魔人決戦編 -9
その頃、シュヴァールはレギルと魔界最深層に入り、さらに奥へと進んでいた。
「レギル様。どうやら、ヴァイスが魔人に勝ったようです。やはり、天使は彼に微笑みましたよ」
空を仰ぎながら微笑むシュヴァールの顔を見て、レギルはため息をつく。
「全て、お前の計画通りというわけか。だが、お前も復讐したかったんじゃないか?」
すると、シュヴァールは顔をムッと顰めて立ち止まる。
「確かに…。私が魔人を殺すことは造作もないこと。ですが、それで私の後悔や憎悪が消えることはないでしょう。なぜなら私は、まだ古い後悔を晴らせていないのですから」
顔を俯かせるシュヴァールを、歩調をだんだんと緩めながら背中越しに見るレギルは足を止め、シュヴァールの方へ向き直る。
「それは、ここに魔王の気配がないことと関係があるのか?貴様、さっきから少年のことばかり気にして、全く警戒心がない。まるで、最初からここに魔王がいないことを知っていたかのようだ」
シュヴァールはレギルの目を、原生林に流れる川のせせらぎのような静かな眼差しで見つめ返す。
「そう…ですね。私が知っているのは、語り継がれることのない歴史。あなたとここへ来たのは、一度幕切れさせた昔話を終幕させるため。まず初めに、その情けない結末からお伝えしましょう。今から千年以上前に、魔王は私が封印しました」
それを聞いたレギルは、まるで雨上がりのモワモワとした炎天下、涼風通る東屋のベンチに凭れ座るように、肩の力が抜けるも、見開いたまま泳ぐ目をしながら、その場に固まる。
そのとき、シュヴァールは蜜柑茜の揺らめきに思い耽るように、寂しそうな目で遠くを見つめていた。
これで第三章は終わりです。最後まで読んでいただきありがとうございました。
凍闇夜 霜陰散るり 雪割らむ
曙映ゆる 白花水木
この和歌の意味は以下の通りです。
「凍てつく暗い夜に立ち込める霧の気配が、ほのかに消えていくと、降り積もる雪が力強く割れるように、夜明けの光が差し込み、ハナミズキの白い花に美しく際立つ。」
自分の解釈としては、以下の通りです。
「絶望を乗り越えた憎悪は、邪悪に立ち向かう希望となり、純白に輝く。」




