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平和国家ユートリア ―人類の終着点―  作者: Kk


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第四十一話 分裂している

◆マルクス


ここは、セレニア連合国。


強国バルゼイン王国に対抗するため。


複数国家が結束して生まれた連合国家。


だが。


内情は深刻だった。


会議室。


怒号。


机を叩く音。


資料が散乱している。


誰も落ち着いていない。


理由は単純。


戦況が最悪だからだ。


バルゼイン優勢。


前線は押され続けている。


補給も足りない。


兵士も減っている。


国民の不満も限界だった。


そして。


この状況をさらに荒らしている男がいる。


「だから言ったんだよ!!」


怒鳴り声が響く。


「守るだけじゃ無理だってよ!!」


男が机を叩いた。


過激派。


“セレニアの狂人”


アーデル。


これでも、元国王だった。


マルクスは小さく舌打ちする。


狂人。


そう呼ばれる理由は単純。


アーデルは。


敵兵を殺さない。


捕らえる。


そして。


拷問する。


徹底的に。


精神が壊れるまで。


身体が崩れるまで。


耐えられなくなった者から、国へ返す。


五体満足で帰った兵士はいない。


指。


目。


舌。


腕。


何かが必ず欠けていた。


だが。


本当に壊れるのは身体じゃない。


心だ。


帰還した兵士は。


どれだけ勇敢だった者でも。


二度と戦場へ戻らない。


その恐怖が広がっていく。


兵士へ。


国民へ。


国へ。


士気を下げ。


戦意を折り。


降伏へ追い込む。


それが。


アーデルの戦争だった。


「俺らに任せろってんだ!!」


アーデルが叫ぶ。


この惨状は。


皮肉にも。


アーデル支持を増やしていた。


勝てない。


だから、人々はより過激な方法へ縋る。


国が壊れるときの典型だった。


だが。


別方向に壊れている女もいる。


「降参しましょう」


綺麗な声。


空気が止まる。


「は?」


アーデルが睨む。


発言したのは。


降伏派。


リゼ。


彼女は常に怯えていた。


肩を震わせ。


呼吸を乱し。


視線を泳がせる。


だが。


それは演技じゃない。


能力。


『恐怖付与』


対象へ恐怖を植え付ける能力。


しかし。


リゼは。


その能力を。


自分自身へ使い続けていた。


理由は誰にも分からない。


本人すら理解していないのかもしれない。


「降参すれば……」


リゼは震えながら言う。


「バルゼインは……」


「私たちをマシな身分にしてくれるでしょう……」


「はぁ!?」


アーデルが立ち上がる。


「てめぇは一生能力で震えてろ!!」


リゼは昔。


誰からも相手にされていなかった。


状況が変わったのは、“あれ”が前線へ現れてから。


“バルゼインの放電現象”。


ヴィクトール。


奴が戦場へ出てから。


国は変わった。


兵士が消える。


前線が壊れる。


防衛線が崩れる。


希望がなくなる。


その恐怖が。


降伏派支持を急増させた。


いつしか。


過激派。


降伏派。


慎重派。


三大勢力になっていた。


そして。


その慎重派の中心。


一人の男が静かに口を開く。


「落ち着け」


空気が少し変わる。


慎重派の代表、エヴァルト。


マルクスが唯一尊敬する男。


エヴァルトは武力を持たない。


能力もない。


だが。


知能だけで国を育て。


知略だけで国家同盟を成立させ。


セレニア連合国の王になった。


天才。


まさにその言葉がふさわしかった。


「バルゼインはノクシアとも戦争している」


エヴァルトは冷静に続ける。


「そちらは現在、芳しくない」


「我々が耐えれば勝機は生まれる」


論理。


現実。


感情論じゃない。


だからこそ。


マルクスはこの男を信じていた。


だが。


限界が近い。


「もう限界だってんだよ!!」


アーデルが叫ぶ。


「俺ぁいつでもやってやる!!!」


「降参しましょ!!」


リゼも叫ぶ。


「バルゼインに勝てる未来なんてないわ!!」


会議室が揺れる。


もう。


抑えきれない。


そもそも。


この二人が同じ国にいる時点で異常なのだ。


狂人。


恐怖。


本来なら絶対に共存できない。


それでも。


無理やり繋ぎ止めていた。


原因は一つ。


ヴィクトール。


“バルゼインの放電現象”


奴は。


狂人も。


天才も。


恐怖も。


全部破壊する。


化け物だった。

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