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ようこそ、カエン様

村に着いたのはお昼前であった。


爆走したソリのお陰か……


出発前に色々と訊ねていたので、村人達は成果を聞きたくて待ち構えていたようである。

あっという間に囲まれてしまった。


「 どうだった?美波。使えそうか?」


ミナトさんが代表して質問してきた。


「 はい、期待以上でしたよ。カエン様にも楽しんでもらえそうですし、村の皆で遊びにいくのもいいと思いますよ。

天ぷらはシンプルな料理なので、本来のワカサギ釣りと同じように数人でグループを作って、釣ったその場で揚げて食べるのがオススメです 」


家族や友人同士で楽しんでもらえればいい。

一応高温の油を使用するので、全く料理が出来なそうな独身男達には、料理上手な女性達が補助につくべきだろう。


お針子修行中の若いお嬢さんと一緒にワカサギ釣りって、婚活パーティーか……

若干ずれているぞ、目的が。


「 それもいいな、皆喜ぶだろう 」


ミナトさんはクールな表情でそう言うが、しっぽが物凄く揺れている。

そんなに楽しみですか?ワカサギ釣り。


美波の視線に気付いたのか、照れくさそうに説明された。


「 すまん、美波。実は釣りが好きなんだよ。

冬以外は川で楽しめるんだが、氷の上でやる魚釣りだろう?しかも酒のつまみになりそうじゃないか。

楽しみでなぁ 」


そういうことですか。

確かにテンションも上がりますね、釣り好きは。


「 確かにお酒にも合いそうですよね。ワインとか持って行きましょうか、あんまり酔っ払うと帰りが危なそうですけどね 」


クロやミチル、ユーリも他の村人達に囲まれて質問責めにあっている。

この分だと、すぐにでも村人総出でワカサギ釣りをする事になりそうである。



その時、遠くからギャオーンという咆哮が聞こえてきた。空気をビリビリさせるような、強大な力を感じさせる声だ。


「 カエンだ!カエンが来たぞー!」


ユーリはそう叫んで、広場へ向けて走り出す。


「 今の、ドラゴンの声ですか?凄い迫力 」


「そうみたいだな、初めて聞いたよ 」


隣に立つミナトさんと見上げると、遠くの空に紅い点が見えてきた。


「 行ってみましょう!」


ほぼ全ての村人が待ち構える広場に、程なく巨大な真紅のドラゴンが舞い降りた。

ユーリは着陸前に駆け出して、力一杯ジャンプしてドラゴンの首に抱きついている。


一頻りグリグリとなついたユーリが飛び降りると、ドラゴンは見る間に人型に姿を変えた。

カエン様は、その名の通りの真紅の髪と瞳を持つ美丈夫だった。

身長は二メートル位、コクガ様よりは少し細身だが全身に実戦向きの筋肉を纏っている。

顔立ちはご両親の良いところを受け継いだらしく、やや甘めのフェロモン垂れ流し系いい男である。


彼がモデルの唇に口紅を塗り、キスをするCMなんか流された日には、心臓を撃ち抜かれた乙女達がこぞってその口紅を購入してしまいそうだ。

しかもこの場合の乙女は下は中学生位から、上はおばあちゃんまでを指す。


そのくらいの威力なのだ。

分かりにくい?いや、女子なら分かってくれるはず。多分……


「 久し振りだな、ユーリ。会いたかったよ 」


おぅ、何という事でしょう……

声までいい男です。


村の女性達は一人残らずうっとりしている。

もちろん、美波も。


「 俺も会いたかった!久し振りだなぁ、カエン 」


ユーリはカエン様に抱きついて、クルクル回されている。

遠恋中の恋人同士か?


「 突然すまないな、ミチルはいるか?両親から布を預かってきたんだ 」


カエン様はユーリを降ろして、傍らの大きな箱から頑丈そうな鞄を取り出した。


「 はい、私がミチルです。わざわざありがとうございます。確かにお預かり致します 」


大切な布は、ミチルの手に渡された。


「 頼むよ、母上の入れ込みようは鬼気迫るものがあったからな。今回の運搬役も必死にもぎ取ったんだ。ドレスが出来上がったら本人が取りに来るから、よろしくな 」


その時、人垣の向こうからシロガネ様が現れた。


「 ようこそいらっしゃいました、カエン様。

小さな村ですが、出来る限りのおもてなしをさせていただきますので、お寛ぎ下さい 」


「 ありがとう、休暇をもぎ取ってきたから何日か滞在させてもらっても良いだろうか。

自分の分の酒は持ってきたんだ 」


泊まるんですね!さすが親子です!


出来たら前もって連絡して下さいー!


やけに大きな箱には、お酒が入ってるんですね!


「 勿論です、歓迎いたしますよ 」


シロガネ様は冷静だ。今回はちょっと予想していたのかも……


その時カエン様が美波の方を向いた。


キャー!目があったー!

慌てすぎである。


「 君が美波か、噂は色々聞いている。よろしくな」


「 はっ、はい。こちらこそよろしくお願い致します!」


挨拶するのがやっとである。

カエン様に残念ポイントがあることを祈るばかりだ。見た目を裏切るガッカリ感がない限り、慣れるまでにかなり時間がかかりそうだ。


「 美波、何か昼ごはん作ってくれよ。

カエン、出来るまで村の中を案内するから、遊ぼうぜ! イチオシはこのジェットコースターだ!」


ユーリ!軽く言うなー!相手は一国の軍のトップだぞ、下拵えも何もしていないのに!


今日あたり来るかもとは聞いていたが、確証がないのに料理を仕込むわけにもいかないのだ。

一気にザワザワする女性達と共に、美波は短時間で美味しいご飯を作るべく、公民館にダッシュしたのだった。

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