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わたしがこんな商売をするきっかけは偶然だった。
当時、わたし自身がその男の最新の浮気相手で、わたしもその初老のその男にのめり込んでいた。
もちろん結婚を望んでいたわけではない。
自分でも理解している不毛な関係がしばらくは終わらないことだけを望んでいた。
せめてわたしに新しい恋が芽生えるまで関係を続けたいと願っていた。
そんなことはあるはずもないと思いながら……
その男に出会う以前にわたしは何人かの男を知り、身体の関係も経験していた。
だがわたしを逝かせたのは、その男が始めてだった。
それに近い体験は過去にはなかった。
だからおそらくわたしがそうだと考えていた過去の体験は、まったくの誤解だったとそのとき知った。
わたしとの関係は、その男にしては遊びである。
わたしはただの若い女で男の欲望の対象に過ぎなかった。
男には地位も名誉も金もあった。
わたしはそのとき世間の裏側のことを殆ど知らないような学生だった。
男はわたしの見せる身体の反応が面白いらしくて、忙しい仕事の中、無理に暇を作ってはわたしを抱いた。
その関係が誰にも知られることのないように毎回慎重にホテルや逢瀬の場所を選んだ。
男に抱かれた最初の頃、わたしはいずれ男との関係にも慣れ、身体を駆け巡るあの目くるめくような快感も薄れるのだろうと思っていた。
けれども男に抱かれる度に、わたしは毎回面白いように頂点まで昇りつめ、意識を跳ばした。
それが戻るのが数秒後のこともあれば、数時間後のこともあった。
男の身体の温もりの中で目覚めることもあれば、ひとりホテルに残されることもあった。
その男が赤の他人であったなら、世間に良くある愛人関係で話は終わったていただろう。
だがその男はわたしの親戚で、しかも伯母の夫であって、互いに知らない仲ではなかった。
伯母が留守の伯父の家で初めて伯父に口説かれたとき、わたしは軽い冗談だと思って伯父を諌めた。
そのときは既に作家となっていた母に頼まれた届け物をするために伯父の家に向かったときの出来事だった。
伯母が仲の良い姉妹と二人で旅行に出ていることは知らなかった。
届け物をしてすぐに帰るのも何だったので、わたしは伯父と居間でしばらく世間話をしていた。
あれは、どのタイミングだったのだろう?
伯父の目の色が親戚のそれから不意に雄のものに変わり、獲物を追い詰めるような甘い言葉を囁き始めた。
やがて唇が奪われたときに伯父を突き飛ばして逃げ去れば不倫は成立せずに終わっただろう。
その先しばらくお互い気不味いかもしれないが、男と女の接触事故だったのだと、わたしと伯父二人だけの秘密にしてしまうことができたはずだ。
けれども、わたしには伯父が拒めなかった。
わたしは密かに伯父に抱かれる夢を見たことがあった。
女の扱いが上手な伯父は、わたしの中に隠れていた漠然とした伯父への思慕に気づいていたに違いない。
伯父はわたし自身には執着がなかった。
執着があったのは、わたしの身体だけだった。
伯父に何人の愛人がいるのか知らなかったが、わたしと付き合っている期間は他の愛人たちは空閨だったのではないかというのが、わたしの自負だ。
そう思わせるくらい頻繁に伯父はわたしを閨に誘った。
愛人たちがそうだったとすれば当然、伯母との交渉もその期間はなかったのだろうと当時のわたしは考えていた。
だが、真相はまったく別のところにあった。