無限連鎖スライム
魔力導管に色とりどりのスライムがひしめいていた。
緑、青、赤、黄色……。
スライムは迷宮の雑魚のはずだが、リキと架純の行く手を阻む壁のようにそそり立っている。
「ただのスライム? それにしては数が多過ぎるような……」
「いいえ、ただのスライムじゃない。あれは無限連鎖スライムね」
魔力導管からみるみる魔力を吸い上げた青いスライムは近くにいた赤いスライムと結合し、吸い上げた魔力を流し込んでしまった。
「魔力を配当したのね」
あちこちからスライムが寄り集まり、巨大な壁となった。
「粘菌積み立て、こつこつ」
「こつこつ」
「粘菌積み立て、こつこつ」
「こつこつ」
無限連鎖スライムは奇妙な歌を歌いながら互いに魔力を配当し、内部取引を繰り返した。
「節税構造型魔獣か。厄介ね」
一見すると何の変哲もないスライムだが、実際は複数のスライムが持株会社のような複雑な構造で結合している。一匹のスライムに徴税魔法をかけても、魔力資産は即座に別のスライムに配当や内部取引として渡ってしまう。
「分身妖狐と同じ要領ですよね。任せてください」
財産分与型魔獣の分身妖狐を拘束した徴税魔法を架純に代わってリキが詠唱した。
「――《法定相続分》」
分身妖狐を縛りつけたように光の縄が迸るが、不定形のスライムは縄の拘束をすり抜けてしまい、抑えきれなかった。
「粘菌積み立て、こつこつ」
「こつこつ」
「粘菌積み立て、こつこつ」
「こつこつ」
無限連鎖スライムは何事もなかったかのように合体と内部取引を繰り返していた。
徴税魔法を回避し終えると、ユラユラと揺れながらリキを嘲笑うように魔力を循環させた。
「不定形のスライムは光の縄じゃ拘束できないか」
「それだけじゃない。徴税を試みるたび、魔力資産が組織内を巡り、税逃れを合法的に行ってしまう。構造が複雑過ぎるわね」
未熟なリキばかりか、いよいよ課税架純さえもお手上げなのだろうか。
「何かいい手は……」
「この組織を一つにまとめて税を課す。内部取引も配当もすべて無効化する」
「でも、《法定相続分》は効きませんでしたけど」
「下がってて、ハーちゃん」
リキを下がらせると、課税架純は深呼吸し、全身の魔力を集中させた。
「――《連結納税制度》」
放たれたのは《法定相続分》と同じ光の縄だったが、不定形の体を拘束するのではなかった。
数百匹のスライムの群体の内部を蠢く魔力資産が強制的に網目状に結ばれた。
スライムたちはもがき、抵抗するが、魔力による連結の鎖は断ち切れない。
「粘菌……、積み立……」
「こつこ……」
奇妙な歌が止まり、組織内で行われていた魔力の移転が停止した。
複雑な株主構造が一瞬にして単一の組織として扱われた。
「これで、あなたたち全員が一つの課税主体よ。もう逃げ場はない」
スライムたちがなんとか分離しようともがいている。
時間との勝負であったからか、架純自ら徴税魔法を詠唱した。
「――《追徴課税》」
連結された数百匹分の魔力資産を徴収すると、スライムたちは力を失い、ただの液状のゲルとなって地面に広がり、溶けていった。耳鳴りのように怨嗟の声が残響した。
「消えた粘菌……」
「許すまじ、許すまじ……」
「こつこつ」
恨みめいた悪あがきの言葉がわずかにリキの心をさざ波立たせた。
しかし、迷宮徴税官の職分は徴税である。
職分を全うしたまでだ。
「……徴収完了」
「さすがです」
リキが思わず拍手したが、課税架純は相も変わらず涼しい顔だった。
「先を急ぎましょう。そろそろ深淵に向かわないと、偽物が先に到達してしまうかもしれない」
「先輩もやっぱり偽物だと思っていたんですか」
「ええ。本物の迷宮徴税官だったら、わざわざ写真を撮りたがらない。本物と並んで写って、本物と誤認させる。詐欺の常套手段よ」
「そういう観点からも偽物と判別できるんですね。迷宮徴税官はなるべく顔が割れていない方がいいですよね。顔が割れていたら、これから徴税に行くとバレてしまうから」
迷宮のあちこちに手配書が貼られている架純を揶揄したつもりはないが、当の架純も手配書が出回るのは不本意であったらしい。苛烈な徴税祭りの代償だ。
課税架純が少し拗ねたように言った。
「……あれは不可抗力」
現地採用の迷宮徴税官になりすました偽物――ヨシュア・ヤマモロ。
あんなのが気になるあの子に先に徴税したら、と思うと虫唾が走る。
リキはいっそう凛々しい表情を浮かべ、己を奮い立たせた。
「行きましょう。気になるあの子に徴税するのはこのぼくです」




