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母からの、またはその他の用事で伯父の家に遊びに行くとき、伯母の顔が曇らなかったので、わたしは伯母がわたしたちの関係には気づいていないだろうと信じていた。
わたしと伯父のような関係が世間にどれだけあるのか知らなかったが、わたしはそんなに多くはないだろうと思っていた。
世間に一般的なら、このわたしだって身近にいた誰かの噂話を聞いていたはずだからだ。
だが、わたしはそんな話を聞いたことがなかった。
だからあくまでわたしの感覚だったが、世間的にそれほど例がないとすれば、伯母がわたしに疑いの目を向けることもないだろうと、わたしは単純に考えていたのだ。
伯母には済まなかったが、わたしが気をつけて伯父との関係を隠し通せば、伯母にとってそれはなかったことになる。
わたしはそう信じていた。
叔母は伯父の浮気を話題にしたことは一度もない。
わたしが一人で、あるいは母と一緒に遊びに行ったときにも、そうだった。
冗談にすらしたことがない。
若いわたしにだってわかるくらいだから、長年伯父と連れ添った伯母が伯父の浮気に気がつかないはずはないだろうに……
だからわたしがある用事で出向いて、伯父たち夫婦が仲人を務める結婚式が近々あると聞いた帰りに不意に背後から顔を見せずに伯母から投げられた言葉には鳥肌が立った。
「○○ちゃんもY(伯父の姓)のお手付きなのよ。もちろんこんなこと誰にも話すべきじゃないんでしょうけど、温子ちゃんは身内ですからね。あなたも気をつけなくては駄目よ」
わたしは瞬間その場で動けなくなった。
伯母の顔を見ることができなかった。
すると伯母はさらにわたしにこう言った。
「温子ちゃんはまだ若いんですからね。自分から清算しないと後で地獄を見ることになるわよ」
ようやくのことでわたしが伯母の方を見やると、そこには凛とした伯母の後姿があった。
わたしはそのとき伯母の芯の強さと生き地獄に咲いた蓮の花のような姿を見て、しばらく膝のゆれが止まらなかった。
伯父との別れは修羅にはならなかった。
わたしに言葉を掛けたのと同時期に伯母が伯父にわたしとの付き合いを考え直してはどうか、と穏やかに提案していたせいだった。
最初の浮気のときはともかく、それ以降伯母が自分の浮気を責めたことは一度もなかったと伯父は語った
相手まで知っているとは思えなかったが、浮気を始めれば、いつも気づいているようだったと続けた。
だが、それを言葉にすることはなかったようだ。
だから伯父はドキリとしたと言う。
「あなたが温子ちゃんを慈しむのは構いませんが、あなたもお歳なんですからね。くれぐれも温子ちゃんのお腹の上で死んだりしないでくださいよ」
言葉は正確ではないが、伯母は伯父にそんな意味のことを言ったようだ。
確かに伯父には軽い心臓の病があって、恥ずかしいことにわたしは気づかなかったが、わたしとの行為のときに痛みを感じたこともあったと言う。
わたしはこの先どの面下げて伯母の鎮座する家に出向いたら良いのかわからなくて、仕方がないので伯父の胸の中で子供のようにわんわんと泣いた。
そのときの伯父はわたしの愛人でなく、わたしの本当の伯父だった。
叔父として当然のようにわたしに接してくれたのだった。
だが、伯父は最後にもう一度だけわたしを抱きたいとわたしに願った。
わたしは泣きながら、それをきっぱりと断った。