七・誕生日の贈り物は……?
残暑厳しい折。朝顔が萎れはじめ、夏の終わりが近づく八月下旬。ニエル・ガルフィオンは十九回目の誕生日を迎える。毎年この日は、ガルフィオン家の邸宅にユージンを招き、家族と共に祝うのが恒例だ。元々はニエルの両親と兄の四人で祝っていたらしい。
しかし、五歳になる日の朝。ユージンが花束とフルーツを携え現れてから、ニエルの誕生日パーティーに毎年参加するようになった。息子を祝うためにわざわざ来てくれたというのに、追い返す人間はいないだろう。もっとも、ユージンを家に招き入れたのは、母親の強い希望だ。ユージンの母親とニエルの母親は昔から仲がよく、婚約者として指名された際は「本当にうちの息子でいいの!? 正気なの!?」とニエル本人より驚いていた。
「よく来たわね、ユージンくん。さあ、座ってちょうだい」
「今年もお招きいただき、ありがとうございます」
「ふふ、いいのよ」
ニエルの隣の席へ腰かけた。今日は従者を引き連れてはおらず、ユージンはズボンのポケットから赤い長方形のケースを取り出す。
「おめでとう、ニエル」
「ああ、ありがとう」
ユージンは毎年、フルーツや肉、魚など大量の食べ物をプレゼントしてくれる。だから今年も例年と変わらない贈り物だと思っていた。ところが。
「肌身離さず持っていて欲しい」
「これは……ペンダントか?」
箱を開けると、そこにはアメジストのペンダントが納められていた。紫色の輝きを放つそれは、ニエルの瞳よりも大きく、見るからに高そうだ。それに、どこか見覚えがあるような気がした。原作のユージンが、十八歳になるイリーナに贈っていたアメジストのアクセサリーと酷似している。
「あら、エミリア様がしていたものに似ているわね」
エミリアというのはユージンの祖母の名だ。彼の祖母は、孫であるユージンのことを誰よりも可愛がっていたが、幼少期に病気で他界している。間違いなく形見の品だろう。
「さすがに受け取れないって」
「いつか返してくれてもいいから、そのときがくるまで君に預かっていてほしい」
ユージンは、いつになく真剣な眼差しをしていた。人前だというのに、照れることなく真っすぐ見つめられ、自分の家だというのに居心地が悪くなる。背中がむずがゆくなる。
「……わかった」
返すまでの間に失くしたり、盗まれたりしたらどうしよう、とは思ったものの、それを素直に言えるような雰囲気ではなかった。
ニエルがペンダントを取り出した途端、ユージンは席を立つと、なんと背後に移動してつけてくれた。そしてまた席に戻った。強く赤みを帯びた紫色の大きな石が輝く。
「うん。似合っているよ」
「あ……ありがとう」
贈った本人は、ペンダントを身に着けているニエルの姿を目にして、ほっとしたような表情をしてみせた。
ヒロインであるイリーナは未だに現れないので、ニエルの手に渡ったのだろう。
(俺が持っていてもいいのか……?)
不安が過るが、受け取った以上どうしようもない。イリーナが登場するまで預かることにした。
(金庫にでもしまっておくか?)
だがしかし。ペンダントを所持しているか、定期的に確認されることになるので、その手は使えなかった。
***
パブリックスクールに通うロイの夏休み最終日。何度か遭遇していたロイとも明日以降はまた会わなくなる。どうにか好感度を上げぬままやり過ごせたと思いきや、寄宿舎に戻る当日、家に押しかけられてしまった。
「ニエル先輩の連絡先が知りたいんだ」
「え?」
もう家に押しかけてるじゃないか、という突っ込みはさておき、文通したいと言われて困惑する。前世でも今生でも筆不精なので手紙を書いたことはほぼほぼない。むしろ苦手な部類に入る。頷けずにいると、腕にしがみついてまで熱心に訴えられた。
「返事はなくてもいいから、ね? ね?」
「ロイ。先に言っておくけど、俺に懐いたって、アイアンズ家が不利になるようなことは言わないからな?」
「え?」
ロイという攻略対象キャラは、ヒロインのイリーナが好きすぎるあまり、アイアンズ家の弱みを握ろうとしてくるのだ。そうして優位に立とうとする。今はヒロイン不在でも、一応牽制した方がいいだろう。これ以上面倒ごとを増やさないためにも、予め釘を差すことは大事だ。
「そ、そんなことしないよ!」
「約束できるなら教えるけど、返事は期待しないでほしい」
「わかった。ありがとう!」
ロイは人懐っこく親しみやすい人柄ではあるものの、暴走しがちな部分が欠点だ。本当は文通するのも億劫だが、実際に彼から手紙が届くかどうかはまだわからないので連絡先を教えた。
「オレを理解してくれるのは、ニエル先輩だけだよ。じゃあ、また会いに来るから!」
そう一言残して立ち去った。
(だ、大丈夫だよな……?)
果たして、この対応で合っていたのか。不安だったが、なるようにしかならないのでニエルは、これでいいんだと自分に言い聞かせた。




