お見送り
人数が増えたので、公民館で朝食をとることになった。各自で挟むサンドイッチは大好評で、ドラゴンの番はお互いに作った物を、あーんしたりしていた。
食後に熱々のミントティーを飲みつつ、今後の予定を確認する。
ソウキ様はドレスの完成を春まで待てないそうなので、後日ドレス用の布を持ってくるらしい。
完成したらその時も取りに来るそうだ。
雪道の不便さも、ドラゴンには無関係だ。
仕上がったらすぐに小鳥を飛ばす事を約束しましたよ、しっかりと。
「 あまり頻繁に来ると、レオンや他の若いドラゴン達が煩いだろうな。既にずるいずるいと駄々をこねる奴も要るからな 」
コクガ様、そんな事を言いつつ奥様のドレスの為には飛んできちゃうんですよね!
「 そうですよ、コクガ様。我が君も顔を合わせる度にずるいずるいと……
今回も干し柿を物凄く楽しみにしていらっしゃるんです 」
「 じゃあ、次は他のドラゴンが来ればいいじゃん。俺、久し振りにカエンに会いたいな 」
ユーリがコクガ様に飛び付いて、背中側から抱きついている。
だいぶ慣れてきたが、やはりスゴイ奴だ……
「そうだな、カエンも会いたがっていたぞ。今回も一緒に行きたいとゴネていたからな、邪魔だから置いてきたが 」
ローザ様が耳打ちしてくれたのだが、カエン様はお二人の息子さんで真紅のドラゴンさんらしい。
ドラゴン部隊の隊長をしているそうな、ついでに子供の頃のユーリの遊び相手をしていた、面倒見の良いお兄さんらしい。
「 隊長がお城を空けても大丈夫なんですか?」
「 それは大丈夫なのよ、副隊長もいるしね。
そもそも、有事なんて記憶にある限り起きていないし。今回もお二人が夫婦だけで来たかったから、カエンはお留守番だったのよ 」
なるほど、確かにこの世界は平和だ。
最強部隊であるドラゴン部隊が、実際に出動する機会はないはずだ。いざという時のため、日々の訓練は怠らないのだろう。
「 そうなんですか。何だかこの村が一大観光地というか、新規オープンしたテーマパークみたいな扱われ方になってますね 」
テーマパークって何?と聞かれた美波が、雪のジェットコースターの様な物が沢山ある場所だと説明すると、ローザ様の目がキラリと輝いた。
ちょっとイヤな予感がします……
王都に遊園地建設とか、無理ですからね!
いや、フラグではありませんよ!断じて!
「 まぁ、それはともかく。この村が話題になっているのは間違いないわね、今回ドレスと干し柿を持ち帰れば、更に過熱するでしょう。
美波にも早いうちに王都に来て欲しいところだわ。
我が君から招待状が届く日も、近いかもしれないわ」
ニッコリ笑ってとんでもない事を告げるローザ様に、美波は青ざめた。
王都で国王とご対面って、そんなイベントはいりません。せめてもう少しこの世界に馴染んでからにして欲しいところです、出来たら百年後位で!
「 いえ、それは…そんな事になったら、緊張しすぎて倒れそうですよ。私、元の世界では一般庶民でしたからね。そんな国王陛下からご招待とか、考えたこともありませんよ 」
無理もない、例えるなら突然イギリス王室だとか、ホワイトハウスから招待状が届くようなものだ。しかも大勢の内の一人ではなく、ピンポイントのご指名である。
普通の人は喜ぶよりもうろたえるはずだ。
ユーリみたいな強者なら楽しんでしまいそうだが…
「招待の話が出たら、正式に打診する前にきちんと相談するわよ。非公式という手もあるし。
どちらにしても、なるべく早く会見の機会を作らないと、お忍びでこの村に来る可能性が高いわね 」
なんということでしょう……
どちらにしても、避けられないようです。
これは真剣に、一番ダメージの少ない方法を考えなくてはいけないかもしれない。
美波が一人で悩んでいる間に、女性二人はソリツアー第二段に出掛けてしまった。
コクガ様も村の農業担当と、ビニールハウスに行ってしまったようだ。
「 美波、大丈夫か?」
シロガネ様に声をかけられて、我にかえる。
「 えぇ、大丈夫です。先程ローザ様から国王陛下とお会いすることになるかもと聞かされて、びっくりしてしまって。
シロガネ様、お忍びで村に来られるよりは、こちらから伺う方が色々な人へのダメージは少ないですよね 」
警備の人や村の皆の準備等を考えると、頭が痛くなる。
「 そんなに大袈裟に考えることはないと思うぞ。
国王陛下はご自分で視察に出られる事も多いし、それによって国民の生活を知り、政策を決定されているんだ。
まぁ、それでもこんな小さな村には、普通はいらっしゃらないがね 」
シロガネ様は余裕の笑みである。流石は最高齢の村の長だ。
「 うー。それでもやはり緊張します…本当に話が出たら相談させて下さい。
一人では決められないと思います 」
「 構わないよ。年長者は若者を導くのが仕事だからな。まぁ、なるようになるさ。気楽に考えなさい 」
悩んでもどうにかなる訳ではない。
シロガネ様の言う通りだ。
お礼を言って、公民館を後にする。
三人が王都に戻る前に、お土産として着替え五点セットを量産するのだ。
意外と好評だったので、他のドラゴンさんやエルフさんに、プレゼントしようという訳だ。
サイズは三人を参考にし、エルフの男性はユーリのサイズで作る事になっている。
コクガ様は、他のドラゴンの男性より少し背が高く大柄らしいが、着られない事はないそうだ。
形は同じで、色違いを大量生産しようと考えている
。お昼ご飯を食べてから王都に帰る予定なので、それまでに出来るだけ沢山作るつもりだ。
王都で出回っている服と違い、見慣れないデザインで未知の素材ではあるが、あくまでお土産なので一人に一セットだ。仕立て屋さんを困らせる事にはならないだろう。
お昼ご飯を皆で食べた後、前回よりは小さめの輸送BOXにお土産を詰め込んでお見送りする。
「 干し柿をもらいに来たのに、他にも沢山もらってしまって悪かったな。皆に配るよ、ありがとう 」
「 ミチル、ドレス楽しみにしてるわ。布はなるべく早く届けるわね 」
ドラゴン化したお二人は、今日もとても美しい。
昼を過ぎて少し強くなった雪が、キラキラした鱗の上を滑り落ちていく。
「皆さん、ありがとう。干し柿は我が君にも召し上がっていただくわ。
美波もありがとう、お土産は皆に配るわね 」
別れの挨拶を交わしドラゴンは空へ舞い上がった。
その姿が小さくなるまで見送り、村人達はそれぞれの日常に帰っていった。




