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第22節 ラーメン伯爵領にて ~ラーメンを食べるのが無理ゲー~

 ここからのタイムスケジュールは、チカに任せることにした。


 不自然ではないワサビ子爵領の滞在期間は十日程度、そして馬車は敢えて非力な馬に換えて稼げそうな期間は五日程度。

 これ以上、ラーメン伯爵領に入るのを引き延ばすのは、リスクが高いというのがチカの見込みだ。

 チカは、天候などにより、少しでも引き延ばしていく予定らしいので『最悪、最短十五日で到着』となる。


 そして最悪想定というのは、お約束のごとく最悪になるものなのだ……。

 天候に恵まれてしまい、本当に十五日でラーメン伯爵領に着いてしまった。


レアナ「最低限の時間稼ぎしかできなかったわね」

リュカ「この作戦の問題は、屋敷に近づきすぎても、遠ざかりすぎても怪しまれることなんだよな」

チカ「兄くん、すまない。天候を操る術を持たない、非力な私を許してくれ」

リュカ「チカは悪くないよ、できることとできないことがある。その中で最善を尽くしてくれた、それで十分だ」

チカ「ありがとう兄くん、愛しているよ」


 ラーメン伯爵領は、今まで巡ってきた街のどこよりも荒れ果てていた。

 スラムが普通にあり、栄養失調の人が街を徘徊し、ラーメン屋だけは立派な建物だ。

 そしてラーメン屋の前には、ガラの悪い男どもが、時には殴り合いをしながら、たむろっていた。

 しかし、ラーメン伯爵領というだけあって、食事処はラーメン屋しかない。


 貧困層に聞いたところで、ろくな答えは返ってこないだろう。

 心は痛むが、金を渡すだけでは何も解決しない。

 使うべき時のために金貨を温存する決意をした。


レアナ「ちょっと命律端末に聞いてみるわ」

チカ「兄くん、呼んだかい?」

レアナ「あんたじゃないわよ!」


 レアナをなだめながら、チカに聞く。


リュカ「落ち着けレアナ……チカ、ラーメン伯爵領の実態を教えてくれ」

チカ「兄くん、ラーメン伯爵領ではラーメン関係者とそうでない者の格差が大きい、大きすぎるんだ。だから、兄くんも見たであろうが、スラムがあったり、栄養失調のスラム民が溢れている。そして、ラーメン関係者はラーメン伯爵に優遇されている」

レアナ「ねえ、なんでカレー侯爵はさ、こんなラーメン伯爵を派閥に入れているの?」

チカ「偽装工作の線が濃厚だな、普通の派閥だと見せるために、敢えて素性は悪いが典型的な貴族として、ラーメン伯爵を選び、牽制役としてオデン子爵を据えたのだろう。兄くんはどう思う?」

リュカ「概ね間違ってないと思う、シャブシャブ準男爵もそれに近い立ち位置だったんだろうな」


 リュカも自分で言いながら鳥肌が立った、レアナも顔面を真っ青にしている。


チカ「そうか、ではそれを踏まえて兄くんに言っておこう。今はラーメンを食べる時期ではない、馬車に積んだ食糧で凌ぐんだ」

レアナ「言われなくっても、あんなガラの悪い奴らが、入口を塞いでいるから無理よ……」

チカ「ところが、そうでもないんだよ。それなりの身なりの人間が近づけば、道は空ける。そしてラーメン屋に入ってから身ぐるみを剥がれるだろうな。レアナ君の場合は、それだけでは済まないだろう」

リュカ「やっぱり、街でラーメン食べるのは却下だな」

チカ「それが賢明だよ、兄くん。おそらく、そう遠くないうちに、何かしらカレー侯爵サイドの動きがあるだろう」

リュカ「そうだといいな」


 リュカはチカをしまい、レアナに向かって言う。


リュカ「レアナ、今の話どおり馬車に籠城だ……ラーメン伯爵領は想像以上にヤバい」

レアナ「本当に鳥肌が立ったわよ、脚も震えてるわ。でも、チカの嫌がらせとも思えなかったからね」

リュカ「果たして食糧は保つのか……?」


 そうして、馬車に籠城を始めて三日後に、チカの予想どおり――ナットウ男爵の影が動いた。


ナットウ男爵の影「聖人様聖女様、今のラーメン伯爵領は極めて危険です!もはやカレー侯爵も、ラーメン伯爵を切り捨てる検討を始めています」

リュカ「わかった、ありがとう」

ナットウ男爵の影「今回は、用心のために納豆巻きの支援はできかねます」

レアナ「いつもあなたたちが食べちゃってるじゃない、納豆巻き……」

ナットウ男爵の影「はっ……それは消費期限という重大な懸念が……」

リュカ「着服ですらなかった!」


 リュカは、ラーメン伯爵が切り捨てられれば、スタンプラリー対象にならなくていいなと思っていた。


ナットウ男爵の影「そして、馬車での籠城もいいのですが、孤児院巡りなどはいかがでしょうか?我々が護衛を務めますし、補充食糧も大量に用意いたしました!聖人様聖女様の馬車では収まりきらないほどに」

レアナ「助かったわ。正直ずっと馬車の中で、唯一の息抜きが馬に水を飲ませたり、草を食べさせたりで……食糧も心もとなかったから」

ナットウ男爵の影「ご不便をお掛けして大変申し訳ありません。そして、影の一人がようやくオデン子爵の痕跡らしきものを発見しました」


 しかしナットウ男爵の影の口調は暗い。


リュカ「最短、最長の見積もりでオデン子爵に会えるのはどれくらいの日数が必要?」

ナットウ男爵の影「最短でも二十日、最長だと冬を迎える五十日となりますが……」

レアナ「まあ、二十日が偶然込みの最短ってことくらいわかるわよ、その間は孤児院巡りをするわ」

ナットウ男爵の影「では、さっそく一番近い孤児院から巡りましょう!」


 ナットウ男爵の影は表情を隠していたが、口調からは嬉しさを隠し切れていなかった。

 リュカは、寒さでも恐怖でもなく、なぜか胸が震えていた。


リュカ「行こう」


 それは、逃避ではなく、向き合うための一歩だった。


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