひと周り見きった所で、降りていく
足を下ろす時に、どうしても視線を下げないといけない
その間にチラチラと地が見えるのが苦痛だ
正直上りのほうが精神的にだいぶ楽、、、
それでもなんとか耐えて、やっとの思いで地に足をつく
決して揺れることのない地の圧倒的安定感に、つい涙しそうになる
登る間待機させていた相棒を、手に取り、川のほうへ向かう
上からの景色どおり行けば、難なくつけるはずだ
先程見下ろした景色を頼りに、進んでいく
しばらく漕いだ後、前方から湿気の多い風と穏やかなせせらぎが聞こえてくる
「川だ」
一面の草原を2つに割るかのように、向こう岸が霞んで見える程、幅広い川が流れていた
だいぶ自転車で進んできたものだし、流れが緩やかで幅の広い特徴から、下流なのだろう
日本の川は、大概短く急なのだが、反対に海外では、長くて緩やかなのが特徴
つまり、眼前の川は、間違いなく後者だろう
あまりの広大さに見惚れ、感嘆をもらしていた
だが一つ残念なところがある
その川は、驚く程青い、水気の無いペンキを塗りたくったような程濃く、そのあまりにもくっきりとした青の色彩に、独特で絶妙な、なんとも言えない違和感を感じていた
別に、ふと外路地によった時に用水路から漂う、鼻がひん曲がりそうなドブの悪臭がするわけでも、近付くだけで咳き込む程汚れている訳では無い
なんというべきかな
ただ、そこだけ、光の加減がおかしくなったように青々としていて、水底なんて到底見えない
まるで、そこに潜む主を覆い隠すように、、、
「もし、この河川に頭でも突っ込んでみろ
そしたら体全体、水中に引きずり込まれ、骨以外残さず食い荒らされる」
熱血キャラが、無鉄砲な主人公に説得するならこんな感じだろう
そんな雰囲気を醸し出している
水に触れるのは、躊躇われ、引き返すかどうかで迷っていた所に、名案が浮かび上がる
何かを思いついた俺は、奇妙な水を捉えていた視線を水辺にやる
そして、平べったく、手に収まるサイズの石を探し始めた
時に岩をどけたり、手で軽く添えてみて、フィット感を確かめたりする
その過程を終えた後、納得のいく一級品の石ころを厳選し、川目がけて投げる
勢い良く放たれた小石は、限りなく川面と並行で、ゆっくりと重力で狭められていく
ピッシャン
水面に波紋を残し、小石は、踊るように飛び跳ねる
ピッシャン、、、、、ピッシャン、、、ピッシャン、ポチョン
跳ねるごとに高度が落ちていき、力果てた小石は、水底へと姿を消していった
「5か、、、」
う〜ん、渋い
水切りって、見てる分には、誰にでもできそうで俺なら何十回でもいけそうと思うのだが、実際にやるとそうでもない
大概、7、8回いけていい方
案外、奥が深い
まあ、そんなことは置いといて、
名案とは、水切りのことだ
小石を川に無作為に乱射し、奇跡的に川に潜む敵に命中したら、衝撃を受けた敵は驚きで自身を飛び上がらせ、姿を表すという寸法だ
ただ敵の有無を確認するために、虱潰しに探すなんてすぐ飽きてしまう、やるからには、ゲーム性を取り入れないと
そういうわけで、水切りを続行する
ーーーーー
粗方手頃な石を投げきってしまい、辺りには、もう歪な形の石や、ゴツゴツした岩しか残っていない
弾がきれたので、流石に諦める
メインの敵の有無は空振りに終わった
この色彩と異常な静けさも相まって、敵どころか、生物じたい、いない気がしてきた
最後になけなしで、枕程の大きさの岩を両手で抱えて放り投げる
宙で綺麗な放物線を描き、ドッボーンと激しく水面を叩いて沈んでいく
激しく揺れた水面が次第に凪るころ
ぷか〜と、何か魚のようなものが浮かび上がってきた
全身は黒で覆われ、今にも零れ落ちそうに出っ張った目は、充血している
見た目が恐ろしい上に、口から泡を吐いて横たわった状態でプカプカと水面を浮かんでいる
一匹、二匹、、、また一匹と浮かび上がってきた
なんか命中してしまったらしい
気絶したのか、それとも死んだのか、定かではなかったので、そこらに落ちてた長めの棒で突っついてみる
反応はしない
死んだのか、、、?と思った矢先に
浮いた魚の周辺が、コポコポコポと泡を立て、噴水でも噴射するかのように水面が上がる
これは、まずいと判断し、距離を取る
その直感は正しく、泡の中から俺めがけて、黒い影が飛び込んできた
「うわっ、、ピッ、ピラニア、、、」
かろうじて避けるも、後から後から追随に飛び込んでくる
これには堪らず、背を向けて走り出す
背中に乗ってきた奴は、容赦なく服ごと噛みちぎってくる
これは許せず、手で振り落とし地に叩きつける
だが陸に追いやられた奴もピチピチいわせながら、足元を狙って噛みついてくる
うぜえコイツラ、魚って陸上じゃ、全てコイキング状態になるんじゃねえの?
あまりのしぶとさに、うんざりする
やっとのことで、相棒までたどり着き斧を握る
そして、ありったけの力を込めて振り下ろす
フッン
華麗に空を切る
もう一度
フッン
又もや空を切る
くっ、対象が小さいから当たりにくい
しかも、ピチピチと飛び跳ねやがる
まじで可愛くねえ
大振りで大群を一掃するのを諦め、一匹、一匹確実に殺していく
「ふう〜」
大掃除を終えた後の快感似た達成感を得る
単体なら何も問題ないのだが、やはり数の暴力には、敵わない、といった印象だった
出来るならば、この地を給水スポットにしたかったのだが、そもそも水質の問題もあるし、水分補給ごとにコイツラと戯れるなんて、まっぴらゴメンだ
当分使用できないだろう
そう結論付け、相棒と共に帰路についた




