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 普段から人の往来で賑わう王都の大通りも、今日は一段と人がごった返していた。

 今日はカルデラ王国の救国記念日。5年前、隣国シャパール王国に攻められ占拠された王国を、王子サンディが率いる王国軍が見事奪還した日だ。

 月日が経つと共に戦争の記憶は市民の中から薄れていくものの、この日ばかりは皆口々に当時の王国軍の活躍ぶりを話す。そして、パレードに参加する王国軍の英雄達を讃えようと列を作るのだ。


 盛大なファンファーレが鳴り響くと共に白い鳥が一斉に飛び立っていく光景に、観客達はわっと歓声を上げる。

 そんな賑やかな光景を、私はただ静かに見つめていた。



 私、アリシアは今現在5歳の女の子だが、それより過去の記憶を持っている。所謂前世の記憶持ちというやつだ。

 前世であるレティアは、かつてカルデラ王国軍の軍師だった。今や隣国に攻め入る隙を与えない程戦力が整った王国軍も、最初は女を軍師として立てるほど余裕のない人数から始まったことを思うと感慨深い。

 そのため、パレードで手を振っている者の何人かは見覚えがある。泥水を啜る状況にさえなった当時を知る私としては、煌びやかな衣装を身にまとう皆の姿に違和感があって仕方ない。

 まぁ、死んでしまった私がどう思おうと関係ないか。

 しばらくパレードの様子を眺めていたが、背を向け路地へと向かった。



 路地に足を踏み入れた所で、人混みから解放されたからか自然と溜息が溢れる。

 その時、ヌッと大きな影が体を覆ったかと思ったら何かにぶつかりよろめいた。

 突然のことに頭がついていかずそのまま転びそうになったが、突如腹に逞しい腕が伸びてきて体が宙に浮く。


「すまない。怪我はないか?」

「いえ、だいじょうぶで…す……」


 振り返り礼を言おうとして、固まった。

 緑と黒を基調とした軍服を身にまとうガタイの良い体は、一目で歴戦の強者の風貌が滲み出ている。

 よく見ると顔立ちは整っている方ではあるが、いかんせん少しボサボサな漆黒の髪と、左目付近に誰もが目を合わせた瞬間怯みそうになるほどの大きな傷があるせいで、普通の幼い子どもだと一目でぎゃん泣きしそうだ。

 かつての友でありカルデラ王国一の騎士であるフェルデ=ダールベルクを、私は心の中で散々な評価をした。


 フェルデ=ダールベルクといえば、今や自国はもちろん他国までその名を轟かせるほど有名人だ。

 戦時中、その圧倒的な剣術と一騎当千をやってのけるそのタフさで『黒の鬼神』と恐れられていた。

 誕生日にプレゼントした黒のマントを馬上で靡かせるその姿は、自軍の士気を上げ、相手をビビらせるには効果てきめんだった。


 フェルデと最後に会った時、アイツは確か21歳程だったはず。ということは、今26歳か。

 この5年で随分老けたな、と目の下のクマや微妙に整えきってない髭をまじまじ見ていると、フェルデの眉が不機嫌そうにしわ寄る。


「……んで…」

「えっ?」

「いや、何でもない。怪我もなさそうだし下ろすぞ」


 腕だけで支えられていた体が両手に持ち替えられ、ゆっくりと地面に下される。

 そのあまりにも優しい扱いに体がむず痒くなった。

 レティアの時は、抱えるにしても俵担ぎだったりとかなりぞんざいな扱いだったあのフェルデが。 子どもといえば投げれば喜ぶと豪語していたあのフェルデが。少女に対して丁寧に扱っている…だと……!


 込み上げてくる笑いを我慢していることを悟られないように下を向いていると、上から溜息が降ってきてポンと頭を撫でられた。


「恐がらせたようだな。悪かった」


 予想外な発言に驚いて顔を上げると、案外近くにあったフェルデの瞳とばっちり目が合う。

 数秒見つめ合うという謎な間があった後、フェルデがあーやらうーなど妙な唸り声を出して立ち上がった。


「俺はもう仕事に戻らないと。お前も早く親元に帰れ」


 そう言い残し、フェルデはさっさと路地の中に入って行ってしまった。



 前世の記憶にあるフェルデは意外と世話焼きな性格だったけど、この状況で少女を置いていくとは。パレードにも参加してないし、余程重要な仕事があるらしい。


 ふと、足下に光る物を見つけしゃがみ込む。

 それを拾い日にかざすと、見覚えのあるその物にドクリと心臓が跳ねた。


「なん…でコレが……」


 日の光でキラキラ輝くそれは、鉄板で作られた栞。サクラソウの模様が切り抜かれたこの栞は、前世でフェルデから貰った物だった。



 死を覚悟したあの日、荷物は全て捨てたがこの栞だけは持っていた。恐らく死ぬまで。

 それがここにあるということは、可能性は一つしかない。レティアの死後、フェルデが持っていたということだ。

 フェルデとは確かに友だった。だが、付き合いはたかだか1年も満たない程。5年間の年月も含めたら、他の英雄達に比べたら私なんか有象無象の一人に過ぎない。


「なんで…今も持ってるのよこんなもの……!」


 滲み出た声は弱々しく路地に響き渡った。

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