USBの中の私
USBの中には、
私の知らない私がいた。
彼を見つめて笑う私。
そして、沙耶を睨む私。
その顔は、
今の私よりずっと怖かった。
私は部屋に戻り、震える手でUSBをパソコンに差した。
蓮は玄関に立ったまま、何も言わなかった。
沙耶はソファに座り、まるで自分の家みたいに足を組んでいた。
画面に表示されたフォルダ名は、たった一つ。
二年前の夜
中には、動画ファイルが三つあった。
私は一つ目を開いた。
映っていたのは、ホテルのラウンジだった。
蓮と沙耶。
そして、少し離れた席に座る私。
二年前の私は、蓮たちを見ていた。
まるで、何かを監視しているみたいに。
「これ、何……?」
蓮が小さく言った。
「君は当時、沙耶の会社の後輩だった」
私は画面から目を離せなかった。
「聞いてない」
「言えなかった」
「そればっかり」
蓮は黙った。
私は二つ目の動画を開いた。
今度は、夜の駐車場。
沙耶が私に何かを言っている。
音声は荒れていて、ほとんど聞こえない。
でも、最後の言葉だけは聞こえた。
蓮は、あなたなんか選ばない。
その瞬間、画面の中の私は、沙耶の腕を掴んだ。
乱れる映像。
途切れる音声。
そして、沙耶の悲鳴。
動画はそこで終わった。
私は吐き気がした。
「私が……?」
沙耶は静かに言った。
「そう。あなたが私を突き落とした」
「嘘」
「なら、最後の動画を見れば?」
蓮が遮った。
「美羽、見るな」
私は蓮を見た。
「なんで?」
「それは、君を壊す」
「もう十分壊れてる」
私は三つ目の動画を開いた。
映っていたのは、崖の近くの展望台だった。
雨が降っている。
沙耶が泣いている。
私が、沙耶に近づく。
蓮の声がする。
やめろ、美羽!
画面の中の私は、沙耶の手首を掴んでいた。
そして、こう言った。
あなたが消えれば、蓮は自由になれる。
私は息ができなくなった。
その直後、映像は激しく揺れた。
沙耶の体が、画面の外へ消える。
蓮が叫ぶ。
私が立ち尽くしている。
そこで動画は終わった。
部屋の中に、沈黙が落ちた。
私は自分の手を見た。
この手が?
この手が、人を殺そうとした?
「違う……」
私は首を振った。
「私、覚えてない」
沙耶は冷たく言った。
「覚えてないから、なかったことになるの?」
言い返せなかった。
蓮が私の前に立った。
「美羽、違う」
「何が違うの?」
「その動画は、途中が切られてる」
沙耶の表情が変わった。
私は蓮を見た。
「途中?」
蓮は沙耶を睨んだ。
「あの夜、美羽は沙耶を落とそうとしたんじゃない。助けようとした」
「でも動画では」
「その前に、沙耶が自分から柵を越えた」
沙耶が笑った。
「証拠は?」
蓮は黙った。
沙耶は勝ち誇ったように言った。
「ないよね。だってその部分のデータは消したから」
私は沙耶を見た。
「どうして……」
沙耶は私に近づいた。
「試したかったの」
「何を?」
「蓮が、私が死んでも一生忘れないか」
その言葉に、背筋が凍った。
「まさか、全部……」
沙耶は微笑んだ。
「そう。失踪も、死んだことにしたのも、全部」
蓮が低い声で言った。
「沙耶、もうやめろ」
沙耶は蓮を見た。
「やめない。だって蓮、私が死んだと思っても、別の女を好きになったじゃない」
彼女の目が、私に向く。
「だから次は、美羽さんを試す番」
その瞬間、私のスマホが鳴った。
非通知。
私は恐る恐る出た。
聞こえてきたのは、知らない男の声だった。
「佐倉美羽さんですね」
「誰ですか?」
「二年前の件で、お話があります」
私は息を呑んだ。
男は続けた。
「あなたが消したと思っている映像、こちらに残っています」
私が顔を上げると、沙耶の笑顔が消えていた。
電話の男は言った。
「ただし、その映像が世に出れば、神崎蓮さんは終わります」




