自動荷車の試運転
ちょっと遅くなりました。
いつも読んでいただいて、ありがとうございます!
そして三日後、自動荷車の試作第一号が出来上がった。イツキさん達は、休日返上で作ってくれたらしい。
試運転は学校で行う。参加するのはイツキさん、ルリさん、ミナトさん、そして美波だ。
村人達に知られると大騒ぎになりそうなので、実用化まではひっそりと行う事になった。
もっとも大半の村人は休日の今日、広場で更に巨大なすべり台、いや最早ジェットコースターと言っていいだろう代物の建設に夢中だ。
二日前から作り始めたソレは、高さ七メートル超えで、全長十メートル位の巨大アトラクションと化しているのだ。
一つ目のすべり台が可愛らしく見える、とんでもない代物である。
美波は絶対にやらないと、完成前から心に決めている。
そんな訳で、ひっそりと試運転は始まった。
「美波、動かしてみてくれ」
座席に座り、右手にあるボタンを押す。
これで動力の人工魔石が起動する。アクセルとブレーキを確認してハンドルを握り、アクセルを踏み込む。
「おーっ!動いた!どうだ美波、曲がれるか?」
イツキさんの指示でハンドルを切る、ゆっくりと右に曲がった。
スピードは歩くのと同じくらいだが、確かに動力を使って動いている。
「成功ですね、ブレーキもちゃんと効いています。小さいけど立派な自動車ですよ!」
いい大人が手をとりあって喜んでいる。無理もないだろう、今までは馬が牽いたり人が押したりしていたものが、ボタン一つで動くのだから。
「よし、じゃあ耐久性を上げて、大型の荷車を作ろう」
「イツキさん、自分の仕事に支障が出ませんか?」
心配になって美波が聞くと、ワシワシと頭を撫でられた。
「大丈夫だ。今年は雪かきの分の時間があるし、こんな面白い事やらなくてどうする!
見習いも良い勉強になるし、みんなで作るさ」
どうやら近い内に、自動荷車実用版の一号車が出来上がりそうだ。
「車椅子の方はハンドルをレバーにして、アクセルとブレーキをそれに連動させるんだよな。
そっちもすぐに取り掛かるぞ」
車椅子のレバーは十字の上下左右で方向を決めて、中央で停止するように作る。バックも出来る優れものだ。
因みに荷車も、車輪を逆回転させるボタンがあるのでバック可だ。
「出来上がったら、車輪をゴムで包み込んで強化しますね」
サスペンションは未開発なので、馬車と同じくゴムで揺れ対策をとるつもりである。
本格的に長距離を走る自動車を作るなら必須の
パーツだと思うが、今のところは無くても大丈夫だろう。
美波も何となく知っている程度なので、再現するのは難しそうだが、いざという時は王都の学者さん達を頼るのもアリだろう。
「特に車椅子の方は実用化出来ると良いですね。
道が整備されている事が条件ですけど、行動範囲が広がるのは良いことです」
「そうだな、美波。実現すれば福祉系の事業になるから、王都の主導で量産化されるはずだ。
アイデア料をしっかり頂いて、次のアイデアを形にする時の資金にすると良い」
ルリさんが物凄く現実的な意見を言う。
美波としては今の状況、毎日ご飯が食べられて住む所があり、時々ちょっと贅沢出来る生活で充分満足なので、お金を貰うという発想がなかった。
最初にハクロウ村の為に出した、お祭りで販売した物に関するアイデア以外は、お金とは関係ないと思っていたのだ。
実際、試作品のレンガとシールや防寒具は、無料で提供している。
「美波が無欲なのは分かってるが、レンガとシールみたいにお前さんが一人で作れる物以外は、貰っておくべきだと思うぞ。
アイデアを利用する事で、誰かの仕事が増えて役に立つんだ。暴利を貪れとは言わないが、ちょっとは貰っとけ。
それでルリの言うように、次の為の資金にしたら良い」
イツキさんも同じ意見のようだ。
美波も聖人ではないので、元の世界ならきっちり特許を取得して儲けていただろう。
今は生活の不安が全く無いので、お金に関する執着も薄くなっているらしい。
自覚していなかったようだが…
「確かにそうですね。お金はあって困るものじゃないですし、例えば何処かに寄付したり、自費で何かを作っても良いって事ですもんね」
「そういう事だ。ミナトに任せておけば全部良いようにしてくれるさ。腹黒いからな」
ミナトさんは腹黒くはないと思うけれど、頼りになる事は間違いないので、美波もその意見には賛成だ。
「はい。ちゃんと相談します、よろしくお願いしますね、ミナトさん。
お二人も、また何か作るときは協力して下さいね。頼りにしてます」
「誰が腹黒いんだ、出来る男と言ってくれ。
まぁ、美波のサポートは任せてくれ。皆にとって最善になるよう心掛けよう」
ミナトさんは苦笑いしつつ 協力を約束してくれた。もちろんイツキさんとルリさんも。この調子なら春には自動荷車と自動車椅子が、ついでにもしかすると自動車や自動バギーなんかも完成するだろう。
冬はまだ始まったばかり、時間はたっぷりあるのだから……




