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プロローグ

キーンコーンカーンコーン

キーンコーンカーンコーン


放課後を告げるチャイムと同時に

自教室の扉を勢いよく開け

階段を転がり降り

上靴を外靴に目に見えぬ速度で履き替え

勢いを殺さず正門を駆け抜ける

ここまでの所要時間わずか


1()0()()


腕に巻き付けた愛用のストップウォッチで計測した、その数値につい頬が緩む


「おい、飛び出すなあ」


警備員の怒号を振り返るそぶりを見せることなく置き去りにする

スピードが出てると難所な直角カーブを華麗にこなし、下りに入る

頭を下げて、前傾姿勢に変形し、重心を進行方向にかけて更に加速していく

呑気に下る歩行者や自転車を横目に抜いていく

とっくに抜き去った後に背後からの「はっや」という声が無性に気持ちいい


あっという間に下りきって平坦に入る

急激に上げた速度を余すことなく、維持し続ける


遠目に最大の難所が見えてきた

その名も()()

これまでの努力を水の泡にする、ただの運ゲー

いつも数十メートル離れたこの辺で、赤信号渡りを覚悟で足を加速させるか、速度を落として体力温存に努めるか判断を下す


今日は、()


「くっ、、、際どい」


脳裏に()()の二文字がよぎるが、先程の1()0()()という数値がフラッシュバックする


「今回を逃すと、、、もう、、、」


決断に要するのに、わずか0.5秒

無理を承知で足のケイデンスを上げていく

信号前でチカチカし始めたが、迷うことなく、足を進め

見事赤信号と同時に渡りきる

難所を乗り越えたが故に、確信がいく


「これはいける、いけるぞ、これは」


全力で体を駆使しているからか、はやる気持ちからか、心臓の鼓動が一段と早くなる


最後の角を(さば)き、ラストの直線

規則正しかった呼吸は荒れ、機械のように回り続けた足も、引きずる状態だが、死にものぐるいで走り、駆け、翔る


何故ここまで必死になって、惨めになるまで体を酷使するのか

その原動力とはいったい何なのか

愚問だな


そんなの()()()()()()からじゃないか


玄関を目前にして、足にありったけの力を込め、地面を蹴り上げ、宙を舞う、そのまま取っ手へ腕を伸ばし、無事、念願の家に到着するはずだったのだが・・・



ーーー

「くっ、、、痛ってえ〜、、、」


勢い余ってドアに正面衝突して、赤く腫れたデコと腕を押さえる


言い訳を聞いてほしい

家直前まで、誰がなんと言おうと完璧だったのだ

これ以上ない会心の出来だった

だったのだが、これまでにないラップタイムに、つい焦ってしまった。

これまでの努力が報われると、、、そう思ってしまった

それで、いやそのせいで、普段ならラストの角で、挿入するため鍵を手元に取り出すのだが、、、

忘れてた、、、凡ミスした、、、

なんか勝手にカギ空いたままだと勘違いしてた、、、


みんなもあるだろ?これまで積み上げてきたものが完成する直前、達成する瞬間、手が震えてしまう現象を、当たり前すぎることを忘れてしまう事を

わかるだろ?というか、わかってほしい


一通り言い訳を並べ、はあ〜とため息をつく


「最速だったのにな~」


物悲しそうにつぶやく

しばし後、冷蔵庫まで足を運び、マイカップを取り出し2、3個の氷をぶち込み、水をなみなみに注ぎ

そのまま一気に飲み干す


「プハ〜」


運動の後は、キンキンに冷えた水に限る

2、3度おかわりして、服装を気楽なものへ、手袋を学校用から運動用へ換え、再び外に出る

玄関脇に置かれたロードバイクに手をかける

方向転換を完了した後、飛び乗る

行き先は、特に決めてない取り敢えずいつもの河川敷へと進める


突然だが、そこにつくまで自己紹介といこう

俺は草凪神風(くさなぎしんぷう)麓の学校に通い、つい先日3年になってしまった、ごく普通の高校生だ

遂に身を削ってまで勉強に勤しむ受験生の仲間入りを果たしてしまったらしい、、、

考えるだけで吐き気がする

新入生である1年がピカピカというのなら

3年はきっとぼろぼろなのだろう、、、

理系に所属する俺は、学校最後のクラス替えなどという春らしい青春イベントなどなく

初っ端からみっちり授業が詰まるという灰色の学校生活を終え、最速で帰宅し、今に至る


もうお気付きであるだろうが、俺は帰宅に命をかけている、これまでの青春全てを帰ることだけに注ぎ、これからも注いでいく所存である

帰宅時間で後の放課後を有意義に過ごせるか決まると言ってもいい

つまり何が言いたいかと言うと

帰宅こそが至高の時間効率だと言うことだ

帰宅を知り尽くし、極めた俺が保証する

間違いない、と


そんなこんなで河川敷に到着

今度は川に沿って、上流へと進んでいく

街中と違って、道路は幅広く、交通量は圧倒的に少ない

いたとしても、犬の散歩やランニングする人ぐらい

自転車専用と言っていいほど条件のそろうこの道路でためらう事なく、全速力で駆けるのがたまらない、更に冷たい向かい風を全身で受けるのが心地良い

最近はこの感覚を感じるために、早く帰ってると言っていいほどに、はまり、のめりこんでいる


次第に鉄橋が見えてきた

ここまで一本道で、何一つ障害なくノンステップで進めるのだが

ここだけ唯一信号を渡らねばならない

面倒だが土手まで登り、信号を待とうとしたのだが、、、

少しためらったのち、ハンドルをきる

地に足をつけたくなかったのだ

今日は()()()()()()だったのだ

もともと行く宛もなかったし、特に問題はない

思うがままに舵をきった進行方向には、神社がある


「久しぶりに行ってみるか、、、」


そうつぶやき、直進する

駐輪場で自転車こと相棒を止め、徒歩で参拝する

平日かつ春とかいう時期に、参る人なんて俺のような暇をもてあます種族だけで、人気がなく、ひっそりとしていた

日差しが出て、ぽかぽかと少しばかり暑い今、この静けさと涼けさには心が安らぐ

いい場所だな、と改めて思う

やたら長い階段を登りきり、本殿へと続く石畳を歩く


こういう道の真ん中を堂々と闊歩するのは、なんの神が(まつ)られてるかは知らんが、無礼だとかいう噂を耳にしたことがあるのだが

その真偽は、いかなるものなのだろうか?


気分で来たため賽銭を所持してないが、一円も投げずに鈴を鳴らし、世界平和を願っといた

どうせ叶わないなら、金を払うまでもないだろうと


まあ、そんなおふざけは置いといて一番の目的である展望台へと足を運ぶ

なかなか標高の高いところに位置している為、俺の住む街を一望できる

 うむ、ほんとにい眺めだ

これまで幾度となく見てきたはずの景色だが、やはりいつ見ても色あせず、常に心に平穏を与えてくれるこの光景に感服する

近くのベンチに腰を下ろし、一息つく

春らしい生暖かい空気を感じながら、ときになく小鳥のさえずりに耳を傾ける

この地は、この景色、雰囲気、位置などを含め俺イチオシのスポットである


学校生活でのしがらみやら、生き抜くうえでの困難やら、とにかくうんざりして気分が落ち込んだ時に、よくここに訪れる

この眺めを()()ボーっと眺めるだけ、ただホント眺めるだけ

なのに、次第に心が落ち着いていく

なんかうまく表現できないが、広大さというか、雄大さが心に余裕を与えてくれるんだ

ほんとに素晴らしい


かなりの間、景色を堪能し、流石に家に戻ろうと決意する

表参道から来たから、裏参道で帰ろうかな、、、だとか思案しながら、もと来た道を戻る途中ー


「「上」」


かすれて聞き取りづらく、更にくぐもった

言うなれば機械で加工されたような声がした

どこからか、というより俺の脳に直接届くような奇妙な(おと)


その声に従い天を仰ぐと同時に視界に俺めがけて飛び込んでくる赤い線が映る


「うっをぉ」


すんでのところで伏せてかわす


何が起きたかわからず、恐る恐る目を開け、自分の体をくまなく見る

目立った外傷はなく、体も痛みを訴えてはいない

無事だったのだろう

自分の状態に安堵して、ゆっくりと立ち上がり辺を見渡す

特に異常はー


「うわっ」


素っ頓狂な声が出るとともに、体が勝手に戦闘態勢に入っていた


背後に幽霊がいた、、、というわけではなく

壁に明らかに不自然に穴がぽっかり空いていた


落ち着いて、凝視すると、なにかの通路だとわかって驚愕するほどでもなかったと羞恥心に悶えるが

それでも腑に落ちない事が、、、

 

「さっきまで壁だったのに、、、」


()()つい先程まで何の変哲も無い壁だったはずだ。

ここの神社は歴史があり、年季が入っているとはいえ、こんな綺麗に長方形の穴が空くだろうか?

行きで見落としただけか、、、?

いや、そんなことはない

こんな穴があれば、俺の好奇心がほおって置かないだろう


穴を目前にして、あれこれと思案するも一切なにも思いつかない

思考の限界を感じ、穴へ接近し、まじまじと見つめ、恐る恐る触れてみる

あまりに綺麗な平坦さと滑らかさ、更にひと一人難なく通れる大きさに、人工的に開けたとしか思えない


ポケットに入れた携帯を取り出しライトの機能をオンにし、奥を照らす

この程度の光源では、最端まで届かない

自分の足で進まねば、何があるか分からないようだ

一度辺りに人が居ないか確認を取ってから、改めて闇に染まる通路の入口と対面する


「ふ〜う、、、よし、行ってみるか。」


一息ついて呼吸を整え、決心する


片手はライトを握り足元を照らしながら、もう片方は壁を触れて行き先を確認するように、恐る恐るではあるが、確実に少しずつ進む


コンクリートで囲まれた独特な涼けさが体温を急激に冷やし

石を踏みつける足音が反響してやけにうるさい


どれほど進んだのだろうか、引き返そうにも引き返せず、ひたすら暗闇の中を進むうちに進行方向が、ポオーっと赤っぽい暖色に照らされる


「何かあるっぽいぞ」


かわりばえのない、暗黒の中を進むのは、警戒と不安のあまりやたらと時間をくうが、何か目指すものがあるとなれば話は別だ

その光目指して、足の歩調を速める


やっとの思いで通路を抜け、少し開けた空間に出る

何十人も入れるくらいの空洞で、中央のには台座がある

その台座には、縦に長い枠が立っており、黒と紫が入り混じった禍々しいオーラを放ちながら、枠内を薄い膜で覆う

如何にもゲートのように見えた

周辺には台座を祀るかのように、トーチに炎が灯っている


恐らく先程の光はこの炎だろう

不思議なことに、近づいても熱くなく、燃焼時の独特な煙たさもない

取り敢えず台座周辺を一周してみる

台座後方にお宝が眠っている、、、なんてことはなく、ほんとに何もなかった

逆に言えば、ここは、このゲートのためだけにある空間とでも言えよう


台座に登り、異様な光を放つゲートと対面する

如何にも入ったもの全て地獄送りにすると言わんとばかりの禍々しさだった


ゲートの目前で立ち尽くす

もう戻ってしまいたいという怯えと、この先にある未知に対する好奇心が拮抗する

戻ってこれない不安とまだ見ぬ世界への渇望で葛藤する

通路を行ったり来たり、ぐるぐるとゲートの周辺を回ったり、考え込むように座り込んだりして長い間迷った後に、やっと決心がつく


どれだけ思考しようと、頭を回転させようと

行ってみなければ、試してみなければ、始まらない

不安がって挑むのを辞めるのはもったいない

もし不具合が起きれば、その時考えれば良い

まあ、、、きっとなんとかなるだろ、、、


最後は少し躍起になりつつも、ゲートへと足を進める

幾度見ても、怖い

どんな色してんだよ、世界が終わった時の色かよ、、、

まだ足の震えは止まらぬが、それでも手を伸ばす

そお〜と、、、そお〜と

膜に触れたかどうかというタイミングで、急激に体が引き寄せられる


「まっ、まずい。」


そう思ったのも束の間、抵抗する隙も与えられず、なされるまま草凪はゲートに取り込まれていった

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