ルカのパソコンから発掘された何か
ヴァルミエ伯爵の後妻になりました。
娘オリビアを連れてヴァルミエ伯爵に嫁いでから、少しずつ娘が怯えるようになりました。
やがて、流行病になったとされるオリビアは儚くなってしまいました。
その時の、侍女の醜悪な笑みが今でも頭から離れません。
ヴァルミエ伯爵嫡男ロラン様も、仲の良かったオリビアのことを悔やんでくれました。
やがて、ロラン様は私のことを『オリビア』と呼ぶようになりました。
ロラン様の心が病んでしまわれたのかと、私は悲しくなりました。
その頃は、私自身も記憶が途切れ途切れになっていました。
『オリビア』が本当に私の娘だったのか、私自身なのかさえ、わからなくなってきました。
今思えば、私の方が心を病んでしまっていたようです。
記憶にない出来事について、ヴァルミエ伯爵に問いつめられることが増えました。
やがて、何らかの罪で、あの醜悪な笑みをしていた侍女は暇を出されたようです。
私はやがて、ロラン様の前でだけは……正気を取り戻すことが増えました。
ある日、ロラン様はこう仰いました。
「幼い私では、オリビア様の記憶をつなぎ止めることに不安があったのです。オリビア様の名前で呼んでしまい、申し訳ありませんでした」
そうして明らかにされたのは、侍女のオリビア虐待死、そしてそれをもみ消したのがヴァルミエ伯爵であることを。
ロラン「私が、必ず仇を討ちます。義母上は……いましばらくお待ちください」
その日から、私は大量のミルクを飲んでいたようです。
ロラン様の手配だったのでしょう。
これも何かの工作なのだろうと、記憶があるときもミルクを飲むようにしていました。
ロラン様が女装姿で登場した時、私は泣きそうになりました。
髪の色こそ違うものの、オリビアが無事に育っていたら、これくらい美しくなっていたかもしれないと。
きっと、仲の良い姉妹になれただろうと、想像してしまいました。
この時ほど、ミルクを飲むのが辛い時はありませんでした。
……本当は、血縁上は問題がない……オリビアと結婚してほしかったのですけどね。
次男リュカ様の命律端末授与式の日に、ついにロラン様は決心したようです。
ロラン「リュカが命律端末を持てば、私が家督を握る準備だけはできますわ。いよいよ決行の時がきましたわね」
『決行』が何を意味するのかは明らかです。
しかし夕方、ロラン様はできるだけ冷静を装いながら、悔しそうに仰いました。
ロラン「リュカが……追放された!命律端末を手に入れられなかった『穢魂者』として!」
ロラン様の口調が戻ってしまっています、せっかくのお美しい姿が台無しです。
ロラン「オリビアに続き、リュカまで……あの男は、もう許せない……!」
リュカ様は、よく私のことを『タマ』と呼んで慕ってくれていました。
最近は「姉さん」と呼ばれています……少し寂しいのです。
あんな良い子が、なぜ命律端末を入手できない……?
私は、ロラン様に、努めて冷静に伝えました。
タマ「ロラン様、今動いてしまっては……ロラン様が疑われます。今日だけは、どうか宿に泊まって冷静になってください」
ロラン「わかった……ちょうどワサビ子爵嫡男マルボロがうちの領地に来ているので、その宿に向かおう」
……これで大丈夫です。
私が心を病んだ女として、ヴァルミエ伯爵への復讐をしてしまえば。
ロラン様は、ずっと人目のある場所にいるはずです。
私は、全く取り乱さず、ヴァルミエ伯爵に毒を盛りました。
深夜、ロラン様がお戻りになられたので、笑顔で出迎えようとしました。
きっと、これが最後でしょうから。
しかし、ロラン様は私の出迎えより先に指示を始めました。
ロラン「メイド達!今から『猫加護』を全力展開!今後何があろうとも、絶対に『猫加護』を解くな!」
……『猫加護』があると、確かにミルクは美味しいのですが、なぜ今から?
ロラン「義母上……命律端末で通知があったから確認してみれば、私がヴァルミエ伯爵になっている、義母上⁉」
色々と省略されているのは、意図的なものでしょう。
私の部屋にロラン様を招きました、少しだけお話する時間ができましたね。
ロラン様は、焦燥感を隠そうともせず、口早に仰いました。
ロラン「聖女レアナ様とリュカが駆け落ちした。しかも、よりによってマルボロの手配だ!これでは、私を疑ってくれと言っているようなものだ!今、王宮に早馬で追放撤回の遣いを出しているが、これではヴァルミエ家をリュカに渡せない!」
タマ「落ち着いてください、ロラン様。証拠となる毒は、私が持っています」
ロラン「やはりか……今後私は生涯女装を貫く、タマも今後はオリビアと名を改めてくれ。そして、申し訳ないが私と結婚してくれ……今すぐに思い浮かぶのは、変人夫妻を偽装して、騎士団の調査から逃れることだけだ!血縁上も一応問題はないから、オリビアを守れる」
オリビア(タマ)「ですから、私の単独犯ですから……私が捕らえられれば」
ロラン「オリビアは政治の世界に少し疎いようだ。今の形では私が画策して、オリビアが実行犯、そう喧伝されるのだよ……事実など関係なく」
オリビア(タマ)「じゃあ、私のやったことは……」
ロラン「私のことはどうでもいいが、オリビア……君は生きてくれ!」
オリビア(タマ)「どうでもよくなんてないわ、あなたがいなかったら、誰がリュカを守るの?」
ロラン様を抱きしめながら、そう伝えていると……おそらく騎士団が現場検証にきました。
その頃には『猫加護』も全力展開されました。
だけど、この人たち、ただの騎士じゃない、近衛騎士?
「あー、これは何かの食あたりですかにゃ?」
「一応、ロラン様にも取り調べは行いますにゃ?なに、安心してくださいにゃ!推定無罪の原則ですにゃ!」
「まあ、宿屋の方でロラン様の目撃情報があるので、食あたりですにゃ!」
「ロラン様、その瓶の中身は少し危険そうですにゃ!タマ様の自殺を食い止めてくださり、深く感謝いたしますにゃ!」
「そうにゃ!病人が持っている得体の知れない薬、危ないところでしたにゃ!」
……一体何が起こっているの?
そもそも、なんで近衛騎士が動いているの?
まるで、私たちを全力で庇うように……。
「念のため、命律端末を見せてくださいにゃ。ふむ、ロラン様に社会的有害性フラグ無しにゃ……タマ様にもフラグ無しにゃ、まあ取り調べは形式上だけにゃ!」
「ヴァルミエ伯爵は食あたりの危険があるにゃ。遺体は申し訳ありませんけれど、すぐに焼却させていただきますにゃ」
しかし、オリビア(タマ)の命律端末は赤く点滅し、社会的有害性フラグが立っている。
そこに、近衛騎士団長らしき男が近づいて、そっと口にする
近衛騎士団長「我々王宮派としては、聖女レアナ様の名に傷をつけるわけにはいかないのですにゃ。ただ、まったく疑惑無しというのも整いすぎだにゃ。お二人はしばらく『黒い』振る舞いをしてくださいにゃ。命律端末は故障にゃ、交換させていただきますにゃ」
そうして、早朝には現場検証が終わってしまい、証拠となる毒も、遺体も早々に処分されてしまいました。
ロラン「さて、どうしようかにゃ?これでは私たちが結婚する理由も……なくなってしまいましたにゃ」
オリビア「理由なら、あるにゃ?これで、わからないかにゃ?」
私は、ロラン様の唇に唇を重ねることで、答えとしました。
サヤ「まったくルカ様……こんな内容を本文に入れないとか、もったいないですわよ」
そうして、サヤは永遠の眠りにつくのであった――。




