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絵が上手くなる為の心構えの様な。

 さて、今まで形の取り方から色々と言って来ましたが、絵を描くのに一番重要なものは何かとずばり言えば、目です。


 自分の描いている絵と言うのは、実は大いに主観が入ってしまい、案外冷静にその質を見られません。

 自分では案外上手く行っていると思っても、上手い人と見比べるとめちゃくちゃ下手くそだという経験、とてもよくあることだと思います。

 それを解消してより上達するための手段が練習で、模写で、描き続けることなのです。


 例えば毎日毎日嫌になるほど自分の絵を見ていれば、そのうち簡単に気づきます。

 あ、自分の絵のレベルはこの位だ、と。逆にたまにしか描かなければ、目はちょくちょくリセットさせてしまうので、自分が下手なことにも中々気づけない。そんな状況に陥ってしまうのです。

 嫌になるほど描くと言う事は簡単に言えば自分の絵を客観的に見られていると言うことでもあります。

 どれだけ描いても自分の絵が嫌にならなければ、順調に成長しており、どんどん理想に近づいて行っているということ。しかし、それが100%ではないので、たまには自分の理想であったり、目標であったりする絵を見て、客観性を得ることも重要です。

 なので、多くの人はひたすら練習あるのみ、とか、模写をしろ、とか、毎日やれ、とかそういうことを言うわけなのです。


 絵はどれだけ考えて描けると言っても、絶対に感覚からは逃れられません。

 しかし、感覚を補うために思考することで成長することが出来ると言うのもまた事実です。

 ダ・ヴィンチは1:1.618、黄金比と呼ばれる比率を絵画の中にひたすら取り入れて画面を成立させましたし、プッサンは人形を箱の中でジオラマの様に組み立てて画面の構成を考えました。マチスは毎日何度も画面を描き直しては写真におさめていましたし、モランディはモチーフの瓶等をペンキで塗って見て描いていました。

 良いものを描くために考えると言うことを、歴史的画家の多くは行っています。

 

 あ、ちなみに北斎なんかを出していませんが、北斎は歴史的に見ても5本指に入れて良い画家だと多くの人が考えていたりします。世界で最も有名な絵画は何かとパリで問うた時、実は『モナ・リザ』か『冨嶽三十六系 神奈川沖浦波』と、海外でも言われることがある程。

 印象派の多くは日本の絵画に衝撃を受けましたし、ドガなんかは日本には素晴らしい絵画がたくさんあるのにパリに来る意味が分からない、的なニュアンスのことを言ったほどだったりします。

 もちろん、隣の芝は青く見えるではないですけれど、日本にとっては三次元的な西洋絵画は衝撃だったので、どちらがより優れている、と言うことは言えないかとは思います。

 しかし、殆どの油絵を学んだ日本人が日本画凄いと言うのも、また事実だったりします。

 北斎なんかは江戸時代において90歳を過ぎていたにも関わらず、死の間際にあと5年あれば本当の絵画を描いてみせる、なんて言ったという話は有名です。


 例えば日本画の絵の訓練の一つに、ただひたすらに一枚の参考作品を見続けて、十分に目に焼き付いた所でそれを見ず一気に模写をすると言う訓練があったりします。

 それは絵に対する集中力もそうですが、見るということの重要性も示しています。

 私は何度か、絵は感覚で見て考えて描いて、とこれまでも何度か言ってきたと思いますが、この方法の模写では考えを超えた所まで目に焼き付けることによって、感覚で理解するまでひたすら見続けるという作業でもあるのです。その為に描くときには参考作品を見ることが出来ません。

 まあ、ともかくそんなこんなで、絵を描くのは長期的な作業であって、決して短期ですぐに上手くなるものではないということです。

 感覚で見て、考えて描いて、それをひたすらに繰り返して、失敗することも多いでしょうが生涯上手くなりつづけられる。そんな分野なのです。



 さて、最後におまけの様なものですが、私の絵を描くときの考えのようなものを書いてみようと思います。

 私は基本的に写実、それも見て描くタイプの描き方をします。

 基本的に頭の中にイメージが全く浮かばないタイプですのでそれは仕方ないのですが、見ながらも積極的に形や配置、色などは変えていきます。

 その理由ですが、私が描いているのはあくまでも絵だと言うことが前提にあります。掴めそうなくらいの物を、あくまで絵として描く。そんなほんの少しだけの違和感が、写真にはない自然な魅力を創り出すのではないかとの考えがあります。粗探しをするまでもなく絵の様な、それでいてなんとなく掴めそうな。

 そんな少しの違和感を創り出す為に、いくつか気をつけているポイントがあります。


 一つ目は、構図や形は基本的には思考して作るということ。

 配置する位置の関係や形の変形等、現実の位置に忠実に描くのではなく、あえて画面内で変更してベストな位置を変えています。腕はここに欲しい。この角度では下のモチーフと繋がらないから角度を変えないといけない。あえて少しだけ線をずらそう。様々な要素がありますが、試しては見て消して、なんてことを繰り返し、最初の形を決めていきます。


 二つ目は、色は感覚に頼ること。

 私はたまたま、色に対してそこそこ強さがあります。恩師や教授に言われたこととしては、普通なら濁る色の組み合わせでも濁らない、とか、色だけで世界に引き込まれる、とか、そんなことがありますが、実は最初はそんなことを殆ど信じていませんでした。それはひたすら考えて描くということを繰り返しているうちに自己否定がどんどん増して行った結果だったのですが、ある時、と言うか大学院の時ですが、半年位絵を描かずに悩みました。自分の絵の現状一番の欠点はどこなのだろうか。良い所を探さない辺りがアレだと思うのですが、半年程も考えた末に、色の話を思いだし、色を自由に描いてみることに決めたのです。

 それからは、今まで散々クソだったマチエールもどんどん良くなり、絵の具の自由に使えるようになり、思った以上に絵のレベルが伸びていきました。

 色だけで世界に引き込まれると言われたのは実はそう描き始めてから暫く経った後なのですが、自分自身の能力を冷静に見極めることの重要性を、そこでようやく認識しました。

 色に関しては特に、人によって見え方が随分と変わるものなので、なんと言うか、最終的には自分の中で最も落ち着くものを選択していくことが重要かと思われます。


 三つ目は、モチーフへの理解です。

 私は基本的に、初めて見たものを描きません。

 感動というものは基本的に一時的なものであって、時間が経つほどに冷めていきます。

 例えばどれだけ美しいと思った人や風景であっても、本気で描いていけばそのうち欠点が見えてきます。それは難癖の様なもので、美しすぎて面白くない、なんていう自分勝手なものまで。

 その為、私が描くものは基本的に身近なものや人なのです。

 身近にあるということは、言い換えれば自分がそれだけ存在を許したと言うこと。

 長く近くにあるほどに、無意識に愛情があるということになります。

 その為、初めて見たものの感動とは逆で、身近にあるものはよくよく見てみると新しい発見が出てくるのです。それが実は、面白い。

 なんで自分が近くにあることを許しているのか、そんなことを観察することで今まで気づかなかった魅力に改めて気づく。

 さて、そんなことで、私は結構余分なものを描きます。

 人物を描く時は怪我をしていればそれを、何か小物を持っていればそれを描くことが多いです。

 その人物のその時の興味、自分自身の興味、それはある種の歪みと言えるものですが、それこそが先ほども言った気づかなかった魅力につながることがあるのです。

 臭いものには蓋をしろではないですけど、綺麗に整えることよりも歪みを受け入れることでそのモチーフの魅力は増す。と言うのが私の考えです。


 そんな風に、描くものにはいちいち理由があったりします。

 絵を見るときに、なんで描いたのか、なんてことを考えてみるのも面白いかもしれませんし、自分で描く時にもそれは必要なのか不要なのか、そんなことを考えてみてください。


 挿絵(By みてみん)

 その時の歪みを描く。

今回で一先ずの最終回です。

きっとこれからも書きたいことなんかが出てくると思うので、その時には再開します。

さて、割と横道にそれた気もしますが、何か参考になれば幸いです。


Instagramに描いた絵の一部をアップしています m.natsum9

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