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春が来たら

「 いかがでしょう、ソウキ様 」


ミチルの問いに、青いドレスを纏ったソウキ様が鏡の前でくるりと回る。


「 はぁ…素敵です。すごく綺麗… 」


思わずもれた美波の言葉に、ソウキ様が笑みを浮かべる。


「 ありがとう、美波。

気に入ったわ、素晴らしい仕上がりね。ありがとうミチル、皆さんにもお礼を言わなくてはね 」


そう言って、コクガ様に手をのばす。


「 コクガ?」


「 あっ、ああ。すまん、見とれていた。

綺麗だよ、ソウキ 」


いつもは、流れるように称賛の言葉を妻に囁くコクガ様である。

やけに静かだと思ったら、見とれていたとは……


「 うわー、リアルで自分の奥さんに見とれる夫っているんだ…まぁ、ソウキ様だし、無理もないか。

一般女子には一生ないシチュエーションだわ 」


心の声が駄々漏れの美波に、ユーリが盛大に吹き出した。


「 ブッ、ハハハッ!面白いなぁ、美波。

安心しろよ、大丈夫だから。男って好きな女は絶世の美女に見えるもんだよ。美波に見とれて言葉も出ないって奴も、何処かにいるさ。多分な 」


フォローのつもりか……ちょいちょい失礼なセリフが混ざってるぞ、ユーリ。


「 うぐっっ 」


ローザ様の肘打ちが、脇腹に入ったらしい。


「 美波、ごめんなさいね。女心の分からない甥っ子で。美波はとっても可愛らしいし魅力的よ、いつか素敵な人が現れるわ 」


ローザ様、フォローが痛いです。

美女代表みたいな方に、可愛いって言われても……


「 えーっと、気にしてませんよ。大丈夫です。

恋愛のフィルターがかかってたら、可愛いくらいは言ってもらえると信じてますから。多分 」


お願いします、この辺で勘弁して下さい……


「 ソウキ様、ローザ様。こちらの二着も見ていただけますか?春祭りでの販売と、結婚式用のレンタルを考えているんです 」


二人の世界を作るドラゴンの番と、気まずさに耐えきれず逃亡直前の美波を、ミチルの一言が現実に引き戻した。

ありがとうミチル!限界でした……


「 ローザ様、あちらへ!見て下さい!」


「 そ、そうね。見せてもらおうかしら 」


瀕死の美波は、話題を変える事に成功した!



二着のドレスもお二人に好評だった。

特にウェディングドレスは王都でも人気が出そうだと、太鼓判を押して頂いたので、コザクラ町でのプレゼンに弾みがついた。

春までに、お祭り用のドレスを量産しよう!


その後は村の皆とワカサギ釣りを楽しみ、お待ちかねの夜のイベントだ。

今頃ドラゴンの番は、心尽くしの料理が並ぶかまくらで二人きりの時間を楽しんでいるだろう。


「 ローザ様、どうぞ。これはギョウザといって、キノコとキャベツにチーズ等が入っています。

スープと一緒に召し上がって下さいね 」


美波の家では、ローザ様とユーリとミチルでひとつの鍋を囲んでいる。

今夜のメニューはトマト鍋、ニンニクを効かせたトマトスープに手作りの野菜ギョウザや卵が入っている。

締めはマカロニを入れる予定だ。


「 カエン様が、揚げギョウザか美味しかったとおっしゃっていたけど、同じものなの?」


「 具材と調理法が違うんですよ。皮に包んだこの形をギョウザと言います。

今日のはスープギョウザですね」


ユーリはさっそく口に運び、案の定ヤケドしたらしい。子供か……


「 あっつ!うまっ!美波、うまいっ 」


「ありがと、ユーリ。はい、お水。熱いのは見たら分かるでしょ、気を付けなよ 」


「美味しいわ、美波。テーブルの上で調理するのも面白いわ 」


ローザ様は日本式の冬のお鍋が気に入ったようだ。

味付けは和風ではないけれど、気分は炬燵でお鍋だ。

お肉好きなミチルに、同じ具材に挽き肉を加えて作った焼きギョウザを出してあげて、美波も食べ始める。


「 一個ちょうだい、ミチル。

んっ、これもアリだね。洋風ギョウザって感じ 」


レモンを絞り胡椒を効かせた焼きギョウザは、おつまみにぴったりだ。


「 美味しいわ、コレ。トマト鍋の方と殆ど同じなのに、全然違う味ね 」


ミチルも好きな味らしい、今度みんなでギョウザパーティーでもしてみようか、などと考えながらトマト鍋のギョウザを味見する。


「美味しいね、ラビオリみたいだなぁ。マカロニ無くてもいい気がする 」


白ワインを飲みつつ、皆で鍋をつつく。

鍋のギョウザがあらかた無くなり、マカロニを加えたところでローザ様が口を開いた。


「 そういえばユーリ、あなた春になったらどうするの?また旅に出るつもり?」


「 んー、出来たら暫くハクロウ村にいたいな。

美波の側に居ると飽きないし、春祭りも楽しそうだし」


ローザ様の手前飲み込んだらしいが、ミチルはユーリを見つめている。


「 そう、シロガネ殿にきちんと話すのよ。後たまには王都にも顔を出しなさいね。カエン様達に乗せてもらえばすぐでしょう?」


どうやらユーリの長期滞在は決定事項らしい。


「 ん、そうする。俺も何か仕事しないとなぁ、この冬は旅の土産で勘弁してもらったけどさ。

何しようかなぁ 」


定住しかねないユーリの様子に、ミチルは呆れ顔だ。


「 はい、出来ましたよー。好きなだけ取ってくださいね 」


トマト鍋にチーズを振りかけ一混ぜして木匙を置く。

美波はもうお腹一杯だが、意外と大食漢なエルフとミチルはまだ食べ足りないらしく、たっぷりとお皿に取っていく。


「 おっ、これもうまそう 」


「 私も頂くわ 」


「 ちょっとユーリ!取りすぎよ!」



賑やかな夕食会はまだ続く、かまくらデート中のドラゴンの番は冬の夜を楽しんでいるだろうか。

春はまだ遠いが、長い冬も半ばを過ぎた。

まだ美波は知らないこの世界の春には、どんなことが起きるだろうか。

どんな花が咲き、どんな出会いが待っているだろう。


まだ見ぬ春に思いを馳せて、冬の夜は更けてゆく。

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