ソリは町へ
ミチルの家を出た美波は、干し柿小屋へ向かった。そろそろコザクラ町への出発準備が出来ている頃だ。
「ミナトさん、ローザ様への手紙は出してきました。誰が行くか決まりましたか?」
「あぁ、決まったよ。長距離だから念のため四人で行ってくるよ。私と、イツキの所の若いのが二人にミノリだ。あとはユーリも乗っていくらしい、美波も行くか?」
折角のお誘いだが、遠慮しておくことにした。コザクラ町まで馬車で一時間半、ソリならもっとスピードが出るので、予定では一時間弱で到着するらしい。
しかしソリである。風避けもないソリで猛スピードで走る一時間……
耐えられる気がしない。多分滅茶苦茶に飛ばすはずだ。
「折角ですが、寒さに耐えられないと思うので遠慮しておきます。フェラリーデ様によろしくお伝え下さい。あと、出来たらレンガとシールの感想も聞いてきてもらえますか?こちらでは問題ないので、多分大丈夫だとは思うんですが」
ミナトさんは笑って了承してくれた。
しかし、このソリを冬場の長距離移動に使うなら、屋根をつける事も考えた方が良いかもしれない。流線型の屋根なら空気抵抗もなく、スピードも出せそうだ。
一体何を作るつもりなのか、それは最早犬ゾリではないだろう……
暫くして、出発準備が整ったようだ。
大型の狼達はハーネスを着けて、やる気満々だ。
「じゃあ、行ってくるね。お昼には着くはずだから、荷物を渡してお昼食べて、何かお土産買ってくるね」
緊張感の欠片もないユーリを乗せて、ソリはレンガの道を避けて村の入口まで進む。
「では行ってくる。夕方までには戻るよ」
ミナトさんの合図で、ソリは走り出した。
あっという間に見えなくなるソリを、村人達が見守っている。
「さぁ、みんな!仕事に戻るぞ!」
イツキさんの言葉に、ゾロゾロとそれぞれの持ち場へ戻っていく。
本日は、協同作業日なのだ。
女性達は洋裁、木工担当は若手の指導、その他の村人はビーズの穴開け作業である。
子供達は今日も雪遊びなので、大人達が交替で一人付き添うことになっている。
美波は今日はルリさんと打ち合わせだ。エンジンの開発に取り掛かるのだ。
まぁ、エンジンといっても、人工魔石を使って車輪を動かす動力にしようという事なのだが。
利用する対象は、畑で収穫した作物などを運ぶ小型の荷車、そして車椅子だ。
前者は獣人にはあまり必要ないが、美波が自宅でレンガなどを作った時に、自力で倉庫まで運ぶのに便利かも、という事で作ってみる事にした。
みんな頼めば運んでくれるのだが、忙しいときもあるし申し訳ない。
そして荷車として使わない時は、子供達を乗せて遊べるし。むしろこちらの方が目的なんじゃないかと疑わしいところだが、便利には違いない。
実用化出来そうなら、人間の住む村で使ってもらうのも良いだろう。
更に、自動車への転用も可能かもしれない。
後者は、コザクラ町へ行ったときに気になっていたのだ。足の不自由なお年寄りが、お祭りの時に杖をついて支えられて歩いているのを何度か見掛けたのだ。
美波の能力は老化現象には効果がない、車椅子があれば本人も周囲の人も楽になるのではと思い、作ってみる事にしたのだ。
因みにこちらには車椅子自体がないらしい。
ルリさんとの待ち合わせは学校だ、ここのホワイトボードが一番大きいのだ。
「美波、待ってたぞ。始めよう」
ルリさんは、準備万端で待ち構えていた。
新しい技術の開発が楽しくて仕方ないようだ。
「よろしくお願いします、ルリさん」
まずは大まかなイラストで、車輪に動力を伝えて動かす事、ハンドルと車輪を連動させて操作する事を説明する。
「なるほど、私はこの車輪を動かす魔方陣を書けばいいんだな。あとは、動かしたり止めたりをスムーズに行えるようにする事か。
美波、これはイツキさんも呼んできた方が良くないか?この車輪と連動するハンドルは、木工職人じゃないと無理だろう」
「確かにそうですね、小型の模型も必要でしょうし…
手が空いてなかったら難しいかもしれませんが、お願いしてきますね」
結論から言うと心配は無用だった。若手の指導を出来るベテランは数人いるので、美波は逆にイツキさんに引っ張られるようにして戻ってきた。
「なるほど、面白いな」
ホワイトボードに描かれたイラストを見ながら、イツキさんは顎に手をやり楽しそうだ。
「私も仕組みをきちんと理解している訳ではないんです。こんな情報量で大丈夫ですか?」
任せとけ!と、イツキさんはさっそく試作品を作る為に木工工房へ戻って行った。
車輪そのものは既にあるので、ハンドルとの連動がクリア出来ればOKらしい。
試作品は子供が乗れる位のサイズになるそうだ。因みにこの場合の子供には美波も含まれる、小さいですからね……ナギより小さいですよ……
まずは荷車を作り、完成したら車椅子に取り掛かる。車椅子の方はレバーで操作する事になるだろう。
この日の夕方、コザクラ町から戻ってきたユーリは子供達にキャンディーをプレゼントしていた。
フェラリーデ様からは、ハクロウ村への丁重なお礼の言葉を頂き、レンガとシールも問題なく役立っているようだ。
狼達の牽くソリは、片道一時間という記録を打ち立て、更なる短縮も近いだろう。




