6日目 2
命からがら現世に生還した後のことである。
現世に召喚されたと同時に、斧がカランカランと音を立てて、コンクリートの床に落ち、俺もまた膝から崩れ落ちる
寝転がったまま這いつくばるようにして、水分を手にする
よいぼれの爺さんかのように、よろよろと壁をつたいながら、上半身だけ起こし、口に水を流す
「フウ~、、、生き返る。」
ついため息が出る
さっきまで、危機一髪の状況で緊張しきっていた筋肉が一気に弛緩し、身に染みて助かったのだと安堵すると、突然腹が鳴った
時刻を見てみたら、とっくに13時を過ぎていた
そら腹が減るわと、納得し、今度は食料に手を伸ばす
疲労と遅い時刻だということがあいまって、バクバクと食べ進めていく
腹が満たされ、満足すると、すくっと立ち上がる
忘れてた相棒を助けに、、、じゃなくて
主人である俺は、食事で万全に体を回復した後、相棒の救出に向かうと初めから決めていたのだ
相棒を忘れて、食事にありつく人でなしなんているはずがない、、、
誰に対してかもわからない、言い訳を並べながらも
ゲートに近づき異世界に渡る
ーーーーー
あたりは暗闇に包まれ、目を凝らしても一切見えず、どこか室内にでも閉じ込められたかと錯角したが、異世界は夜だったことを思い出す
目前にいたゾンビが待ってましたと言わんばかりに迫ってきた
対抗しようと、斧を探すも現世に置いて行ったことを思い出す
俺は慌てて引き返す
ーーーーー
現世に戻って、斧を装備し、もう一度出陣
ーーーーー
先程のゾンビが目前に現れ、斧で切りつけようとーーー
ドッサという音で我に返る
滑ったのか、地面に斧を落としてしまい、慌てて拾いあげ、斬りつける
シュバッという音を立て、ゾンビは地に伏す
一匹たやすく仕留めたが、他の敵がうようよと寄ってくる
いつでも帰還できるよう、ゲートを背後にし瞬時に脱出できるようにしたうえで、敵をどんどん討伐していく
ーーーーー
斬っても、斬っても、叩いても、叩いても、敵は一生湧いてくる
それに日が差し込まない夜なので、討伐した敵が残ったままで、次第に死体の山が築き上げられる
あまりの多さに、どれだけ敵がいるのか、明かりで辺りを照らしたいと思って、ふと気づく
スマホ、置いてきたまんまだ
相棒に据え付けたままのスマホは、今も相棒と共に地面に横たわっているのだろう
相棒を見捨てた罰だ
結局、ゲートの不気味な光を頼りに討伐していたが、終わること無く湧いてくる敵にうんざりして帰還した
ーーーーー
困ったものだ、進みたいのに進めない
スマホ触りたいのに取りに行けない
くっ、屈辱だ
現世で少し待って、そろそろ夜が明けたと思ったので、異世界に渡る
まだ暗いまま
しばらくじっとして、そろそろ夜が明けたと思ったので、異世界に渡る
まだ暗いまま
グルグルと歩き回ったり、あまりに暇すぎて腹筋し始める程うんと待って、異世界に渡る
まだ暗いまま
くっそ、まだかよ
はよ明けろよ、こっちは暇なんだよ、早くしろよ、と時間に対して理不尽に怒りをぶつけながらも
朝が来るまで現世で待機した
ーーーーー
数回、いや数十回だろうか?
飽きるほど異世界に渡って、夜が明けたか確かめる作業を繰り返した後、やっと太陽が姿を現した
美しい朝の日差しが、闇に包まれた世界を徐々に暴いていく
それに呼応するように、ゲート目前の死体の山も綺麗に、跡形もなく空気中に消えていく
視界が明け、見覚えのある景色が広がる中、アチラコチラにうようよと敵が蔓延んでいる
あんな量の敵相手にできるはずが無い
足元が問題無く見える明るさになったことを確認して、敵を完全無視して、一気に斜面を下る
行く手を阻むものだけはさすがに見逃せず、成敗し、相棒めがけて一直線に進む
だが、一足遅かった
どこかで見たような気のする奴らが相棒を虐めるように取り囲む
俺より、ひと回り、ふた回り大きな肌色のガタイ、潰れて平べったい鼻、鋭い牙が特徴のオークが陣どっていた
俺の気配に気づいたオークは、こちらめがけて走ってくる
ゴブリン程の素早さは、無いが
ストライドが大きく、地をドスドス鳴らして迫ってくる
更に、素手で挑むゾンビの馬鹿どもとは異なり、ほぼが武器を所持し、中には防具持ちまでいる
「なんで、お前らのほうが装備良いの?」
あからさまなステータスの差に憤慨しそうになるが、そんなことに思考を割いている場合ではない
どかで見た気が、、、というのは、どうやら相棒と草原を駆けている間、取り囲まれた時に、オークが紛れ込んでいたのだろう
そういう意味では初対面では無いのだが、こと戦闘では初である
今まで遭った雑魚どもとは、違うオーラを放っていた
先頭のオークが俺めがけて、斧を振るう
俺も後れを取るまいと、呼応して振る
ガン
鈍い衝突音と衝撃波が辺りを震わす
斧を介して伝わってきた衝撃に、つい柄から手を離す
ビリビリとした感触が残り続け、うまく握れない
力で押し負けると悟った俺は、自分の身軽さを活かし、受けることはせず、躱す
ときに出る、あからさまの大振りで隙ができたところをすかさず斬り込んでいく
ゴブリンとの実践が活かされた一撃だ
鎧を纏わない、全裸のオークだけに絞り、切り倒していく
シュバッ、シュバッと皮膚を割く
腹に深く刻み込まれて地に伏せる奴から、どんどん塵となって、消えていく
そのままの勢いで、鎧持ちに突撃する
かーーん
耳をつんざく、甲高い音が鳴り響く
勿論、貫通しないどころか、凹みさえしない
大きく膨れた腹が、攻撃の格好の的だったのに、金属で守られたら、たまったもんじゃない
何度もつけ入る隙は、あるのだが
反撃の糸口を見つけられず、避け続けるだけである
ちょろまかと逃げる俺に腹が立ったのか、オークは、斧を高々と掲げ、瞬時に俺の頭めがけて振り下ろす
慌てて飛ぶと、背後で、すっと、空を切る気配がした
、、、辛うじて躱せたのだ
振り下ろされた斧は、地中深く突き刺さり、固定され、オークは懸命に引き抜こうとしてもがいていた
敵がまごつく間、よけるのに必死だった俺に余裕が生まれる
地を見渡す
討伐したオークの戦利品が散らばっている
刃こぼれのましな状態の良い鉄製の槍を拾い、
鎧持ちのオークの背後に回る
オークは、まだ武器回収に夢中で、俺のことなど忘れてしまっている
今がチャンスだ
左足を前に踏み込み、腕をしならせて放つ
放たれた槍は、空気抵抗や重力で衰えることなく、綺麗に一直線に突き進む
その勢いのまま鎧を貫通し、見事撃破した
オークの群れにかたをつけ、倒れ込んだままの、相棒に駆け寄る
即座に立て直し、スマホの無事も確認する
見上げれば、太陽はとうに高く登っていた
相棒の無事も確認出来たので、戦利品回収に入る
槍やら斧やら剣まである、おまけに最後まで手こずった奴の鎧まで落ちている
その鎧を手に取ってみると、背中部分に穴が空いていた
先程の俺の攻撃跡だろう
恐らく、オークの肉体は成仏され、身につけていたに過ぎない武器や防具は消滅することなく、この異世界に留まるのだろう
戦利品をかき集め、種類ごとに並べ、値踏みする
ただし鎧は想定以上の重量だったので、今回は例外として無視する
武器を種ごとに、地に並べるだけでも、現世から持ってきたものより、数倍多い
更に、柄の部分は大抵木造だが、刃先は、金、石、木、鉄と様々である
出土量と保存状態の良さから鑑みるに
木、石、金、鉄の順にレアリティが上がるのだろう
俺の数少ない、現代知識にも当てはまるので
大概合っているのだろう
今度は、現世から持ってきた武器と見比べる
見た目状、刃こぼれの目立つ異世界産の武器よりも、綺麗にコーティングされた現世産のほうが何倍も斬れ味が良いと思うのだが、
ちょうど通りかかった、ゾンビで試し斬りすると、やはり現世産は通用しない
逆に、異世界産は、木レベルでも傷はつけられる
ちなみに鉄レベルだと一撃だ
この不可思議な現象に頭を悩ませるべきなのに、鉄斧で敵を薙ぎ払っていく爽快感の虜にされ、日常にない無双という感情を存分に堪能し、日頃の鬱憤を昇華した、、、
ーーーーー
無効化される理由が、なんとなく分かった気がする
さっきまで、異世界産の斧を右手に、現世産の斧を左手に、いろいろ検証していたのだが
気づいてしまえば、なんてことはない
結論からいこう
無力化されるのは、単に現世産だからだ
敵に傷一つ、つけられなかったのはどれも現世産
結構いろんな種の武器を現世から引っ張ってきたから、データからみて間違いない
それに、汚染される水も元はといえば、現世から持ってきたものだ
味変する理由は、未だにわからんが
武器には、無効化
食料には、味覚操作 とか、なんとかいう魔術でもかかるのだろう
知らんけど
それによくよく考えると、ゲーム内でも地域ごとに使用可能な武器が制限されることなんてよくあることだ
別段不思議じゃない
自分にとって腑に落ちる結論が得られ満足する
気づけば、次第に辺りがまた暗くなり始めていた
左腕に目線を落とすと、もう20時
斬れ味の良い武器だけを厳選し、リュックに柄の部分を下に、刃先は上にして入れる
そして、ゲートのほうへ歩みだす
なんだか、木こりして薪をパンパンに詰めた藁の籠を背負って歩く爺さんの気分だ
今度は絶対に相棒を連れ帰ると意気込んだものの、重いリュックに斜面はキツすぎた
どうせ夜が明けたら取り戻るし、いっか
という軽い気持ちで置いてけぼりにして、現世に帰還した




