第一話 指を鳴らす
◆レイナ
爆音が、戦場を引き裂いた。
土と血が空に舞う。
誰かの叫び声が、耳に張り付いて離れない。
その中で……
指を鳴らす音だけが。
やけに大きく響いた。
「……押されてる」
レイナは静かに呟いた。
隣で剣を握るカイルが、荒い息を吐く。
「ああ、でも大丈夫だろ」
「“能力者様”がいる」
能力者。
生まれつき、人間離れした力を持つ存在。
戦場をひっくり返す化け物。
レイナも、その一人。
……本来なら。
「……」
「あ、いや……悪い」
カイルが気まずそうに頭をかく。
レイナは小さく首を振った。
そのとき。
空が燃えた。
巨大な火球が頭上を横切り、遠方で炸裂する。
数秒遅れて、衝撃が来た。
「すげぇ……!」
カイルの目が輝く。
まるで子供みたいに。
レイナは答えない。
その横顔にあったのは、憧れではなく……
諦めだった。
「お前も本当は化け物なのにな」
カイルが苦笑する。
レイナは小さく笑った。
「そんな慰めいらない」
「慰めじゃねぇよ!」
その時だった。
「レイナ!カイル!」
聞き慣れた声。
振り向くと、そこにはミナがいた。
「……どうしてここに?」
後方支援のミナが、最前線にいる。
あり得ない。
レイナの背筋が冷える。
「命令で来たの」
「……は?」
カイルの顔が歪む。
ミナも不安そうだった。
「私も変だと思ったんだけど……」
レイナは黙る。
頭の中で、状況を整理する。
配置がおかしい。
戦力配分もおかしい。
メリットがない。
いや……
「……あるわ」
「は?」
レイナが静かに言った。
「“捨てる”なら、話は別」
空気が凍る。
その瞬間。
「初めまして」
声がした。
「いきなりですが、私になってもらいます」
振り向く。
黒いフードの男。
右手がゆっくり上がる。
黒い“手”が伸びた。
その瞬間。
……パチン。
指を鳴らす。
爆発。
男の足元が吹き飛ぶ。
「……遅い」
レイナが静かに言った。
煙が広がる。
だが。
「やりますね、あなた」
声。
煙の中から。
“同じ顔”が現れる。
一人。
二人。
十人。
百人。
増えていく。
「……触れたら増えるタイプ」
レイナは即座に理解した。
逃げ場がない。
防げない。
「レイナ! 逃げるぞ!!」
「いやぁぁ!!」
悲鳴。
混乱。
絶望。
その中で……
レイナだけが静かだった。
範囲内……敵全員入ってる。
設置……間に合う。
私だけは……死なない。
つまり。
誰を、生かして。
誰を、殺すか。
選べる。
「……」
一瞬だけ。
ミナと目が合う。
「レイナ……?」
レイナは目を閉じた。
「俺は将来、最前線で活躍して——」
「はいはい、無理無理」
笑い声。
安酒。
くだらない会話。
そんな日々が、頭をよぎる。
涙が頬を伝った。
でも。
指は迷わなかった。
レイナは目を開ける。
そして、小さく笑った。
「……ごめんね」
「ねぇ、うそでしょ!! レイナ!!!!」
「レイナ!! おまえぇぇぇぇ!!!!」
……パチン。
次の瞬間。
世界が白く染まった。
轟音。
閃光。
衝撃。
空気ごと、すべてが裂ける。
叫びも。
肉も。
影も。
全部。
まとめて消えた。
残ったのは。
レイナだけだった。




