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木星の雨音  作者: ぴいちゃん


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第一章 ――木星の空――

初小説です。

ハードSFの分類になりますが、人間ドラマ中心です。

よろしくお願いします、

西暦2349年。


木星圏。


氷衛星エウロパ近傍宙域。

挿絵(By みてみん)

そこには、


人類が木星へ作った、


人工の“新しい衛星”が存在していた。


第三世代居住衛星。


《ヘスペリア-3》。


木星開拓初期。


人類が、


「宇宙で本当に暮らせるのか」


を試行錯誤していた時代に建造された、


日本連合(日本および盗難愛ジア諸国連合)


の古い居住衛星だった。


挿絵(By みてみん)


直径十八キロ。


中央軸を中心に、


巨大な対向回転リングが接続されている。


4基のリング…第一居住リング↑、工業リング↓、農業リング↑、第二居住リング↓は、


互いに逆方向へゆっくり回転していた。


回転によって発生する人工重力。


そして、


衛星全体へかかるジャイロ効果を相殺するための、


対向回転構造。


木星圏開拓初期に設計された、


古典的な宇宙居住方式だった。


ヘスペリア-3。


衛星エウルパの軌道で木星の傍らを回り続ける、


直径十八キロ、幅二キロX4基の回転都市。


外から見れば巨大だ。


だが、


住民の多くはその大きさを意識しない。


生まれた時から、


そこに住んでいるからだ。


人口は約二万人。


決して小さくない。


それでも、


街は広かった。


居住リングを一周すれば五十六キロ以上。


住宅区画。


商店街。


学校。


公園。


トラムに乗れば、


窓の向こうの景色が延々と流れていく。


急ぐ必要もない。


人は多すぎない。


どこへ行っても、


少し歩けば空が見える。


リングの外側に広がる、


巨大な木星。


さぎりは、


その景色が好きだった。


挿絵(By みてみん)


ヘスペリア-3には四つのリングがある。


だが、


人が暮らしているのはそのうち2つだけ。


残るリングには農場があり、


工場があり、


倉庫があり、


港湾施設がある。


昔から、


「まだまだ空いてるぞ」


と大人たちは笑っていた。


実際、


空いていた。


使われていない居住区画もある。


人口二万人の街にしては、


大きすぎる都市。


けれど、


誰もそれを無駄だとは思わなかった。


宇宙では、


余裕こそが命だからだ。


中央シャフト部には、


大型船の港湾区画


管制区画


工業ブロック


氷融解プラント


が集中している。


一方、


居住リング、農業リング、工業リングには人工重力が存在する。


居住リングには、


居住区


商店街


学校


食堂


医療区画


が3つづつ並んでいた。


リングの窓には、


巨大な木星が映り続けている。


褐色の雲帯。


ゆっくり回る大赤斑。


住民たちにとって、


それが“空”だった。


ヘスペリア-3は古い。


外壁には無数の補修跡。


増設モジュール。


露出した配線。


継ぎ接ぎの装甲。


約九十年。


何世代にも渡る修理の痕跡が、


衛星全体へ刻み込まれていた。


でも。


住民たちは、


その古さを嫌っていなかった。


ここは、


ただの宇宙施設ではない。


“故郷”だった。


ヘスペリア-3の人々は、


エウロパの氷で生きていた。


エウロパ上空約七万キロ。


ヘスペリア-3は、


木星とエウロパを見下ろす軌道を周回していた。


エウロパ氷原から見上げれば、


暖色の光を灯した回転リングが、


空へ浮かぶ人工の星のように見える。


だがその距離は、


氷輸送船で数時間、


完全な宇宙航路だった。


ヘスペリア-3の生命線。


それが、


エウロパ氷輸送船だった

全長約三百メートル。


前後完全対称。


細長い骨格フレーム構造。


平べったい中央船体。


船体上部には、


巨大な氷塊を固定するための外部クランプ群。


船体上下左右には、


同型の水プラズマ姿勢制御ユニットが並んでいる。


挿絵(By みてみん)


だがそれは、


地球時代のロケットのように、


力任せに宇宙を飛ぶためのものではなかった。


木星圏文明において、


推進は船ではなく、


港が行う。


挿絵(By みてみん)


輸送船に搭載された水プラズマ推進は、


主に姿勢制御と、


わずかな軌道修正に使われる程度だった。


推進剤は、


エウロパの氷から得られる水。


それを電力でプラズマ化し、


静かに噴射する。


弱い。


だが、


この世界ではそれで十分だった。


ヘスペリア-3は、


半径九キロの巨大回転リング都市だった。


リングは約三分で一回転する。


外周速度は、


時速約千七十キロ。


都市そのものが静かに回り続けている。


その回転によって、


リング内部には地球とほぼ同じ1Gの人工重力が生まれていた。


そして同時に。


その莫大な回転エネルギーは、


木星圏物流そのものを支えていた。


氷輸送船は、


外周リングから接線方向へ射出される。


巨大クランプが外れる瞬間、


氷輸送船はリングの回転速度をそのまま受け継ぐ。


時速千キロを超える初速。


燃料を使わず、


エウロパへ向かう軌道へ入るのだ。


リングが、


船を投げる。


それが工業リングの港だった。


エウロパ到着後。


輸送船は、


氷原へ建設された巨大採掘基地へ降下する。


そこには、


十二基の巨大受け入れ。射出カタパルト施設が存在していた。


一本あたり全長五キロ。


エウロパ氷床上を、


ヘスペリア-3方向へ向けて伸びる、


巨大なレール。


到着側と射出側は同じ施設だ。


輸送船は、


空荷の状態でそのレールへ滑り込む。


減速噴射は行わない。


輸送船が持つ運動エネルギーそのものを、


基地側設備が受け止める。


《グゥゥゥゥゥン……》

低い振動。


五キロに渡って、


巨大バネ機構が圧縮されていく。


同時に。


カタパルト全域へ接続された巨大フライホイール群が回転を始める。


さらに。


回生発電系統が起動。


輸送船の運動エネルギーは、


次の射出電力として蓄積される。


木星圏では。


速度が資源だった。


輸送船は、


停止後もそのままレールへ固定される。


圧縮されたバネは解放されない。


フライホイールは、


巨大な慣性を保持したまま回転を続ける。


蓄積されたエネルギーは、


次の射出に使われるのだ。


エウロパ基地には、


3機の核融合発電炉群が存在していた。


重水素は、


エウロパ氷から得られる。


膨大な熱。


蒸気タービン。


発電設備。


氷床下へ伸びる熱交換施設。


白い排熱霧。


基地は、


極寒の氷世界でありながら、


巨大な熱工業都市でもあった。


輸送船が到着すると、


エウロパ側で事前加工されていた巨大氷塊が積み込まれる。


長さ2百メートル級。


船体全高の二倍近い、


巨大な氷ブロック。


質量は十万〜二十万トン級。


水。


酸素。


重水素。


木星圏文明そのものの材料だった。


そして出航。


射出時。


基地は到着時に蓄積したエネルギーを解放する。


五キロ全域で圧縮されていた巨大バネが解放。


フライホイールの慣性エネルギーが接続。


さらに、


氷積載重量分を補うため、


電磁カタパルトが起動する。


《ギィィィィィン――》


低重力。


輸送船が、


巨大氷塊を背負ったまま加速していく。


推進噴射は、


ほとんど存在しない。


船は、


“投げられる”。


そのまま数時間をかけ、


ヘスペリア-3へ向かう。


帰港時。


輸送船は、


ヘスペリア-3外周リングの回転方向へ接近する。


減速はしない。


輸送船の方が、


わずかに速い。


時速にして50キロ


接岸の瞬間。


巨大磁気クランプが閉じる。


《グゥゥゥゥン……》


船の運動エネルギーが、


リングへ伝達される。


輸送船は減速し、


ヘスペリア-3は回転を維持する。


同時に、


回生発電系統とフライホイールが起動する。


船の速度差エネルギーは、


都市電力へ変換される。


木星圏では。


氷と、


慣性と、


回転が、


文明を動かしていた。


氷輸送船は、


元々二十隻建造されていた。


現在、


運用可能なのは十六隻。


十隻が常時運用。


残り六隻は整備ローテーションへ回されている。


失われた四隻。


そのうち二隻は事故。


残る二隻は、


共食い整備によって解体された。


部品不足。


老朽化。


木星圏文明は、


継ぎ足しながら生き延びていた。


そして。


事故喪失した一隻。


それが、


さぎりの両親を奪った船だった。


幼い頃。


両親はエウロパ基地勤務中、


輸送船事故へ巻き込まれた。


採掘アーム破損。


氷塊崩落。


減圧。


木星圏では、


珍しくない事故だった。


さぎりは居住区で住み、学校に行き、工業リングの手伝いをしていた。


だから機械の匂いは落ち着く。


送風機の音も。


循環ポンプの振動も。


全部、“家の音”だった



つづく

大体14章まで続きます、

お付き合いください。

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― 新着の感想 ―
フライホイールをバッテリーにするのは良い案を参照したね❗とも思う。 ネタ元を知りたいです。
正直、3m1回で1Gになるかなとかその辺は心配なんだけど最初にきっちり計算してるとは思うけど、1Gって必要?とも思う。
西暦2348年の木星圏という壮大な舞台なんだけど、SF的な超技術で書いてないのが魅力的! 人工重力のジャイロ効果、エネルギーの回生、カタパルトでの「投げ合い」という物理法則的。正直に詳しいことは分か…
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